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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
招待と調査編

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110/258

110,護衛は守るのが務めなので!

 ♦*♦*




 すぐ傍、ベッドに腰掛けたランサが私の手をぎゅっと握ると、少しだけそれまでとは違う空気をまとって私を見た。

 そんな様子に私もランサを見る。部屋の窓からは光が入って来る。そんな時間なんだと解っても、今はランサがベッドから起こしてくれそうにない。


「ランサ…?」


「リーレイ。そのアルギと言うのは、一緒にいたあの男か?」


「うん。私を放り投げた人で。傍にいたのはサンスとランフォルって言うアルギの仲間みたい」


「その二人も捕まっていたのか?」


 ランサの問いに私は最初から説明する事にした。

 夜会の廊下で捕まって。閉じ込められた部屋の中の牢にアルギが居た事。アルギも贋作を調べていた事。サンスとランフォルが外から来てくれたという事。

 ランサは口を挟まず聞いてから「そうか」とだけ呟いた。


「事情は分かった。色々と気になる事はあるが…。最後に奴が言っていたのはどういう事だ?」


「最後…?」


 色々と他愛ない話をしてた気がするけど記憶を掘り起こす。


『俺は割と本気だぜ? 辺境伯の所が嫌になったら俺の所に来い。リーレイ』


 …これかな? 思い出してランサを見ると、どうにも少々物騒な空気が。うん。これに間違いない。


「あの男に…何かされたか? 正直に言ってくれ。今すぐ斬りに行く」


「何もないよ!?」


 じっと私を見る目にあるのは、鋭いけれど心配してくれる色。

 誤解をさせたままなのは良くないし、何もないとちゃんと伝えないと。だから私はランサを見てちゃんと伝えた。


「何もされてない。大丈夫。アルギはその…私に一緒に来いって言ったの。面白い女って思われたみたいで、多分興味だと思うんだけど…」


「いや。あれは俺の敵だ」


「…そうなの?」


「あぁ。…リーレイ。アイツは、自分はリーレイの事を好ましく思っているからいつでも受け入れてやると言っているんだ。解るか?」


「…そうなんですね」


 言葉って難しい…。アルギは面白がってしかいなかったと思ったんだけど。

 人の心って難しい…。もしかして私はランサがいつもまっすぐ伝えてくれている事に慣れて、誰の言葉もそのまま受け取っているのかな…? いけない。これはいけない。


「だとしてもランサ。大丈夫。私は行かない。ランサが好きだもの。隣にいたいから」


 照れくさくて普段なら言えない言葉も、今だけはすらりと口から出て来てくれた。

 心配させたから。ずっと傍にいてくれたみたいだから。私もちゃんと伝えたくて。


 やっと言えた。言えると嬉しくて。でもやっぱり恥ずかしい。


 ランサはとても驚いた顔をして握った手にぎゅっと力をこめた。

 そしてどうしてか、何かに苦しむように前髪をくしゃりと掴むと、項垂れるように頭を下げた。


「…本当に…」


「ランサ?」


「もう無理だ」


 小さく紡がれた声を聞き返そうとした瞬間、がぶりと口を塞がれた。

 握っていた手が背中に回り、もう片手が後頭部に回り。強い力は放してくれない。


 体が強張ってしまうと一層に強い力に包まれて。唇に触れる熱が熱くて仕方ない。

 全身が熱に包まれ。染まっていく。堪らずランサのシャツをきゅっと握った。


「ランっ…」


 離れてもまた唇が塞がれる。押し当て。軽く噛み。堪らない熱と力に私の体から力が抜ける。

 どちらの唇も熱くて。その形が分かる程触れた後、ランサはやっと放してくれた。だけど次には額に。頬に。目許に。止まることない口づけの雨を落とす。

 耳に近い音と触れる感触がどうしようもなく恥ずかしくて、自分が頼りないくらいに力が抜けていく。


 そんな私をしっかりと抱き締め、ランサはさらに攻めてくる。


「リーレイ。…リーレイ。愛してる」


「ランサっ…」


 駄目だ。耳が震えて仕方ない。心臓が飛び出そうなくらい煩い。全身が熱い。

 口から出る言葉はあまりにも小さくて頼りなくて。ランサはそれを聞いてクスリと笑う。


 何かに掴まりたくて。縋りたくて。そっと目を開ければランサと目が合う。

 鋭く強い白銀の瞳が私を見つめる。獲物を狙うような鋭さと、確かな熱を感じさせる目に、逸らせなくなって心臓が高鳴る。


 そんな私をじっと見つめ、ランサはまたそっと唇を重ねた。

 …あぁ。もう駄目だ。覆い被さるようなランサに身を委ねると、そっとベッドに身体が沈んだ。


