過去話 三人の友の出会いと冒険 3
「よし。最後はここだ」
「あの…ローレン様。ここって…」
廊下からこっそり覗く先には、近衛騎士が二人扉の傍に立っている。
その部屋は今まで見ていた部屋とは違うって、一目で分かる。だって近衛騎士がすごく真剣だから。
だから俺はとても嫌な感じがした。
「よし。忍び込み開始!」
「あの…」
行くぞって…やめませんか? どうしてわざわざ忍び込むんですか? 入って良いですかって聞けばいいじゃないですか。
そう思っても、もうそれを聞いても駄目だって事は解った。
見ていると、部屋の扉が開いて、少しだけ話した事がある国王陛下が出てきた。
傍に居る人と何か話をしていて、扉の傍に居る近衛騎士にも何か言うと、近衛騎士は扉から離れてどこかに行った。陛下と傍の人もどこかへ行く。
「しめたぞ。今だ!」
「殿下っ…!」
止めようとしても殿下は止まらない。シャルドゥカも止めようとしないし、殿下と一緒に楽しんでる。
俺はついて行くしかなくて、殿下がこっそり開けた扉の中に、三人でこっそり入り込んだ。
中はソファとテーブルが置かれた小さな部屋。そして奥には扉があって殿下はそっちへ走って行くと、その扉を開けた。
「ここが父上の仕事部屋だ」
入り込んだ殿下に、シャルドゥカ、俺も続く。…けど、絶対にやっちゃ駄目なことだって分かる。
「ローレン様。陛下にバレたら怒られます。早く出ましょう」
「大丈夫だ。俺が謝る」
「でもっ…」
「ランサ。シャルドゥカ。俺達が大人になったら、この部屋で、三人で、友としても、頼もしい仲間としても、ずっとずっと沢山話をして、頑張ろうな!」
そう言って、眩しいくらいに笑顔な殿下。そんな笑顔を見て何て言えばいいのか分からなくなる。
俺は父上みたいになれなくて。剣も嫌になりそうで。
殿下だって大変で。でも逃げない。困るけど。明るくて。眩しくて。
俺は大人になって、殿下の力になれるのかな…。そんな凄い人になれるのかな…。
俺に色んな事を教えてくれた今日の短い時間。まだ殿下の事はよく分からない。
でもこれから。これからもっと、知る事が出来るかな…。
もう少し、頑張ろうかな…。
そう思ってるといきなり、シャルドゥカにぐいっと腕を引かれた。それは俺だけじゃなくて殿下も同じだったみたいで、「わっ」って驚いた俺達はシャルドゥカに窓辺の垂れ布の中に引きこまれた。
「シャルドゥカ…」
「しっ。誰か来る」
ハッと口を閉ざすと、すぐに足音が聞こえた。思わず体が緊張する。
殿下もじっと布の向こうを窺っているように視線を向けていた。
シャルドゥカの言った通り、すぐに部屋の扉が開く音が聞こえて話し声が聞こえた。
「…それで。息子達が部屋を抜け出しフラフラしていると」
「らしいです。部屋の前の衛兵を撒くわ。薬草室や書庫にまで出没してるわ。ったくアイツらは…」
「まぁまぁガドゥン。私達だって人の事は言えないだろう?」
「あのな…」
父上の声だ。それに…ちょっと聞いたことがあるだけだけど、陛下とシャルドゥカの父上の声も聞こえる。
…あ。殿下とシャルドゥカが「げっ」って風に表情を歪めた。うん。こうなるかもしれないのは分かってたはず。
聞き耳を立ててると、陛下がクツクツ笑う声が聞こえた。
「ケニスの言う通りだな。あれらを見ているとどうにも懐かしくなってしまう」
「ハハハッ。では陛下、ちょっと昔に戻るなんていかがです?」
「それはいいな。ちょっと執務の休憩に町にでも行くか?」
「陛下…」
…なんだかちょっと気になる会話だ。父上のあんな声聞いたこともない。陛下とシャルドゥカの父上の笑う声も聞こえてくる。
そんな様子を、殿下は動かず何も言わずただじっと聞いていた。
「冗談だガドゥン」
「陛下の冗談は冗談にならない時があるんですよ。他の耳がある所で言わんでくださいよ」
「解ってる。それから息子達の事だがな…」
俺達の話…。と分かって三人で少しぎくりとした。
その瞬間、バッと垂れ布が退けられた。目の前にはシャルドゥカの父上の姿がある。その向こうから陛下と父上の目が俺達を見ているのも見えた。
