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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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後日談 労いましょう、祝いましょう その1

「――そんじゃ。ランサ様とリーレイ様のご結婚、それに支援協定の諸々で俺らもやり切ったってわけで。乾杯っ!」


「「かんぱーい!」」


 ワッと歓声が上がり、全員がその手に持つグラスを空へ高く掲げる。拍子に中の液体が零れているものもあるがお構いなしだ。

 そんな事も気にならない程に、どいつも湧きたっている。もっと言えば浮かれている。


 普段ならそれは咎める事なのだが、今回は口にしないようにする。

 視界に映るヴィルドも同じようで、グラスに口をつけている。


 ロンザの音頭で始まった、結婚祝いと慰労会を兼ねたこの宴。

 慰労会でもあるので俺が騎士達を労おうと思っていたのだが、「ランサ様は主役ですから!」とロンザに主役席に戻された。納得できない。これは慰労会だろう。


「将軍! リーレイ様。ご結婚おめでとうございます!」


「あぁ。ありがとう。お前達も先の件ではよくやってくれた」


「いえいえいえ! それもリーレイ様のおかげです。さすがランサ様の奥方!」


「そうだろう?」


 直属隊騎士からの賞賛の言葉には俺も口角が上がる。

 俺の隣からは「そんな大したことは……」と謙遜するリーレイの言葉が聞こえるが、リーレイはもっと自信をもっていい。


 俺の母も、万が一の時の為に辺境騎士団とは交流をもっていた。その様子は俺も時に見ていた。

 交流は問題ないように見えたが、リーレイを見てしまうと、やはり母上の生まれながらの貴族令嬢という空気が気遣いや遠慮を生んでいたようにも思える。それは悪い事ではなく、寧ろ、平民が多い直属隊では当然のものだった。そういう事があっても大きな問題はなく代理者は務められただろう。


 リーレイは自分が馬を駆り、剣を使えるから、自分が何か動くべきだと思っている節があるが全くそんな必要はない。

 動く事は勿論、出来ればそれは良い。しかしそれは騎士達にも出来る事であり、言うなれば『将軍』の代理には、もっと大事な事がある。


 ただそこにいる。緊急危機的状況の中、騎士達の平常を保てるというのは、誰にでもできることではないのだ。

 信頼。実力。求心力。些細な事から積み重ねた行いが、リーレイにそれを可能にさせている。


「にしても変な感じです。ランサ様が普段から妻妻言ってるんで……ん? もうとうに結婚してましたよね?」


「面倒な手続きが後まわしだっただけだからな」


「ランサっ……!」


 リーレイが恥ずかしがっているように俺の腕を掴む。そんな様子も微笑ましい。

 俺とリーレイを見て騎士達も笑っている。


 騎士達はそれぞれ代わる代わる挨拶に来て、俺も全員を労う。

 貴族が行うような社交とは違うこういう宴は、俺も気楽で過ごしやすい。


 今回の宴の会場は砦の鍛錬場だ。宴と言っても外にテーブルを出し、その上に食事や飲み物を置いてあるだけの簡易的なもの。

 国境で何かが起これば俺達はすぐに赴く。なので酒類は出さない。出してしまうと祝いの空気に流されかねない。……そんな事をする者はいないが念の為だ。


 こういう宴を開くことは偶にある。それこそ『将軍』の結婚や、戦が終わった時など。

 だから、今回の宴も特に異論はなかった。


 ……ただ一点を除いては。






 ♢*♢*




 この宴を開催する事は、驚くことにリーレイからの提案だった。

 日取りを決め直した結婚式の準備や領地の仕事、それらをこなしていたリーレイが砦に来てくれたある日、俺はこの話をされたのだ。


「――慰労会に宴を?」


「うん。そういう事はこれまでにもしてるんだよね? ディーゴやロンザさんにも聞いたんだけど」


「確かに、父上が現役だった頃やカランサ国との戦の後にした事があるし、俺も参加したが……」


 行ったのはすでに五年ほど前で、それ以降、つまり俺が『将軍』となってからはしていない。それだけ日々が平穏に過ぎていたと思えばいい事だ。だが、支援協定で起こった事を考えれば、リーレイの発案はおかしくはない。

