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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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過去話 三人の友の出会いと冒険 1

  王家と辺境伯家は代々、歴史の名残りと教訓から互いの関係性を大切にしてきた。当主達に跡継ぎが生まれれば、物心つく頃には王都に連れて来て顔合わせをする。そして、互いの跡取りが長く良好な友であれるよう、見守りながらも時には諫める。

 それが、忠の厚い臣であり父である当主のやり方だった。


 それに従い、俺も七歳の頃には父に連れられ王都に赴き、将来の主君であるローレン殿下にお会いした。王都に居る間は父や陛下の意向で、ローレン殿下と過ごす時間が多かったと思う。

 そしてその中で、俺はシーラット辺境伯家次期当主、シャルドゥカにも出会った。


 俺の、苦労だらけの幼少期の始まりだった。






 ♢*♢*




「ランサ。この方がローレン殿下だ」


「初めましてランサ!」


「は、初めまして…。お会い出来て光栄です」


 父上に連れられて初めて王都に来た俺は、今日初めて城に入って陛下に会った。そしてローレン殿下にも。


 眩しいような金色の髪と、俺をじっと見る熱色の瞳。その目が俺を見て、その表情が嬉しそうな笑顔になる。

 この方は王族で。王になる人で。俺はその臣下で。


 だから、丁寧に、失礼がないようにしないと。少し緊張するけど殿下は全然そんな事はなくて笑顔だ。


「殿下」


 気付いたような声が聞こえて俺はそっちを見た。

 そこにいたのは、白い髪の、俺や殿下よりも年上の男の子。殿下はまた嬉しそうに「シャルドゥカ!」と呼んだ。

 殿下の知っている人なんだって事は分かったけれど、俺もその名前は知ってる。


 シャルドゥカ・シーラット辺境伯子息。俺の家と同じ辺境伯家の跡取りだ。


 傍には同じ髪色の男性がいる。シャルドゥカの父上かな…。


「ガドゥン。久しぶりだな」


「ケニスもな」


 父上同士が軽く手を上げる。シャルドゥカの父上は陛下にも丁寧に礼をして、シャルドゥカも続いた。

 俺とは違って、シャルドゥカは全然緊張してないみたい。年上だから王族に会った事があるんだろうな。


 シャルドゥカを見てると、その青い目が俺を見た。


「君がランサ? クンツェ辺境伯様の御子息?」


「あ、はい…。初めまして」


「いいよ。そんな丁寧にしなくても。僕ら同じ家だしね」


 いいのかな…。少し迷って父上を見ると、父上も頷いた。


「ガドゥン。ケニス。少しいいか?」


「「勿論です」」


 父上達が陛下の声にすぐに頷いた。陛下もそれには少し嬉しそう。

 大人達は何か話があるみたいだって思ってると、俺の前で殿下がビシッと手を上げた。


「父上! それなら、ランサとシャルドゥカと遊んでいてもいいですか?」


「あぁ。ただし、あまりはしゃぎすぎるなよ」


「はい!」


 ワクワクしてるみたいな殿下がバッと俺達を見て、すぐにぎゅっと手を掴んだ。…けど、ハッとなってすぐに放した。


「…嬉しすぎて悪い事をした。騎士の腕は簡単にとっていいものではないと聞いた。すまない」


「えっ…」


「大丈夫ですよ。僕らまだ子供ですから」


 殿下に謝られた…。何て返していいか分からない俺とは違って、シャルドゥカは慣れたみたいに返す。「そうか?」「はい」って、もう何度か交流してるみたいな二人は、すぐに笑い合う。


 殿下は、俺と同じ年のはずなのに、ずっと大人みたいな人だ。腕をとられたくないなんて、すぐには思わないのに…。

 俺が二人を見てると、殿下はすぐに俺を見て楽しそうな声で言った。


「よし! 遊ぶぞ!」






 …そう言った最初は、俺達は殿下の部屋で盤上遊戯をして遊んでいた。

 だけど、すぐに殿下が動きだして、俺とシャルドゥカはついて行った。


 そしたら…

 王宮の片隅。人もあまり来ない静かな中で、俺とローレン殿下、シャルドゥカは三人で遊ぶ事になった。

 部屋にいれば、メイドや近衛騎士がいる。それは当然で、殿下の為には必要で。なのに…


『いつもいつも見られているのは嫌だ』


 って、殿下が言うから、俺達はここで遊んでいる。


 殿下は国にとって大事な人だ。だから守らなくちゃいけない。なのに殿下がそれを嫌だって言う。

 こういう時、どうすればいんんだろう…。俺にはまだよく分からない。


 きっと今だって、こっそり抜け出した俺達を皆探してるだろうし…。迷惑をかけてる。

 でも、シャルドゥカまで…


『いいんじゃない? 僕らが殿下をお守りすればいいんだから』


 って、殿下と同じ事を言う。

 シャルドゥカなら止めてくれると思ったのに、全然そうじゃなかった。殿下と一緒になって遊ぶし…。いいのかな。


 走り回っていた殿下は疲れたみたいで、地面に寝っ転がる。


「ローレン様っ、汚れます…!」


「いいんだいいんだ。だって他の奴がいるとできないだろ」


 そう言ってハハッて笑う。

 こういう時、どうやって殿下を止めればいいんだろう。聞いてもらうのはとても難しい。シャルドゥカを見ても笑ってるし。


 それに、俺は最初は「殿下」ってちゃんとお呼びしてたのに、すぐに「名前で呼んでくれ」って言われて呼び方を変える事になった。

 これは…失礼じゃないのかな?


