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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
合同演習編

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117,再会からこの調子です

 冬の道中は冷える。

 防寒対策はきっちりしてきたつもりだったけれど、馬で駆けるとなるとやっぱり冷える。ブルリと震えながら首元を竦めた。


 私達はまず屋敷から、北にあるマンシュ湖方面に向かい、そこから西へ向かって走っている。

 雪が降っていない道中は視界も悪くないけれど、雪が降って来ると視界が狭まる。そうなるとランサは降り加減を見て、時には馬を止める。

 日が落ちるのも早い。落ち切る前に宿を取ったり、国境沿いの国境警備隊の宿舎を借りたり。


 雪道を駆けるのはやっぱり緊張する。雪で滑らないように、馬が足をとられないようにと慎重に。それは皆さんも同じように見えた。

 吐く息は白くなって後方へ流れ。鼻先が冷えてくる。


 そうして何日も進んでいたある日。小さな町の宿でランサが教えてくれた。


「今日でシャルドゥカが治める領地、タンケイ領へ入った。明日には砦に着く」


「着いたら、まずは砦に?」


「あぁ。タンケイ領の砦は二カ所。緋国との国境にある関所に一か所。これはツェシャ領と同じようなものだ」


 ランサの説明に頷いた。


 隣国との間にある砦は、防衛と関所としての役目を持つ大事な要所。これは私も知るものだから分かり易い。

 それに加えてもう一か所、という事は…。


「もう一か所は、海の砦?」


「そうだ。タンケイ領には、海の向こうや国内からの輸出入で船が集まる。そこにも砦がある。タンケイ領の警備の特徴でもあり、まずはそこへ向かう」


「シャルドゥカ様はそこに?」


「あぁ。アイツは船を見る事が多いからな」


 …それはつまり、シャルドゥカ様は、海の向こうから入って来る物に用心しているってことなのかな。

 勿論緋国からも警戒しているだろう。どちらも気を抜かず警戒する。…これはかなり精神的にも疲弊する役目だ。


「砦に着くまでには町中を通る。活気ある港町だ。楽しみに」


「うん」






 ランサがそう言ってくれた翌日。私達はタンケイ領の港町に着いた。


「わっ…!」


 眼前の光景に声が零れる。

 内陸とは違って雪のない町は、太陽の光に照らされて眩しい。キラキラと輝く海の上を幾隻もの船が行き交っている。

 町の建物も色とりどりで目移りする。綺麗だ…。


 町の中に入ってもその活気がよく分かる。

 元気な主婦の笑い声。威勢の良い男性達の魚を売る声。あちこちを走り回る子供達。


「あ! 騎士様だ!」


 と、すぐに無邪気な子供達が私達を見て駆け寄って来た。

 それを見てすぐに皆が馬を止める。私もすぐに馬を止めつつ、子供の声に驚いたりしないようにそっと愛馬を宥めた。


 駆け寄る子供達に、すぐにエレンさんとソルニャンさんが動く。

 サッと馬を降りて私達の前に立った。子供を守る咄嗟の行動に私も安堵と感謝を抱く。


「こんにちは騎士様」


「こんにちは」


「あー。でもいつもの騎士様と違う」


 騎士は騎士でも余所者だと子供達はすぐに見破った。

 …よほど、日頃から騎士を見てるのかな? タンケイ領の騎士達は町の巡回でも声掛けを積極的にしてるとか?

 そういえば、ツェシャ領の町でもランサ達は子供達にも人気だった。同じように町の皆さんに快く受け入れられているんだろう。


「俺達はツェシャ領って所から来たんだ。分かるか?」


「私知ってる! 領主様と同じ人がいる所!」


「よく知ってるな」


 ソルニャンさんに褒められた女の子が照れくさそうに笑みを浮かべた。

 それを聞いた男の子達も「知ってる!」と口々に続ける。


「俺聞いた事ある! 領主様が言ってた。美しい人だよって!」


「えー。領主様皆にそう言うよ?」


「お母さんにも言ってたよ。お父さんにも」


「領主様「皆美しいよ」って言ってるもん」


 …一瞬、ランサの頬がピクリと動いた気がした。「うっわ…」ってヴァンもやめなさい。バールートさんも「美しい…? え? 誰が?」って言わないでください。


 シャルドゥカ様を知る騎士達からは何とも言えない視線を向けられ。知らない騎士からは「何それ」って言いたげな視線を向けられ…。ランサはするりと馬を降りて子供達に近づいた。流れるように子供達の前に膝を折る。


