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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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日常話 令嬢と辺境騎士団

 その人を初めて見た時、馬を引いてて男装をしてて、なんか騎士みたいな人だなって印象だった。でも剣は持ってないし。町の人でもないし。

 むしろ、傍に居たヴァンさんの方が剣を持ってるし、でも今にも欠伸しそうな顔で。

 よく分かんない二人だった。


『リーレイ嬢は、俺の婚約者だ』


 ランサ様はちょっと困ったような、でも嫌そうな顔はしないでそう言った。

 俺らは当然驚いた。


 婚約とか結婚とか、ランサ様は貴族だから、そういうのはしなきゃいけないんだろうなとは思ってたけど、全然そんな話聞かないし。ランサ様も国境警備ばっかりだし。


 ランサ様の婚約者とか妻とかになる人は、俺達、辺境騎士団の騎士にとっても他人じゃない。『将軍』の奥方は警備に参加とかはしなくても、いざって時はランサ様の代理になる人だから。


 リーレイ様がランサ様の婚約者だって知った時、俺は驚いた。でもなんか良さそうな人だなって思えた。

 もっとこう…貴族のお姫様みたいな人だったら、平民だらけの辺境伯直属隊の騎士は、接し方に迷う奴らばっかりだから。貴族様とかランサ様以外に知らないし。ランサ様は『将軍』だし。


