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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
招待と調査編

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111/258

111,平穏が一番です

 セルケイ公爵とダルク様にも謝罪と感謝を伝え、改めて私達は顛末を共有する事にした。

 私も、連れ去られてからの公爵家の動きを聞いた。


「スイ様が私のフリを…? あぁ。だから私を見てビレーヌ伯爵は驚いてたんだ…」


「だろうな。相当に動揺していた」


 そっくりさん案件が解決した。だけどビレーヌ伯爵が動揺する程だったなんて。私も見たくなる。


 逆に私は、私が得た情報と仔細を話した。

 アルギ達の事にはセルケイ公爵もダルク様も少し警戒する様子を見せた。


「気になる相手ですね…」


「はい。ただ…アルギはやけにあぁいう事態に慣れている様子にも思えました。隠れて動いていた仲間達も、つまりは見つからない動きが出来るという事ですから。相当な者達だと思います」


「商人ですっけ?」


「うん。相当に治安の悪い所にも赴くとか。実は騎士が変装してるとか。そういう素性じゃないかな」


 私達がよく目にする商人とは違う。情報収集の為に変装してるとかっていうのは十分にあり得るから、そういう人達かもしれない。

 不敵で。余裕を見せる。あの精悍な容貌に浮かぶ笑み。何があろうと崩さない己の空気と冷静さ。


「セルケイ公爵。焼け跡からは…」


「少なくとも死者は出ていません。どこかへ逃げています」


「良かった…」


 あの火の中でもアルギ達は無事に逃げられたんだ。ひとまずホッとする。

 私の隣ではランサがバールートさんとエレンさんに鋭い指示を下す。


「顔は憶えたな? 見つけ次第報告しろ」


「「はい」」


 辺境伯直属隊の騎士に出来るのはあくまで警戒する事。罪状なく捕まえることはできない。

 ランサが警戒するのは得体が知れないという事と、アルギ達が組織的な一員ではないかという疑いがあるからだ。


 アルギの事についてはいくつか推測はできる。その中で最もあって欲しくない最悪は、カランサ国で未だにツェシャ領を虎視眈々と狙っている者達の一員であるという可能性。

 だけどその場合、私を連れて行くのは不利だ。国家問題になり罪状が増える。

 貴族の誘拐事件には…特に私の立場になればティウィル公爵家が黙っていないし、騎士団も動くだろう。アルギは私がランサの婚約者だと知っている。いくら好ましく思われても、それを上回るような連れて行く利点はない。危険だらけだ。


 他にも可能性は浮かぶ。

 治安の悪さに慣れているただの商人で、偶々贋作に気付いただけだという線。どこかの商会が贋作に気付いてひそかに送り込んだ手先とか。


 私はただ、ランサの危惧する事態でなければ、それでいい。


 一連の話を終え、ダルク様がランサを見た。


「今回の件は陛下にもご報告しておきます。各地がそれぞれに贋作回収に動くでしょう。アルギと言う男については、懸念もありますので公には致しません。よろしいですか?」


「えぇ。お願いします」


 ランサはその言葉に頷いた。

 もうこの件でランサが出来る事は無い。しばらくは関所でも警戒は続けるだろうけれど、それは今まで通り。

 ランサは後をセルケイ公爵に任せる事を伝え、今回の件は終わりとなった。






 私はひとまず怪我が癒えるまで休む事になった…んだけど。


「ランサ。あの…」


「うん?」


 私はランサに部屋へ戻された。そしてソファに座らせられ、ランサが隣から動かない。近い…。

 二人になってしまうとどうも落ち着かない。


「皆は?」


「バールートとエレンはこちらの国境警備隊とビレーヌ伯爵を見張っている。ヴァンはリラン嬢とスイ夫人の所だ」


「…それで、ランサは?」


「リーレイがゆっくり休んでくれるか見ている」


 どうにも私は休めという事らしい。だけど部屋でじっとしているのはどうにも落ち着かない。

 それにランサが近い。うん。近いな。休めない。心臓がバクバクしてる。


「別に大した怪我じゃないし…。ちょっと外に出ても…」


「リーレイ。休まないなら朝の続きをしようか?」


「っ!? 休むっ休むから!」


 意地悪な笑みにカッと頬に熱が集まった。「残念だ」なんて本気なのか冗談なのか分からない声は聞こえていない事にする。

 ランサは私の髪に指を絡めて出て行く様子はない。それを見て私もランサに伝えた。


「休むから…ランサも休んでね」


「あぁ。リーレイが一日傍に居てくれる貴重な一日だ。こうして休むことにする」


 …私は休息の邪魔になってないよね。ランサがそう言うならそうなんだと思うけど。


 ランサとこうしていられるのは嬉しい。それは勿論心にある喜びだ。

 同時に、いつも忙しいランサにはしっかり休息をとってほしいと思う。私がじっとしている事がそれに繋がるならそうすることにする。じっとしているのは得意じゃないけれど。ランサの為になるならやれる。よし。