「その領主様に会いたいんだ。どこにいるか分かるか?」


「海だよ。領主様いつも海で悪い船見てるの」


「お仕事してるんだ」


「そうか。教えてくれてありがとう」


 ランサは子供達の頭にポンッと手を置いた。柔らかな眼差しが子供達に礼を伝え、すぐに立ち上がる。

 ソルニャンさんとエレンさんが子供達を帰し、私達は潮風を感じながら港の方へ向かった。


 近付くほどに騎士の姿もちらほらと見える。私達を見てハッとなる騎士もいる中、ささっとすぐさま動いた騎士がランサの元へやって来た。


「ツェシャ領辺境騎士団の皆様でいらっしゃいますか?」


「そうだ。シーラット辺境伯に会いたいが、砦か?」


「はい。ご案内します」


 そう言うと、騎士はすぐに私達の案内を始めた。同時に他の騎士達にも指示を出していて、階級が上の方なのだろうと察する事ができた。


 そんな騎士に案内されてやって来たのは、港の砦。

 まるで屋敷のようにも見えるけれど屋敷でないことは分かる。騎士が見張りにつき、砦の傍には鍛錬場。そこで鍛錬する騎士も多数いるのが見える。

 私も見慣れた様子だけど、堅固と威圧のツェシャ領の砦とは違って、柔和で品があるようにも見える。不思議だ。


 ランサに続いて私達も馬を降りる。

 と、丁度知らせを受けたのか、こちらへやって来る砦の主の姿が見えた。私とランサの後ろで騎士達が整列する。


 タンケイ領を守る『将軍』にして『国境の番人』の一人。シャルドゥカ・シーラット辺境伯様。

 そんな御方がランサの前に立ち、微笑みを浮かべた。


「やぁ、ランサ。ツェシャ領辺境騎士団の皆。長旅お疲れ様。来てくれてありがとう。とても楽しみにしていたよ」


「久方だなシャルドゥカ。両手を広げて笑みを浮かべるのをやめろ」


「どうして!? 再会の抱擁はっ…!」


「しない」


 相変わらずだ…。隣の二人に乾いた笑みが出てしまう。

 シャルドゥカ様とランサの温度差が…。


 そう思っていると、シャルドゥカ様は諦めたらしく、その体勢のまま私に向き直った。


「じゃあリーレイ嬢、再会の…」


「一歩たりともリーレイに近づくな」


「じゃあ挨拶だけ」


 と、瞬きのうちにスッと手を取られ、その甲に触れない口付けが挨拶としてされた。

 …隣の空気が恐い。


 だけど、シャルドゥカ様はニコリと笑みのまま。


「あれ。これは止めないんだ?」


「挨拶を止めるなら俺は全ての男を止めなければいけないからな。触れたら潰すが?」


「うん。僕も触れるのはクリビアだけだよ」


 …やっぱりこの二人、似てる気がする。

 そしてシャルドゥカ様の後ろにいる辺境伯直属隊と国境警備隊の騎士がすでに冷や汗混じる顔をしているんですが…。いいんでしょうか?

 私とランサの後ろからは騎士達のコソコソ話が聞こえてくる。「あれが?」「シーラット辺境伯様」「ランサ様となんか仲良い」って単語がちらほらと。聞こえているのかランサは少し顔を歪めている。


 そんなランサを見て苦笑いつつ、私もシャルドゥカ様を見る。


「シャルドゥカ様。お久しぶりです。私にも声をかけて頂き、ありがとうございます」


「いいよ。クリビアからの頼みでもあったからね。…それより、リーレイ嬢は馬も剣もするのかな?」


「はい」


 シャルドゥカ様の視線が一瞬、馬と、私の腰元の剣を見た。そしてその視線をちらりとランサにも向けるけれど、ランサは少し口角を上げて視線を返すだけ。

 やはりというのか。ランサと同じ『将軍』だからなのか。その表情はすぐに笑みに変わり喉を震わせる。

 夜会でも見た。とても楽しいというような、面白いというような。殿下も見せるものと同じ笑み。


「それは凄いね。うん。やっぱりとても美しいね、リーレイ嬢は」


「ありがとうございます」


「シャルドゥカ。だからといってリーレイに試合はさせるなよ」


「見てみたいけど、さすがにね」


 いくら軍事演習を見せてもらうといっても、鍛錬や試合となると話は別だ。

 ツェシャ領ではランサの許可の下、他の騎士と同じようにさせてもらえる。それは私がランサの婚約者であるからで、特に、バールートさんやエレンさんとの鍛錬は砦か屋敷でだけ認められている事。


 だけどここはタンケイ領。その地の事はシャルドゥカ様に責が及ぶ。

 私は騎士じゃない。しかも他領の、ランサの婚約者。そんな相手に鍛錬相手も試合相手もあてがえない。いくら腕があっても、他領の要人には丁寧かつ慎重になるのが当然。私がシャルドゥカ様よりも上の身分であるなら、そうさせることは出来るけれど、生憎とそうじゃない。

 それに、今回はただの交流じゃなく、軍事演習が目的だ。


 肩を竦めたシャルドゥカ様だけど、すぐにその目は私を見た。


「だけど、もしも何か不測の事態に陥った時は、迷わなくていいよ。二の足を踏ませて君に何かあった方が良くないからね」


「はい。ありがとうございます」


 さらりとシャルドゥカ様は私に帯剣を許可下さった。ありがたい。

 隣からはぼそりと「何だこの喜べない感覚は…」ってランサの声が聞こえてきたけれど、シャルドゥカ様は笑うとクルリと身を翻した。


「さて。立ち話もなんだし、中へ入ろうか」


 案内を受けて、私達は砦の中へ足を踏み入れた。






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