 剣を握るランサの手がそっと私の頬に触れる。優しく愛しそうに。そんな手が私は好きだ。


 身を屈めたランサの唇は私のそれと重なる。そのまま首元にも落とされた熱に少し、身体が強張った。

 そんな緊張に気付いたランサが、優しく私を見つめる。安心させるような笑みを浮かべ、唇を重ねようと…


「ランサ様います? 起きてます?」


 …寸前、室内の空気を霧散させる声が扉の向こうから聞こえた。

 いきなり室内が静かになったような気さえして、私も体がピタリと固まった。そんな私の前でランサは扉に一瞥を向ける。


「…邪魔が入ったな」


 不機嫌そうなその声に、私も思考が晴れた。それまでとは全く別の意味で頭が真っ白になる。


 全部抜けてた! ここセルケイ公爵邸だよね? 皆いるよね? 外はもう太陽が昇ってるし皆起きるよね? 私も馬鹿! 迷惑かけといて何やってるの!

 もう顔を覆うしかない。こうなると羞恥をどうしていいか分からない! 誰か助けて! いやもうっ私を見ないでほしい!


「あれ。寝てます? それとも…入っちゃ駄目なやつ? お嬢生きてます?」


「生きてる無事です大丈夫心配かけてごめんなさい起きてますごめんなさいぃっ!」


「あ。入っちゃ駄目なやつですねこれ」


 やめてぇ! 羞恥と己の浅はかさにベッドの上で悶え苦しむしかない。そんな私とは違ってランサは平然と…ってもう不機嫌そうな顔しないで!


 ランサはやれやれと肩を竦めると私を見た。


「リーレイ。残念だがまたにしよう」


「次は流されないから絶対に!」


 楽しそうに笑われるとこっちは羞恥しかない。不自然に声が大きくなっても仕方ないと思う!

 心臓バクバクな私はがばりとベッドの上に座り直した。


「ヴァンどうぞ!」


 ちょっとだけぴしゃりと強い口調になってしまったけど、言うとヴァンが扉を開けた。


「あ。大丈夫そうですね」


「何もないから!」


「ヴァン。良い所だったのに邪魔をするな」


「ランサ!」


「いやいや。これがお屋敷ならまぁいいかって思ったんですけど一応。それに俺、お嬢の護衛なんで。流されるだけの危機は一応助けるべきかと」


 ヴァンに笑いながら言ったランサも、ヴァンの言葉には「こういう時は仕事をするなお前は」ってひとつ笑う。

 …もう。ランサがどこまで本気だったのか冗談だったのか分からない。


 少し頭を冷やすつもりもあって、ベッドを下りた私はヴァンに近づいた。

 ヴァンはランサと同じで長身だ。子供の頃は意識しなかったけど、とっくに見上げるようになっている。


「ヴァン。心配かけてごめん」


「全くです。夜会じゃ俺傍にいられないんですよ。今後気を付けてください」


「うん。気を付ける」


 ヴァンはいつだって傍にいられるわけじゃないから、私も頼りすぎにならないようにしないと。


「本当に気を付けてくださいよ。俺がジークン様に殴り飛ばされますんで」


「…うん。気を付ける」


 ヴァンの目がものすごく真剣で本気を窺わせる。

 叔父様はそんな事…しないと思うけど。妙にヴァンは本気だ。切実さが感じられる。


 何とも言えずにいると不意に、身体がふわりと浮いた。驚いて見ればランサがいつの間にか傍に居て私を抱き上げていた。


「ランサ…!」


「リーレイ。足を怪我している。痛めるぞ」


「大丈夫だから」


 いくら訴えてもランサは聞く耳持ってくれない。そのままの足でソファに私を座らせた。

 足首は見れば包帯が巻かれている。今はもう痛くない。


「お姉様!」


「リーレイ!」


「リラン。スイ様」


 ヴァンの後ろから二人が顔を見せた。なんだか久しぶりにすら思えてしまって私は立ち上がり…かけたところをランサに止められた。心配症だなぁ。

 二人はすぐに駆け寄って来てくれて、私は二人と軽い抱擁を交わす。


「もうっ。心配したわ。良かった。無事で」


「はいっ。本当に…」


「スイ様。リラン。心配かけてごめんね」


 ぎゅっと抱きしめてくれる力が、二人にかけた心配の証。そう思うとどうしても眉が下がってしまう。

 だから私も、精一杯二人を抱き締めた。謝罪と安堵を混ぜて。


「リラン嬢。スイ夫人。リーレイを頼む。朝食の後にセルケイ公爵を交えて事の仔細を話し合う事になっているんだ」


「分かりました。すぐにお姉様も準備をします」


「頼む。ではリーレイ。後で」


「うん。ランサ。ありがとう」


 ランサとヴァンはひとまず部屋を出て行った。

 そして私は、リランとスイ様と無事を喜びつつ着替えを終え、朝食を頂く事にした。






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