 それに、辺境騎士団や過去の事も勉強していること、騎士達とも色んな話をしている事。それらを思えば嬉しいものだ。


 丁度昼食の時で、リーレイと食堂で食事を摂りながら俺は考える。

 リーレイの隣ではヴァンがもしゃもしゃと食事をしている。……バールートもよく食べるがヴァンも負けないな。


 俺も今回は皆に国境の事を託していた。俺や国を想いよく行動してくれた事は戻ってからも言葉で労ったが、宴をするのもいいかもしれない。

 そう思う俺を見て、リーレイは少し言いづらそうにしてから、俺を見て恐る恐る口を開いた。


「その……皆さんには、ランサがいなかった時に、やりましょうって言っちゃってて」


 ……それはあれか。思い当たる事が俺にもある。

 イーガネンツェ伯爵を捕えた後、ヴァンがローレン殿下に言っていた話だ。


 あの時は疑問しかなかったのだが、問い詰める事ではないかと思って聞いていない。騎士達からの報告にもそんな話はなかった。

 思い出しながら、俺はリーレイを見た。俺の視線にリーレイは「実は……」と白状した。


 心なしか同じように食事をしている騎士達が静かにこちらの様子を窺っている気配を感じたが、リーレイを優先することにする。


「皆さんの緊張や焦燥、不安を少しでも抜かないとと思って、それで、全部終わったら慰労会をしようって言ったの」


「うん」


「それでその……剣の試合を余興にしようって話して。相手はランサにしてもらおうって」


「うん。……うん?」


「ちなみにお嬢も参加する気満々なんで楽しい試合になると思います。頑張ってください」


「ちょっと待て」


 ………こちらを窺っていた騎士達の目がどいつも期待するようなものになった理由が分かった。

 そして同時に、リーレイが騎士達の力を抜いた理由も、信頼される理由も、嫌と言うほど痛感した。


 俺の婚約者は逞しすぎないだろうか? どこに婚約者と試合をしたがる令嬢がいるのか。それに乗る男はいるのか? 俺は無理だ。


 辺境騎士団は強者を好む。直属隊だろうが国境警備隊だろうがそれは共通している。

 そんな騎士達に『将軍』との試合機会の提供などすれば喜ぶに決まっているし、それを見据えて気持ちが切り替わるのも当然。加えて、『将軍』に挑もうという者にも自分達と似た想いを感じ仲間意識が芽生える。

 リーレイは俺の婚約者としてではなく、ただ一人の騎士として、騎士達の信用を得ているのだ。


 ……敵わないな。いつだってリーレイは自分のままで駆け進んでいく。

 惹かれて。惚れて。仕方ない。


「……そうだな。とりあえず、騎士全員とその場でというのは時間と体力的に難しいな。何人か選んで宴で余興として行い、他の者にも通常鍛錬で試合の機会をつくろう。希望者は試合できるようにする」


 希望しない者がいるのか……。考えて頭を抱えたくなるが、これも騎士の鍛錬の一環だ。

 慕われている事を喜ぶべきか、慄くべきか。背中の冷や汗の正体は考えない事にする。


 リーレイはホッとしたような顔をして、しかし窺うように俺を見る。


「……私も、いい?」


「…………やるのか?」


「ほらお嬢。やっぱりランサ様イヤですって」


 ……リーレイ。そんなシュンとした顔をしないでくれ。


 可愛い仕草なのだが、こればかりは俺も喜んで受けられない。

 リーレイに怪我をさせたくない。髪一本切りたくない。リーレイに刃を向けるなど例え鍛錬であってもしたくない。


「いいじゃないですか、ランサ様。リーレイ様ももう俺らみたいな騎士ですよ?」


「リーレイは俺の妻であって、俺の騎士じゃない。俺がリーレイの騎士なんだ」


「妻を守る騎士……格好いいですねえ。でも一戦くらい」


「お前は妻に刃を向けたいか?」


「でもほら。本人やる気ですし!」


「リーレイはどんな事にも全力で頑張る。そこが長所でもあるが、心配なところでもある」


 そう言うとリーレイは少し目を泳がせる。少しは自覚があるんだろうが、無いと言えない様子が素直で宜しい。

 それに、騎士達もリーレイの援護をする。それもまた好ましい。


「だが確かに、リーレイも国の為尽力してくれた。何か要望があればぜひ聞きたい。俺との試合以外なら……そうだな。リーレイが打ち込んでくるのに対し俺が受けるだけというなら、ギリギリ……。他にも、宝石でもドレスでも、結婚式を早めるでも、籍だけ先に入れるでも」


