霧ヶ峰蒼汰、の17
金谷透がテーブル越しにこちらを見ている。その視線はまっすぐすぎて顔に穴が開きそうだ。
しかし、どうしてこうなった。
鷺が放った突然の提案の後、トールが「じゃあ、よしわかった」と言ってカウンターから陶器のショットグラスを三つ運ばせてきた。ショットグラスは円錐形で、口につける面を常に伏せておかなければ立てておくことはできない。小人が被る帽子のようなグラスがちょこんとテーブルに鎮座する。
「ここにコインがある」
トールが百円玉を出して見せた時、おおよそ次の台詞は予感できた。
「この中にコインをひとつ入れるから、どれに入っているのか当てるゲームをしよう。なに、ほんの余興さ」
余興、ね。悪戯心が湧いた。
「その百円玉、触らせてもらってもいいかな」
トールが「どうぞ」と人差し指で百円玉を滑らせてきた。
手に取ってみる。
平成三十一年と刻印されている。
「珍しいコインだ」
平成は当時の天皇陛下が譲位されて、たしか五月だったかに今の年号に変わっている。そのため平成最後のコインは少しだけレアだったはずだ。
勿論そんなことは関係ない。
僕にはコインに触れる口実があればそれでよかった|。
「気がすんだ?」そう返すトールに小さく頷く。コインを指で押し返す。
じゃあ始めよう。慣れた手つきでトールはコインをショットグラスのひとつに滑りこませると、三つのグラスをすいすいとテーブル上でシャッフルしていく。
「何回勝負にしようか?」
「何回でも」
僕がいったんコインに触れた以上、負ける要素は一切ない。




