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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
結婚編

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216,これからも共に

 ♦*♦*




 さほど多くない招待客が一堂に会し、その時を待つ。

 その扉が開けられ、俺の最愛の人がやって来る、その時を。


 招待客が静まり、がちゃりと扉が開く。

 そこに見えた、白い衣装に身を包んだリーレイ。ツェシャ領の中心街ツァットの衣裳店が誂えてくれたドレスは質が良く、裾がふわりと広がっている。広がる生地には白い糸で繊細な刺繍が施され、その柄は大輪の花。ベールの下に表情は隠されているが、俺をまっすぐ見つめているのが視線から感じられた。


 あぁ――そう。リーレイは、そういう女性だ。

 いつもまっすぐ、俺を見つめてくれる。


 ゆっくり、ゆっくり、リーレイがやって来る。送り届けるのは父のディルク殿。

 凛とした二人には招待客も静かに感嘆の息をこぼし、けれどやはり、どこか恥じらうようなリーレイの様子に笑みがこぼれている。


 俺の元へやって来たリーレイは、父の腕から、俺の腕に。

 その瞬間、ディルク殿と目が合った。


 ――リーレイを、頼む。


 王都のリーレイの家で言われた時は、ディルク殿も不安を抱いていただろう。だが今のその目は、確かな意思がある。

 それを感じ、俺は側のぬくもりを意識した。


 ……本当に、この親子は似ている。


 だからこそ、しかとその目を見つめ返す。


 俺のできうる限りで、リーレイを守る。共に戦い、支え合う。日々のささやかな幸せを、いつまでも――


 その決意を伝えるつもりで見つめれば、ディルク殿が小さく瞳を揺らし、小さく頷いた。


 正面に向きなおる俺たちの前では、ステンドグラスが日の光を受けて煌めいている。それを見ながら、俺とリーレイは誓いをたてる。


 病める時も。健やかなる時。隣のこの人を愛する事を。

 この地が担う役目で辛い時も。戦う時も。隣のこの人と共に乗り越え、笑顔で過ごす事を。


 そっとベールを除けて見えたリーレイの表情は、幸せそうで、少し照れくさそうで。だから俺も一段と幸せを感じる事ができる。


 色褪せない。想えば想うほど愛しさが増す。これからは笑い合うこともあれば喧嘩する事もあるかもしれない。

 だが、大切に想う気持ちは変わらない。


 忘れない。この想いを。決して。

 俺を支え、共に戦ってくれる、ただ唯一の女性。


「――愛してる。リーレイ」


「私も、愛してる」


 頬を染めて咲く花に、俺はこの想いを伝える口付けを贈った――






 ♦*♦*




 式は無事に終了した。

 その後にはささやかな宴を催して招待客の皆さんとの時間を過ごす。叔父様とランサ、それにギーデンヴェルク侯爵も交えてお話していたり、父様とガドゥン様が笑っていたり、シルビ様とおば様が同じ笑みを浮かべていたり。

 ランサの妹エデ様とも久方に再会した。とても喜んで祝ってくれて、ランサも終始嬉しそうだった。


 幸せな時間はあっという間に過ぎていった。


 そして夜。一日の疲労を感じてベッドに倒れこむ……なんて事にはならなかった。

 寝間着に身を包んで一人。身支度を終えたメイド達はそそっと部屋を出て行って、最初は明かりをつけていた部屋も、今は暗い。私が明かりを消したからだ。

 ……とにかく、心を落ち着けたかったのだけど。あまり効果はないかもしれない。暗くなった部屋の窓辺に椅子を持って行き、座ってそう思う。


 座っていても落ち着かなくて、結局部屋の中をぐるぐる動き回ってしまう。


 偶に眠れない時はあるけれど、私はベッドに入ればだいたいすぐに眠ってしまう。だけど、今日はそうはならないし、そうあってはいけない事も解ってる。

 待っていていつの間にか眠ってしまった……なんて事にならないのはいいかもしれないけれど……。


 とっても落ち着かなくしていると、がちゃりと寝室の扉が開けられた。


「ひゃっ」


 思わずそんな声が出てしまって、すぐに扉の方へ視線を向けた。

 だけど月明かりが僅か届かず視界は悪い。そんな中を近づいて来る影が一つ。


「何かあったか? そんな声を出して」


 そう言って、窺うような目で私を見るのは部屋着姿のランサだ。


「な……なにも…」


「そうか。ならいいんだが……。にしても、どうしてこんなに暗いんだ?」


 言いながらも困惑は声音に出ていないし、ランサはクスリと笑っている。そしてそのまま、月明かりが照らすベッドにゆったりと腰掛けた。

 私とは違って平然としているランサにどうにも近づきがたい。思わず視線を逸らしてしまった。


 部屋着をゆるく着ているランサの胸元がはだけているし、端正で精悍な容貌にかかる黒髪がさらりとこぼれている。暗い中でも見えるその白銀の瞳は優しくて甘い。

 普段は威風と堂々たる様なのに、こんな姿を見せられると、ちょっと心臓に悪い。


 何か言わないとと思うけど口は動いてくれない。


「リーレイ。こっちにおいで」


 手招いてくれるのは嬉しい。嬉しい……から、てけてけと近づいて、私もベッドに腰掛けた。少しだけ距離を開けてしまうのはやっぱり恥ずかしいと思うからだ。


「今日は疲れただろう」


「うん。でも沢山お祝いしていただけて、嬉しかった」


「俺もだ。だが、ティウィル公爵に、リーレイを傷つけたら許さないと、それはもう圧を貰ったことだけはあまり喜べないな。渡り合えるギーデンヴェルク侯爵に俺は及びそうにない」