「……後半、ランサ様の願望じゃね?」


「言えるなら言ってこい」


 何やらこそこそと聞こえるがまぁいいだろう。


 そう判断し俺はリーレイを見る。少し驚いた顔をして、そして悩まし気に考える。

 食事の手も止まって真剣に考える様子に、俺も手を止めて、そんなリーレイをじっと見つめる。


「打ち込み……でも打ち合いも……。うーん……試合したいし……でもっ…」


 やはり剣に関する事が一番なようだ。思わず笑ってしまうが、ヴァンはやれやれというようにため息を吐いた。

 考えが口に出ているリーレイには、騎士達もクスリと笑っている。


 と、リーレイがハッと何か思いついたように顔を上げた。


「じゃあ、ランサ。弓を教えて!」


「弓……?」


「うん。私、剣は出来るけど弓はした事ないから。ヴァンに教えてもらおうと思ってたんだけど、道具がいるでしょう? 剣と弓が出来れば無理に相手に近づくこともないかもしれないし。それならほら……あんまりランサを心配させないかなって……」


 リーレイが並べる言葉に、俺も、騎士達も、完全に面食らってキョトンとなった。

 が、すぐにどうしようもなく笑いが込み上げてしまう。


 ハハハッと声に出れば止まることがなく、騎士達も同じように笑い、腹を抱えている者もいる。


「なんで笑うの……?」


「お嬢。もう騎士になったらどうです? ご褒美が弓の指導って……。剣がダメなら弓って発想がもう、俗に言う貴族令嬢や夫人からかけ離れてます」


「うっ……。辺境伯の婚約者らしいと言って……!」


 羞恥を覚えたのか精一杯の虚勢でみせて言うが説得力はない。


 まさか、リーレイが弓を習う気でいたとは思わなかった。剣で十分なのかと。

 ここで言わなければリーレイは別の日に俺に頼んでいたのだろうか。そう思うとまたおかしい。


 しかし、褒美としてねだられた以上、俺は断る事は出来ない。

 笑いを堪えながら、何とかリーレイに頷いた。


「分かった。ただ、休日に教える事になるが、それでもいいか?」


「うんっ!」


 笑顔で頷いてくれた事は嬉しいが、リーレイが俺との試合を狙っていた事は少々困るものだった。






 ♢*♢*




『それなら、ランサ様とリーレイ様の結婚祝いもやりましょうよ』


 そう言ったバールートの発案で、慰労会と同時開催ということになった。時期の調整が難しく結局結婚式が終わってからとなったが、それでもと皆は喜んでくれた。


 辺境騎士団全員が参加するというのは少々難しい。各見張り場でも警備は重要だ。

 砦でも交代で参加できるようにし、見張り場で休みの者も参加している。今日警備の者には後日改めてリーレイと共に差し入れを持っていくことにしている。


 まだリーレイに弓を教える時間はとれていないが、リーレイがそれから俺との試合を望む事は言っていない。


 代わりに俺は、試合希望者の山に頭を悩まされた。

 なんでも、すでに順番まで勝手に決め始めていたらしく、抽選で序盤試合を勝ち取った者から涙ながらの訴えが続出しているのだ。「せっかく勝ち取ったのにぃ」と涙目で言われてどうしろというのか。

 俺は騎士達をこんな風に育てたのだろうかと、一瞬真剣に教育方針を間違えたのかと考えてしまった。


 しかし俺も団長であり『将軍』だ。

 希望者と話をし、なんとか宴での余興参加者を決定した。






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