「後で、リラン嬢とスイ夫人を呼ぼう。ゆっくりできるだろう」


「うん!」


 そうやって、私の事を考えてくれる。その心が嬉しくて、私も同じようにしたいと思うから。






 それからランサは言葉の通り、リランやスイ様とお茶の時間を用意してくれた。

 セルケイ公爵邸の庭を借り、ヴァンやバールートさん、エレンさんも交えて。親しい皆で過ごす時間は何より楽しい。

 それに、途中でダルク様も来てくださった。


「では、辺境騎士団には女性騎士も少なくないのですね」


「はい。どうしても男性に比べれば力に差は出てしまいますが、それでも将軍が得意を伸ばす方法や戦い方を考えて下さるので、相応の実力者ですよ」


「騎士は男性が多いものね。リーレイが堂々と剣を振っていれば女性騎士も増えるのではないかしら?」


「夫人。俺はリーレイに危険はさせたくない」


 スイ様の笑み混じりの言葉にはランサも苦笑いだった。エレンさんもバールートさんも私の鍛錬相手をしてくれているから、やっぱり笑っていたけれど。


「私もお義兄様に同意です。お姉様はすぐに動いてしまわれますから」


「リラン…。大丈夫だよ。ヴァンだっているし。私だって危ない事はしないよ」


「お嬢。さらっと俺を引き摺りまわす前提にしないでくれます?」


「来ないの?」


「…そうですねー。まずランサ様に相談するって選択で」


「うっ…」


 ヴァンが狡い方法を取ろうとする。詰まる私にはバールートさんが吹き出した。

 ヴァンはやっぱり意地悪…。


「それは悩ましい相談だな。俺は行かせたくないが…」


「将軍が行くなら私も、となるのがリーレイ様ですしね」


 ランサは困っているのか肩を竦めて私を見る。ごめん。見返せない。

 ランサは多分止めないと思うけど…。私も私を守れるようにはならないと。


「分かった。ツェシャ領に戻ったらもっと鍛錬する」


「待てリーレイ。どうしてそうなった」


「私が強くなればランサの心配もなくなる!」


「なくならない」


「どうして?」


 あれ。ランサが頭を抱えだした。

 傍では皆が笑っていて。ダルク様まで驚いたような、それでもやれやれって顔をする。…ラグン様にされる反応を思い出してしまった。


「リーレイ様はとても勇敢な御方で…。以前ラグン殿が頭を抱えていらしたのを思い出します」


「ダルク様。お姉様はとても行動的な方ですから」


「ですが、リラン嬢も負けず劣らずとお見受けします。今回で何度、お二人の印象を塗り替えられたか…」


 あら…。ダルク様が初めて見るような微かな笑みを浮かべられている。悪く思われてはいないみたいで、今は眉間に皺もない。

 そんな姿にリランは首を傾げる。


「あら…。私は何もしていないと思いますが…」


「十分したと思うが?」


「えぇ。十分に」


「お義兄様もダルク様も。もうっ」


 少し頬を膨らませるリランには、私もヴァンもスイ様も思わず吹き出した。リランは不満そうな顔をするけれどどうにも治まらない。

 リランは大人しそうに見えて、言い出したら聞かないところがある。今回もそうだったってヴァンに聞いた。


「そんなだからラグン様が妹三人に手を焼くんですよ。三人揃ってこうと決めたら一人でも動くんですから」


「あら。そんな私達を兄様と一緒に止めに来たのは誰だったかしら?」


「放っておいたら俺がジークン様に殴られるじゃないですか」


「かもしれないわね。だから子供の頃は随分勝手したわ。ごめんなさい」


「いーえ」


 スイ様も笑って、懐かしそうに笑みを浮かべる。私も同意だ。

 叔父様が領地の屋敷に呼んでくれた時、我が家へ来る前のヴァンに数度会って、五人で遊んだ。懐かしい日々だ。

 その頃からずっと、私達は五人の兄妹でもある。


「気になる話だな。是非聞かせてくれ」


「うんっ」


 子供の頃の懐かしい話には花が咲く。

 嬉しくて。楽しくて。遠慮なく笑える時間は、あっという間に過ぎて行った。






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