 姪として少々申し訳ないけれど、ランサは叔父様の想いを解ってくれている。それには安心できる。

 それに、普段通りの会話には少し緊張も解ける。


 思い出しながら笑うランサに、私も宴での事を思い起こした。


「エデ様もとっても喜んでくれてた。なんだか少し見ないうちに印象も変わったみたい」


「エデも母になったからな。昔から後ろをついてくる妹だったが、立派になってくれて嬉しい限りだ」


「ふふっ。妹はいつの間にか立派に育ってるから」


「そうだな」


 だけどやっぱり、いきなり変わりはしない。エデ様だってランサと話していれば妹の顔をしているから。

 ずっとこうなんだって、そう思えるから微笑ましくて。


「リーレイ」


「なに?」


 呼んでくれる声に釣られ、隣を見る。その目は私をまっすぐ見つめていた。

 ふわりと胸に満ちる言葉に出来ない程の感情が、心臓をドクンッと高鳴らせる。


「俺は時に、リーレイを選ばない。それでも共に居て欲しいと思っているし、リーレイが幸せを感じ笑顔でいられるよう力を尽くす。我儘な俺に君が愛想を尽かしても。もう、逃がさない。覚悟は良いか?」


 ――あぁ。心臓が煩い。その瞳が捕まえて放してくれない。

 だけど、私もランサをまっすぐ見つめ、精一杯の不敵な笑みを返す。


「――いいよ。時に私を選ばないランサが背負うものを、私も背負いたいから。それに、私は愛想を尽かしたらすぐに馬で駆けるからね」


「……逃げられるのは俺だけということか」


 小声だったけれどそれはちゃんと私の耳にも届いて、思わず笑ってしまった。

 ランサも一緒に笑って私の頬に手を添える。


「それは困るが、俺はそんなリーレイに惚れてしまったからな……。では、せめて俺達の子供は、勝手に駆け出してしまわないよう教育をしないとな」


 今度は私が面食らって。そんな私にランサは笑って口づけをくれる。

 そのままぽふんっとふかふかなベッドに倒れてしまって、思わず、迫るランサの胸に手を当ててしまった。


 頬の熱も。心臓の煩い高鳴りも。全部全部、私には頭が真っ白になるくらいの事態で。

 だから、口から出るのはあまりにも情けない言葉だ。


「ラ、ランサっ。待っ……私そのっ…」


「うん?」


「そのっ……昔から剣の鍛錬してたからその……綺麗じゃなくて……」


 言いながら顔に熱が集まる。

 ランサはそんな事に怒らない。分かってるのに、こんな事しか言えないくらい、いっぱいいっぱいだ。


 ランサは私を見つめて優しく笑みを浮かべると、いとも容易く寝間着の紐を解いた。


「リーレイは綺麗だ。――どうしても気になるなら、俺がこの目で確かめよう」


 そう言って触れた熱は、熱くて、それでも優しさに満ちていた。






 日々の習慣通りに目が覚める。


 いつもと違うのは少しの倦怠感が抜けていない事。そして眠る私の傍に座って本を読んでいるランサが居る事。


 ……駄目だな。恥ずかしい。

 ぽふんと掛布を頭からかぶり込むと、私の起床に気付いたのか、クスリと笑う声が聞こえた。


「おはよう、リーレイ。体は平気か?」


「……うん。おはよう」


 少し声が掠れているけれど、それくらいで体調に問題はない。


 ランサは朝の鍛錬も終えたのかもうすでに着替えている。相変わらず朝が早い。

 だけど、そんなランサがまだここにいるという事は、もしかして私は寝坊……?


 そんな事を思ってすぐ頭を出して窓を見るけれど、外は夜明け頃の様子。

 私の視線から考えに気付いたのか、ランサが安心させるように教えてくれた。


「普段通りだ。まだ眠いなら寝てても良いが?」


「ううん。大丈夫」


 ランサは結婚式の翌日だろうと仕事がある。それはちゃんと見送りたいと思ってるから。

 今日もまた一日が始まる。そう思えば意識もはっきりする。


 私の起床の意思を察したランサがすぐに呼び鈴を鳴らす。そしてそのまま部屋を出ようとして――


「リーレイ。今日は一段と綺麗だ」


「なっ……!」


 心の言葉をそのままさらりと言われ、朝から私は顔が熱くなった。






これにて、本編は完結となります。

ここまでお付き合いくださった皆様、本当に、ありがとうございます。


引き続き、ちょこっと番外編を書いていくつもりですので、ランサとリーレイのお話はまだ少し続きます。

ヴァンがティウィル公爵に引き取られた話とか、ヴィルドとランサの話とか、書けるといいなあ……と思ってはいるのですが、のんびりいこうかなと思っております。



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