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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
合同演習編

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120,初めましてです

「父上! おかえりなさいませ!」


 庭から駆けてくるのは二人の男の子。年長の子はもう一人の子の手を引いている。

 そんな二人を前に、シャルドゥカ様も目線を合わせるように膝を折った。


 シャルドゥカ様には三人のお子様がいる。それがこの子達だろう。

 年長の子は、シャルドゥカ様と同じ白い髪と青い瞳。もう一人の子は弟みたいで、白金色の髪と濃い青の瞳。二人は仲良く手を握り、小柄な弟らしい子は兄の後ろに隠れそう。

 微笑ましい姿には私も笑みが浮かぶ。


「ただいま、ユーティ。ザオ」


「今日はお客様が御一緒ですか?」


「うん。ほら、前に言っただろう? 僕と同じように国境を守るもう一家の辺境伯が来るよって」


「! じゃあ『闘将』の将軍様ですか!?」


 兄らしい子がパッと表情を明るくさせた。

 辺境伯家の子だからなのか、ランサの事には興味があるみたい。ヴァンは「おぉ」って他人事で感心している。我が事だと顔を歪めるもんね君は。


 表情を明るくさせていた兄らしい子は、キラキラとした表情のままその視線をヴァンに向け…てからランサを見た。


「将軍ですか!?」


「今なんで俺から逸らした?」


 ヴァン以外の私達は吹き出した。ヴァンだけは不服そうだけど。

 クツクツと喉を震わせるランサとシャルドゥカ様。笑いが止まらない父親を前に、子供はコテンと首を傾げている。

 そんな子供達を前に、ランサが笑みのままシャルドゥカ様の隣に膝を折った。


「あぁ。俺がツェシャ領を治める『将軍』ランサ・クンツェだ」


「わぁ! すごいです! 本当にお会いできるなんて! あっあのっ、剣を教えてください!」


「ユーティ。クンツェ辺境伯様を困らせてはいけません」


 興奮する子を前に、窘める女性の声が飛んだ。石畳の上をカツカツと歩いて来たその人に、私達の視線も向いた。


 さらりとした白金の長い髪を緩くまとめ、濃く深い青色の瞳が強さと優しさを浮かべて子供を見る。

 美麗なお姿に無意識に吐息をこぼした。綺麗な方…。子供をしかと諭す声はまさに母のもの。この方が…。


 窘められた子供、ユーティ君はシュンと眉を下げた。


「…すみません母上。将軍様も、すみませんでした」


「いや。…そうだな。時間ができれば教えてあげよう」


「! ありがとうございます!」


 シュンとなっていた表情がパッと明るく嬉しそうに戻った。そんな様子には私達も頬が緩む。

 兄の嬉しそうな表情に、弟君が「兄上?」って首を傾げている。自分の後ろに隠れるようにしている弟にユーティ君は笑みを向けた。


「ザオ。この方はすごい騎士様なんだ」


「父上よりも?」


「父上と同じくらい、すごい人なんだ」


「…そうなの?」


 コテンと首を傾げた子供に、シャルドゥカ様も大きく頷いた。そしてその頭にそっと手を置く。


「そうだよ。それに彼はとっても美しい人でね。父にとっても大事な友達なんだ」


「…そうなの?」


「……うん。まぁそうだな」


 …ランサ。普段なら顔を歪めて「何を言っている」とでも言うだろうに、今は子供の為に頷いた。そんな様子にヴァンがケラケラと笑って、シャルドゥカ様は「胸に響くっ…」ってとても嬉しそう。

 そんな二人に、私とシャルドゥカ様の奥様は、同時にクスクスと喉を震わせた。揃った声に女性を見ると、楽しそうに笑みをくださる。


「さて。立ち話もなんだから屋敷に入ろうか」


 シャルドゥカ様の一言で、私達は屋敷へお邪魔した。


 まずは互いの挨拶をしようということで、応接間に通された。

 私とランサ、シャルドゥカ様と奥方が座り、子供達も座ると、ヴァンは壁際に控える。


 机にはさっとメイドが茶を用意してくれた。それを一口頂いて心を休める。


「リーレイ嬢は初めてだね。僕の妻のクリビア」


「初めまして、リーレイ様。シャルドゥカ・シーラット辺境伯の妻、クリビア・シーラットと申します。お会い出来て嬉しいわ」


「初めまして、クリビア様。リーレイ・ティウィルと申します。私もお会いするのをとても楽しみに思っていました」


 クリビア様は声音通りの微笑みを浮かべていて、シャルドゥカ様が「美しい」と惚気るのもよく分かる御方だ。


 同じ立場に立つ方とこうしてお話するのは初めてだ。シャグリット国に辺境伯家は二家だけであり、しかも歴史の色々から「特別」な位置づけにある。

 難しい立場にあるからこそ、お会いしたら聞いてみたい事が沢山ある。この滞在中にお聞きできるといいな。


「クンツェ辺境伯様、お久しぶりです。お役目ご苦労様です」


「息災で何よりだ、夫人。三人目のお子様をご出産されたと聞いた。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「それでこの子が長男のユーティ。こっちが次男のザオ」


 大人しく座っている二人の男の子。ユーティ君は「よろしくお願いします」としっかりとした挨拶をして、ザオ君は「…こんにちは」と少しだけ小さな声で挨拶をしてくれる。

 ザオ君はユーティ君の服の袖をきゅっと掴んで、少し身を隠そうとしている。…人見知りしてるのかな?


