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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
合同演習編

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114,これからも一緒です

「私なら、家族に会う時間や、街へ出かけるような時間をつくります」


「理由は」


「それが、一人の人間の力の原動力になると思うからです。何のために剣を持つのか。何の為に戦うのか。その答えは案外、傍にあるかもしれません。家族の平穏や笑顔の為かもしれないし、街の皆の笑顔や感謝の言葉かもしれません」


 戦に怯えた家族にそんな顔をさせないと思っている騎士もいるかもしれない。中心地ツァットでは辺境騎士団も頼りに思われている。町に行って掛けられる感謝の言葉に力を貰っている騎士もいるかもしれない。

 その一言が。その笑顔が。些細な日常が。力に変わる。


 私もそうだった。失敗して落ち込んで。でも家族がいたからもっと力を貰えた。

 ツェシャ領に来てからもそう。屋敷の皆、騎士の皆。ランサの為なら。どんな事でも頑張ろうと思えた。


 ランサ達辺境騎士団はいつも、何かの為に、誰かの為に戦っているから。だからきっと日常こそが力になる。


 私の答えにヴィルドさんはそっと瞼を伏せた。


「成程。…では、その原動力の為に罪を犯した者がいれば、どうされますか?」


「罪は罪です。きちんと裁かなければいけません。ですが、その理由が、例えば領主として国として、考えなければならない問題となりうるなら、手を打つのが上に立つ者の責任です」