 ずっともやもや考える俺の前で、殿下はひょいと体を起こした。


「ランサとシャルドゥカは、樹に登れるか?」


「えっ、はい…」


「登れますよ。簡単」


 頷いた俺達を見て殿下は「ふーん…」って何かを考えるような顔をする。

 …なんだか嫌な感じがした。もやもやするような、変な感じ。


「俺も登りたい」


 そう言って殿下は立ち上がる。それを聞いて俺は「分かりました」なんて言えない。


 木登りはできれば楽しい。だけど危ない。登ってる時にも降りる時にも落ちたら危ない。

 殿下に怪我なんかさせちゃいけない。それは俺にだって分かる。それはシャルドゥカだって同じで…


「じゃあやります? 手伝いますよ」


「えっ!」


 絶対に止めてくれると思ったのに、シャルドゥカは笑顔で頷いた。

 それを見た殿下はパッと顔を明るくさせて近くの木に走って行く。それを見て俺はすぐにシャルドゥカの服を引っ張った。


「駄目だよ。ローレン様が怪我でもしたら…」


「だから僕らが支えるんだよ。ローレン様は君より小柄だし、いざって時は受け止めてあげられる」


「だけどっ…! 何で止めないの?」


 初めて会ったばかりのシャルドゥカとは少しだけ話をしただけだけど、微笑んでばかりで、殿下の言葉には頷く事が多い。否定なんてできないけど、でも駄目な事だってある。

 シャルドゥカはきっと、俺なんかよりずっと色々知ってる人なのに。


 今だって、俺をじっと見てる。


「ローレン様はどういう人なのかなって思うから」


「え…」


「だってあの人は、大人になった僕らと…父上と陛下みたいになれるかもしれない人だから。どんな事が好きなのかなとか。どんな考え方をするのかなとか。子供のうちに色々知っておきたいでしょ? 辺境伯家の僕らは、それを知って、心から忠を誓える、仕えられるかを知らないと。逆にローレン様だって、僕らが信頼できる人なのか知らないと。ただの仲良しこよしじゃいけないから。大人になってからじゃ遅い事だから、子供の今、沢山見て知らないとね」


 にこりと笑みを浮かべて言った言葉に、俺はびっくりした。


 シャルドゥカは俺よりも年上で、大人みたいに考えられると思ってた。だけど思っていたよりずっと、辺境伯として考えてる人なんだと思った。

 俺はただ、危ないとかって思うばかりで。止めないとって思うばかりで。

 父上と陛下みたいにとか。大人になったらとか。辺境伯としてとか。俺にはまだまだ全然分からない。


 …俺は、剣の鍛錬もやりたくなくなったから。

 父上みたいな騎士になれるように、なんて、思えなくなってるから。


「…シャルドゥカは、凄いね」


「これ全部父上に言われた事」


 そう言って笑って、シャルドゥカは俺の手を引っ張って殿下の元へ行く。引かれるままに俺も向かった。


「シャルドゥカは、剣好き…?」


「剣以外に好きなものが色々あるよ。嫌いじゃないけど、振り回すのは好きじゃない」


「でも…騎士になるんでしょ? 父上みたいに」


「うん。僕が跡取りだし。ランサもなるんでしょう?」


「俺は…父上みたいになんて、なれない」


 父上は凄い人だから。負けなしの凄く強い人だから。


 俺は、あんなにも強くなれるのかな…。頑張って頑張って鍛錬して。ちょっとずつ強くなってるかなって思って。

 でも、父上の騎士は皆もっと強くて。俺は父上の子だから。父上くらい強くならなくちゃいけなくて…。


「でも、鍛錬してるんでしょ。頑張ってる」


「えっ」


 シャルドゥカがぎゅっと俺の手を握った気がした。


 殿下の所にはすぐに着いて、シャルドゥカはまた笑顔で殿下に木登りの仕方を教えていた。

 シャルドゥカに言われた通りに樹に登っていく殿下を、俺はハラハラしながら見ていた。もしもって時は御守りしないと…!

 時折、殿下が滑りそうになって俺はヒヤヒヤする。


「ローレン様っ、やっぱりお止めに…!」


「大丈夫だ!」


「でもっ…」


 シャルドゥカが上から引っ張り、何とか殿下が枝に座った。それを見てホッとする。

 殿下は普段見えない景色にとても楽しそうだった。






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