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霧ヶ峰蒼太、の20

 「提案?」

 訊き返す僕に、トールは「そうだ」と頷く。

 「断る。こちら側にはなんの利益もない」

 まあ、そりゃそうだわな、とせせら笑う鷺を、トールが目で厳しく制する。

 「ゲームだろ、ゲーム。こういうのは楽しいのに越したことはない。どうだろう、条件を呑んでくれたら、こちらが外すたびに飲む酒を三杯にする」

 「そりゃリーダー、アンタにはご褒美だろ」再び鷺が揶揄する。

 「黙れ、鷺」今度はトールから鋭い言葉が飛ぶ。

 鷺は二の句をつごうと開いた口を、慌てて閉じた。

 「別に外したからって、そっちのペナルティは一杯で構わない。まだ一戦終えたばかりだが、()も本気を出さにゃならん気がする。そうだろ?」


 そんな都合、こっちにはどうでもいい話だ。

 だが、勝つのは分かりきった勝負をゴネるのも不細工な話に思えた。

 「いいさ。だが、五杯だ。僕が当てるたびにそっちが五杯飲むっていうなら、その条件を受けてもいい。もちろんこちらが外した時は一杯飲むだけですませてもらう。三つが五つになるだけだ。アンタにはご褒美なんだろう?」


 かくなる上は早々に潰してやるさ。


 「じゃあ、それで決まりだ」

 トールはニヤリと笑った。さっき並々と酒を注ぎ今は空になったショットグラスを、ポケットから取り出したハンカチで雫ひとつも残らないくらい丹念に拭う。次いでテーブルに溢れた酒をも同様に拭きとる。間接照明の下まっさらなステージが現れ、緊張感がぐいと増す。

 「じゃあ、いくぞ」

 トールはコインをグラスの一つに隠し、改めてこちらを見やってくる。値踏みする光は、緒戦と変わらない。

 おい、とカウンターのマスターに声をかける。

 「グラス二つ追加だ」

 間を置かず、テーブルにショットグラスが二つが運ばれてきた。同じ形、同様の色味のものだ。

 「三つが五つになるだけだ。そうだろ?」


 トールの仕草にはまったく無駄がなかった。

 存外、食えない奴だ。

 

 


 


 


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