「私はリーレイ。あっちにいるのはヴァン。よろしくね」


 ぺこりと頭を下げてくれる二人に私も同じものを返す。

 はきはきとしたユーティ君は、自分の陰に隠れる弟を無理に連れ出す事もせず、「リーレイ様とヴァン様だって」と優しく声をかけている。そんな姿が微笑ましい。


「少し前には娘が生まれてね。名前はエルゥ。後で会ってあげてよ。とっても可愛いから」


「よろしいのですか?」


「えぇ勿論」


 それは楽しみだ。ランサを見るとランサも少し頬を緩めている。


 それからシャルドゥカ様は私達を部屋に案内してくださった。荷物はあらかじめ使用人が運んでくれたらしい。

 屋敷の客間だと聞いたけれど、それでも十分立派な部屋に通された。ありがたい。このもてなしに恥じないようにしなければ。


 私の部屋では、エデ様の元へ行った時にヴァンとエレンさんがそうだったように、ランサが安全確認をしてくれた。ランサにとっても身に沁みついた行動なんだろう。


「…よし。リーレイ。問題ない」


「うん。ありがとう、ランサ」


「ランサ。ヴァンの部屋はリーレイ嬢の隣だって話だけど、それでいいの?」


「あぁ。ヴァンはリーレイの専属護衛官だ。常に傍に置いておく」


 感心しているのか驚いているのか。「そうなの?」ってシャルドゥカ様の目がヴァンを見る。「そうなんです」ってヴァンはいつも通り。

 ヴァンが隣室だっていうのは、私にとっても心強い事でもある。


 シャルドゥカ様は口元に手を当て、少し首を傾げながらランサを見た。


「ちょっと意外。夜会であれだけ周りを牽制してたのに」


「ヴァンはリーレイの男にはならない。そんな危険があればリーレイには悪いが傍には付けない」


「断言?」


「あぁ。俺やお前が直属隊の騎士から向けられるもの…それがリーレイとヴァンでもある」


 フッと力を抜くような、解っているような。向けられているからこそ出て来る声音に、シャルドゥカ様は瞬いて、同じように微かに口角を上げた。


「成程ね。そこまでのものを受けてるなんて、リーレイ嬢はすごいね」


「私は何も…。ヴァンがしたい事をしてくれているなら、それで十分なので」


「それに、ランサが一人で十分だって判断して騎士から護衛はつけないなんて…。俄然ヴァンに興味が湧いたよ。一緒に鍛錬しない?」


「お断りします」


 ヴァンは当然のようにさらっといつも通りの返事。「気持ちのいい即答だね」ってシャルドゥカ様は落ち込むどころか楽しそう。

 …あ。ヴァンがちょっと足を引いてる。それを見たランサが喉を震わせていた。






 四人で何だと言い合っていると夕食に呼ばれた。

 テーブルには綺麗に磨かれたカトラリーが並び、使用人の皆さんが控えてくれている。


 私達が席について、シャルドゥカ様は使用人達を見た。


「皆。彼がツェシャ領を治めるランサ・クンツェ辺境伯。そして隣が婚約者のリーレイ・ティウィル嬢。滞在中はよろしくね」


「「承知いたしました」」


 皆さんが綺麗に頭を下げる。それを受けてランサも「しばらく世話になる」と伝え、私も「よろしくお願いします」と一言伝える。

 挨拶を終え、シャルドゥカ様はグラスを手に持った。


「さて。それじゃあ改めて、タンケイ領へようこそ。演習と両家の交流をどうかよろしく」


「こちらこそ」


 夕食会が始まった。

 ユーティ君とザオ君は学んでいるんだろうマナーで食事をしているのが分かる。ザオ君にはまだ難しいところもあるみたい。

 私も勉強したのを思い出す。今ではもう自然とこなすことが出来ているけれど、これもやってきたからこそだ。


「やはりタンケイ領は魚が絶品だな。ツェシャ領では口にできない」


「喜んでもらえて何より。リーレイ嬢、魚は好き?」


「はい。とても美味しいです」


 やっぱり海に面しているだけあって魚の料理が美味しい。

 ツェシャ領は周囲が山だから、魚を口にする機会は少ない。川魚が時折出てくるくらいで、どちらかというと、狩猟で得る肉や野菜が多い。


 食事をしながら時折話に花を咲かせる。


「――…では、リーレイ様は演習をご覧になるの?」


「はい。騎士達の姿をこの目で見たいので、シャルドゥカ様にお願いしました」


「最終日はともかく、それ以外も見たいって熱心な要望なら蹴るわけにもいかないだろう?」


「? 最終日は見学が決まっているのですか?」


 シャルドゥカ様の言い方に少し引っかかりを覚えて、食事の手を止めて視線を向けた。そしたらなぜかキョトンとした顔をされてしまう。

 …私は何かマズイ事を言ったかな。そう思いつつ自分の発言を反復するけれど、おかしくはない…と思う。


 私の前でシャルドゥカ様の視線がランサに向く。それを見て私も思わずランサを見た。


「そうだな。リーレイには言っていなかったが、最終日は慣例に従い少し特別なんだ。だからリーレイも夫人も見学することになる」


「特別っていうのは?」


「辺境伯らしい、特別な演習だ」


 …どういうもの? 首を捻るけれど全く分からない。

 だけど、そんな私に対してランサは安心させるような笑みを浮かべる。


「リーレイ。リーレイは今回、演習を見ると同時に、辺境伯家同士の為、夫人とも積極的に交流したい。そうだろう?」


「うん…」


「なら、まずはそうするといい。特別な演習については後日説明しよう。全てを一気に伝えてしまうと、リーレイは頑張りすぎる。いいな?」


「…分かった」


「良い子だ」


 私は演習に参加する身ではない。だから演習内容について後で知っても問題はない。

 …んだけど、シャルドゥカ様の笑みとクリビア様の困ったような表情に、妙に胸の中がもやもやとした。


 …私の頷きは間違っていたかもしれない。






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