 僅か、ヴィルドさんがピクリと眉を動かしたように見えた。

 何か気に障る事を言ったかな…。少しそう思ってしまったけれどヴィルドさんは表情を変えない。


「参考になりました。ありがとうございます」


「いえ」


「お待たせしました」


 と、丁度ロンザさんがお茶を手に戻って来た。お茶と差し入れを少し持って来ると、それを机に置いた。

 出してくれるお茶を頂く。美味しい。


「ヴァンも来いよ」


「んじゃ遠慮なく」


 ヴァンもロンザさんに誘われて座る。

 本当にロンザさんは誰にでも気さくだ。ランサにもそうだけど、『将軍』の命にはきちんと従う。


 ヴァンがカップを手にロンザさんを見た。


「前にソルニャンさんが、ランサ様と良い勝負するのはロンザさんだろうって言ってたんですけど、実際どうです?」


「良い勝負って言ってもな…。打ち合いだけならそうかもしれねえが、勝てた事はねえぜ」


「おー、流石ランサ様」


「それならお前も良い勝負するじゃねえか」


「二度は御免で」


 ヴァンは相変わらずだな…。ロンザさんも言いながら笑っている。

 ランサとヴァンの試合。私は好きなんだけどな…。また見たいと言わないけれど思ってる。


「ヴィルドさんはどうなんです? 勝てます?」


「まさか。一撃で終わるでしょう」


「ヴィルドは剣を振らせるよりも、短剣か隠し武器でも使わせればそれなりにやれる」


 否定に続いた言葉に、私達は扉の方を見た。

 そこに、帰って来たランサが居た。


「ランサ様。お疲れ様です」


「あぁ。異常はなかった」


「了解です」


 ロンザさんとヴィルドさんは頷き、ヴァンがスッと立ち上がると私の隣を空けた。そこにランサは座る。

 なんだか久しぶりに見るランサだ…。おかしいな。いくら忙しいっていっても別にそう月単位で会ってないわけじゃないのに。


「なんだ。ヴィルドの腕前の話か?」


「いえ。ランサ様に勝てるのは誰かって話です」


「状況によっては誰でもそうなれるだろう。一対一なら父上には負ける。数なら押される。隠密や組み立てる作戦次第でもそうなる」


 ランサの言う通りだ。強さは勝利の保証にはならない。

 状況は常に違う。そこで発揮される強さも違う。ランサは確かに武術の腕に秀でている人だけれど、それが常にどんな状況でも同じであるわけじゃない。


「じゃあ、さっきランサが言ったような、短剣を使ったり、相手を翻弄するような細工をして来たら?」


「手はかかるな。だが、それにはこちらも頭を使う。出来ないわけでも敗北を予感するような事もないだろう。俺の足りない頭はヴィルドが補ってくれる」


 その目はちらりとヴィルドさんを見た。ヴィルドさんも視線を向けつつも何も言わない。そんな様子にランサは微かに口角を上げていた。


 ランサにもそれらに悩まされた経験があるのかな。一度した経験はそれからにも活かされるものだろうから。

 話がひと段落したランサは、その目を私に向けた。


「来てくれたリーレイとする話がまずこういう話、というのも、どうにもおかしいな」


「…そうかな」


 ランサはなんだか楽しそうに笑う。その顔から少し目を逸らした。

 …うん。別にね、その意味が分からないわけじゃないんだよ。ただほら。ランサが来てくれた時に丁度話をしていたからであって。


「えっと…皆に差し入れを持って来たの」


「あぁ。俺も戻ってからそれを聞いて飛んで来た」


 あぁほら。さらっとまたそういう事を。嬉しいよ。嬉しいけれど…。

 久しぶりだからかな。少し変。


 少し落ち着かない私の隣でランサは目の前の二人に軽く手を上げた。


「ロンザ。ヴィルド。執務に戻る。次の鍛錬には顔を出す」


「「了解しました」」


 そう言うと、二人は心得ていると言わんばかりに執務室を出た。それにはどうしてかヴァンも続いて出て行く。ちょっと護衛!


 久しぶりの二人の時間は嬉しい。だけどここは砦でランサの大事な役目の場。

 …よくない。こういう気持ちは。


「あのねランサ…」


 何とか紡いだ言葉はだけど、最後まで音にはならなかった。

 腰を引かれ、肩口にランサの頭がぽすりと乗る。微かな重さと吐息の熱に心臓が高鳴って音が消える。


「…ランサ」


「会いたかった…。会いたくて堪らなかった」


「っ…」


「リーレイが足りない。しばらくこのままで…」


 あぁ駄目だ。心臓が一気に煩くなる。嬉しくて仕方ない。

 胸が苦しい。微かに感じる吐息が熱くて、身体が動かなくなる。


 恥ずかしい。嬉しい。愛しい。

 色んな想いが溢れて仕方ない。


「わ…私も…会いたかった…」


 同じだと、伝えたくなった。私だって――…


 零れた音に、ランサがぴくりと反応した。と今度は、ぎゅと腰に回した腕に力をこめて、ぎゅっと私を抱き締める。

 密着する距離に身体は強張った。なんだかいつもとは少し違って、少し緊張する…。


「俺とリーレイはどうしてまだ結婚していないんだ…」


「え…!?」


「今から籍だけでも入れないか?」


「いっ、いいいきなり何言うの!?」


「俺との結婚は嫌か?」


 話が思いっ切りずれてしまって私は咄嗟の切り替えができない。

 ランサの思考が読めない。本当にいきなりな事はやめてほしい。何で急にそうなるの。


「い、嫌なんて…事ない…けど。その…いきなりすぎる。そういえば! ランサがそういう事を言うから、騎士の皆さんにももう結婚式考えてるって思われてるってエレンさんが言ってた!」


「考えてる」


「かっ…!?」


「勿論、リーレイにもちゃんと意見を聞きたい。ただ…どちらにしろ今からでは少し時期が悪い」


 頭が忙しい。驚いて。言葉がなくなって。なのに今度は少しランサが真剣な声で言う。


 …ちょっとだけ落ち着こう。それがいい。

 そう思って私はとりあえずカップに口をつけた。大丈夫。落ち着いて。

 そんな私にランサは何も言わずただじっと待ってくれている。


「…うん。まず色々と言いたい事はあるけど。とりあえず、先々まで進めてないよね? 私も一緒に考える」


「あぁ。考えていると言っても、式を挙げるならツェシャ領がいい。誰を招待したい。そういう事ばかりだ。大事な事はこれからちゃんと、リーレイと決めて行きたい」


「うん。私も」


 もう少しすれば年が明ける。それから数ヶ月すれば、私がランサと婚約して一年になる。

 そう思えば長いような、短いような時間を感じる。なんだか懐かしい。


「婚約して、もうすぐ一年になる。リーレイ。これからも俺と共に生きてくれるか?」


 ぎゅっと抱きしめられて、そう聞かれて、思わず頬に熱が集まる。


 元よりこの婚約は殿下の計らいによるもので、結婚そのみちは決まっていた事。だけど改めてランサにそう言われると嬉しい気持ちになる。


「うんっ。これからも、長くよろしくね。ランサ」


「勿論。放さないから覚悟してくれ。俺の半身」


 コテンと額を合わせる。少し気恥ずかしいけれど、ランサはとても嬉しそうで、私まで同じ気持ちになる。

 幸せだ。ずっとこれからも、こうして一緒にいたいな。






 それからランサは、私の膝を枕に少し眠り、すぐに起きて今度は鍛錬場へ向かった。

 そんな姿を見送って、私も屋敷へ戻った。


「リーレイ様。何か良い事でもありましたか?」


「え。どうして?」


「なんだかとても、嬉しそうなお顔をされています。ランサ様にお会いしたからでしょうか?」


 クスリと笑うシスやセルカ、にっこりと笑顔を浮かべるミレイムに、私は思わず自分の頬に手を当てた。

 顔に出てる…。これはよくない。






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