 だけど。ツェシャ領に、ランサ様の元に、来てくれたのは、リーレイ様だった。






「ではリーレイ様。早速」


「はい。よろしくお願いします!」


 俺は少し離れた、鍛錬場で向かい合う二人を交互に見た。

 一人は同僚のエレン。もう一人はリーレイ様。これから二人が手合わせをする。

 リーレイ様は休憩を挟んでるけど、その前には俺と手合わせしていた。それでもエレンとの手合わせもやる気だ。


 俺と手合わせしてた時、他の騎士達も引かれてずっと見てた。それは今もそうで、俺の周りは騎士達がいる。


「すげえな…。リーレイ様って」


「あぁ。なんていうかほら…あんまり貴族の御令嬢って感じじゃないよな」


「確か、ティウィル公爵の姪で、王都でも平民暮らしだったんだろ?」


 周りの奴らの視線が俺に向く。俺は直接リーレイ様に話聞いてるから。

 だから俺はその言葉に頷いた。


「そうだって。ヴァンさんに鍛えられたらしい」


 そう言うと、皆の視線が俺と同じようにリーレイ様見てるヴァンさんに向く。あ。顔が歪んだ。


 俺は騎士達にもみくちゃにされてるヴァンさんからそそっと離れて、手合わせを始めた二人を見た。

 俺と同じようにヴァンさんを見て笑ったセデクさんとミンドがやって来る。


「やるな、リーレイ様」


「ですね。セデクさんってやっぱ、貴族にも詳しいですか?」


「ちょっとはな」


 セデクさんは十年以上ツェシャ領で国境警備をしてるけど、元は王都の騎士団に居た人だ。いや今も騎士団所属だけど。

 そんなセデクさんは貴族の一人らしい。家を継ぐとかには関係ない立場らしいし、結婚した奥さんもツェシャ領の人。愛妻家として辺境騎士団では有名だ。


「貴族の御令嬢ってやっぱり、リーレイ様とは全然違います?」


「違うな」


 リーレイ様は貴族の御令嬢だけど、貴族らしくない。何て言うか…平民と近い。失礼かもしれないけど。

 その逆で、ランサ様は『将軍』だけど、貴族だなって思う時がある。食事の時とか、偶に屋敷に行った時とか。そういう姿は見る。


 そういうランサ様だから、そういう奥様を貰うんだろうなって。そう思ってた。


「…でも、俺はなんか…リーレイ様で良かった」


「バールート。それ俺も思った」


 ミンドも俺の言葉にクスリと笑った。


 目の前では、エレンの一打にリーレイ様が後方へ跳んだ。だけど軽々と着地してすぐに打ち込む。

 その表情はすごく、すっきりしてるような清々しいものに見えた。


 リーレイ様とちゃんと話をしたのは、初めて砦に来た時にランサ様に護衛を任された時だった。


『私の事はリーレイでお願いします。御令嬢じゃ、誰の事か分かりませんので』


 気さくでまっすぐな人だなと思った。その時から御令嬢って風には見えなかったけど。


 それからも色々驚いた。剣使うし。平民育ちだって言うし。

 何より、ランサ様が見たことないような表情向けるし。


 でも、そんなランサ様見てると、もっとリーレイ様に好感を持てた。

 それに、見たことないランサ様の、『将軍』でも辺境伯でもない顔を、守っていきたいと思えた。ランサ様がそんな顔できる人に出逢えたって事だから。


 俺ら辺境伯直属隊は、ランサ様を、ランサ様の守る大事なものを守るのが役目。


 手合わせを見てると、ひとしきり終えたのか二人が戻って来た。


「お疲れ様です。凄いですね、リーレイ様」


「いえ。エレンさんは流石お強いです。とても動きがしなやかで」


「リーレイ様も軽やかですが、受け流すというやり方が大きいですね」


「あー…。それヴァンさんがずっと相手だったからですかね」


 リーレイ様の動きを思い出して言えば、リーレイ様も「成程…」って溢す。…なんか騎士と話してるみたい。

 そんな事を思う俺の傍では納得の会話が続いてる。


「確かにそうかもしれませんね。ヴァンさん力強そうだし」


「強いです。いつも吹っ飛ばされてましたので」


「そりゃまた…。ヴァンさんも容赦ないですね」


「容赦なんてされちゃ強くなれないので!」


「リーレイ様逞しいですねっ…」


 あ。皆笑ってる。リーレイ様はいたって真剣って感じで、笑われてちょっと恥ずかしそう。

 でもそんな表情を見ると俺も笑ってしまう。


「でも本当に、リーレイ様強いですね。何で剣やり始めたんですか?」


「護身の為です。ヴァンが家に来るまではあんまり考えてなかったんですけど、偶に一人で鍛錬してるのを見て、私も習えば妹や自分を守る事ができるかなと」


「馬は?」


「…徒歩より早いし、馬車より安いので」


 ちょっと恥ずかしそうに言ったリーレイ様から、平民暮らしの一面が見えた。でも、それは俺も納得できる理由だった。


 歩くには遠い距離とか。馬車を使おうと思ってもどうしても値段がするし。馬はそれより安いっていうのはどこでも同じみたいだ。それに、ちゃんと乗れないと駄目だし。

 俺は馬車なんか使う暮らしじゃなかったし、遠出するような暮らしでもなかったけど、リーレイ様の言葉には納得できた。


 それはセデクさんやエレンも同じみたいで頷いてる。


「分かります。馬車は少し余裕がないと使うにも迷いますから」


「エレンさんも経験ありますか?」


「はい。私は、ちょっと小さい村の長の家の出なんですが、馬車は余程でないと使いませんから」


 リーレイ様も同意するように頷いた。


 俺が聞いた限り、エレンは五年前の戦が終わった頃に好きじゃない隣町の長の息子と結婚させられそうになって、逃げる同然で辺境伯直属隊の門を叩いたらしい。本人は元々動くのが好きで、ランサ様の戦での活躍は聞いていたから、戦って領地と国を守る姿に強く憧れがあったらしい。

 ちなみに、エレンと両親、隣町の長の家とは、事情を知ったランサ様が仲介に入った。おかげでエレンは堂々と騎士をしてるし、今はもう両親もそれに納得して応援してくれてるらしい。…偶に「結婚しないのか?」って手紙が来てエレンが顔を顰めてるけど。


 騎士になるって言っても、当然危険と隣り合わせだから、家族から納得と承諾を得るのは難しい。

 だけどランサ様は「必ず得るように」って、辺境伯直属隊の門を叩きに来た奴らに告げる。これは当然だ。ランサ様にとってはその人も家族も大事な領民だから。


 そういう人だから、俺もついていくと決めているわけだけど。


「…あの、差し支えなければお聞きしたいんですが、バールートさんはなぜ騎士に? エレンさんは先日、ランサに憧れたからとお話を聞いたんですが」


「俺ですか? 給金良さそうだったんで」


 答えたのに、なんでかリーレイ様がキョトンとした顔になった。それを見てエレンとミンドが笑ってる。


「そ、そうなんですか…?」


「ここに来たのはそういう理由です。あ。今はランサ様についてく気しかないですけど!」


「十分分かります」


 それは嬉しい。ちゃんと伝わってた。


 騎士達から逃げたらしいヴァンさんがリーレイ様の傍に来て、「何の話です?」って首をかしげてる。それにはセデクさんが答えてくれた。


「へぇ。動きたいからとか剣得意とかじゃないんですね」


「剣は振った事無かったです。俺の家兄弟が多いんで、それに親父が早くに死んでてお袋一人で育ててくれたんです。だから弟妹の面倒見つつも、俺が稼がないとって思って。そんでここに来ました。今はもう弟妹も成長したんで、家の事は任せてますけど」


「バールートさん、末っ子に見えますけど」


「えぇー。俺一番上ですよー」


「嘘は駄目ですよ」


 本当ですー。なんで俺が末っ子に見られるんですかね。

 流石に不満だわって顔に出すけど、皆揃って「うん末っ子」って頷く。怒りますよ?


 周りには他の騎士達も集まってきて、俺はガシガシ頭を乱暴に撫でられる。やめてほしい。本当に末っ子みたいだ。

 子供の頃に弟にやってきたのを思い出してちょっと複雑になるけど、そんな俺らを見てリーレイ様がクスクスと笑った。


「バールートさんがいると、皆さん楽しそうですね」


「あ。分かります?」


「コイツってなんかこう…弟みたいなんですよねー」


「あ。また人を末っ子扱いですか?」


 ハハハッて笑う皆。でも、そんな皆を見てると俺も嫌な気はしない。

 辺境騎士団に来て良かったなって思える。勿論、ランサ様に会えた事も。


「お前達。揃いも揃って鍛錬をサボるとはいい度胸だ」


「「げっ…!」」


 やって来たランサ様。俺らを見て不敵な笑みが浮かんでる。…これは潰されるかも。

 騎士の悲鳴が揃う中、リーレイ様がランサ様を見た。


「ランサ。ごめん。私が手合わせしてて皆さんのお邪魔をしたの」


「いや。リーレイの鍛錬にばかり気を向ける彼らの問題だ。リーレイは気にしなくていい」


 シュンと眉を下げたリーレイ様に、ランサ様はすぐに笑顔を向けた。切り替えが凄い。

 それを見たセデクさんとヴァンさんが「嫌を隠そうとしないな」「お嬢だけですよね気付いてないの」っておかしそうに笑ってる。


 俺もそれを見てなんでか笑みが浮かんだ。

 うんほら。あんなランサ様の顔見たことない。リーレイ様にだけだ。


 ランサ様はリーレイ様に出逢えて嬉しいんだろうなって分かる。

 俺も嬉しい。俺らの事知って。仕事を知って。ランサ様を知って、好いてくれて。


 そういう人が来てくれて。何よりそれがリーレイ様で。

 それが何より嬉しいなって、思えるから。






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