お互いが何も言わない中で、さらっと手を上げたのはシャルドゥカだった。
「やぁ父上。今朝振りです」
「あぁ今朝振り。で、なんでここにいるのかな? お前達は」
「うん、ちょっと将来の為に親睦を深めてたんだ。ほら。ランサって殿下に会ったの初めてだし城も初めてだから」
「そうか。それでちょっと面白く楽しくしようとでも思って入り込んだな?」
「流石父上。お見通し」
笑顔のやり取りの後で、シャルドゥカが首根っこ掴まれて引き摺り出された。「ひどいな父上」って言い方もさっきまでと変わらない。
見ていた俺だけど、父上のため息と「二人も来なさい」って陛下の言葉に殿下と一緒に大人しく従った。
「三人揃って言う事は?」
「「すみませんでした」」
声を揃えて頭を下げた。それしかできない。
俺達を囲む父親達は揃って大きなため息を吐く。
「ローレン。お前は自分の立場と言うものを分かっているか? いくらお前が居ると言っても、何をしてもいいわけではないぞ」
「はい。俺が言い出した事ですので、俺がちゃんと叱られます」
「それを言うなら年長者にも責任がありましょう。それが一緒になって、どころか率先して楽しもうとするのは如何かと思うぞ。シャルドゥカ」
「…はい。だけど殿下の、僕らを想い、将来の事まで考えてくれる美しい想いを蹴るなんて…僕には出来ません」
「危険でなければいいわけじゃねえぞ、ランサ。諫めるのも臣の務めだ」
「はい…。すみません…」
ピッと背筋を伸ばす殿下と、怒られてるのに怒られてる感じがしないシャルドゥカ。俺は小さくなるしかない。
「衛兵を撒くような事は止めろ。王族を守るのがアイツらの仕事なんだ」
「ローレン。それでお前にもしもがあれば責任は彼らにも及ぶ。分かったな?」
「「はい」」
父上達は声を荒げるような事はしない。ただ「こうだから駄目だ」ってちゃんと言ってくれる。だから駄目だってことはちゃんと解る。
でも、叱られてる間はどうしてもシュンとして、俺達は身体を小さくさせていた。
ちゃんと叱られた俺達は今度こそ殿下の部屋に戻された。衛兵付きで。陛下よりも父上達の方が怖い目で俺達を見てた。
俺はあんまり父上に怒られたことはない。叱られる事はあるけれど、父上は騎士達への方が厳しいと思う。
でも、もうこんな事はしない。そう決めた。
殿下はちょっと不満そうな顔をしてるけど、これは仕方ない。
外はもう夕暮れで。俺もシャルドゥカも父上が迎えに来てくれたら屋敷へ戻る事になってる。
「でも、父上達も僕らみたいな事してたのかな」
「みたいだったけど…」
そんな話をしてた。父上と陛下はどんな友人なんだろうと少しだけ知りたくなった。
「なぁランサ」
「はい?」
不意に、殿下が俺を呼んだ。視線を向けると殿下は何かを考えているみたいな顔をしていて、その目がゆっくりと俺を見た。
「今日は案内をしたが、怒られる事になってすまなかったな」
「いえ。ローレン様もあんまりこういう事はこれからしないでくださいね」
「うーん…。考えておく」
…あんまりいい感じがしない。
そう思ってると、城の人が父上の迎えを教えてくれた。「それではまた」ってシャルドゥカと俺は殿下の部屋を出る。
と、部屋を出る前にぐいっと袖を引かれて、俺は思わず振り向いた。
…近くに殿下が居てびっくりした。
「明日も来てくれ。明日はちゃんと案内する」
「えっ…」
「頼む」
「…分かりました」
今日の事もあるし、殿下ももっとやり方を考えてくれるだろう。
そう思って俺が頷くと、殿下はパッと嬉しそうな顔をした。そして内緒話をするように「また明日な」って小さく言ってくれる。
…友達はこういうものなのかな。少しだけそう思って、少しだけ嬉しくなった。
俺も「うんっ」って頷いて、父上の元へ戻る事にした。
明日が楽しみだ。そう思って帰る俺の足は少しだけ軽かった。
この時の俺は、翌日、殿下に町へ連れ出される事になるとは思っていなかった。
その所為で父上と陛下から本気で怒られる事になり、母上にまで叱られる事になったのは、後々まで忘れられない記憶になった。




