安城シーナ、の13
季節が変わったからといって、普段の生活がそう劇的に変わるなんて夢物語はないし、実際安城シーナの日常にはそんな転機は訪れていなかった。
スーパーのレジ打ちのバイトが以前より多少サマになっただけで、毎日はそれこそ「朝陽が東から昇って西に沈む」その繰り返しだ。
多少変わったことがあったといえば、友人の友永京子に彼氏ができて、それがつい先日終わったことくらいだ。
「聞いてよ。あの鏑木新平、二十五歳って言ってたのに実は四十近かったのよ。こんなことってありえる!?」
十分あり得るでしょうが。というより、五十歳まで逝ってなくてよかったじゃん。そもそもあの飲み会の時、あんただってさり気なく一歳サバ読んでたじゃん。
勿論、親友としてはそんな恐いことを口に出したりはしない。
となりでニヤニヤしながら「そうだよねーひどいよねー」と連呼している多幸幸乃(旧姓薄井幸乃)のようには流石になれない。
「あたしの人生プランが大幅にズレこんだわ~!返せよあたしの貴重な二カ月と三日!」
「ホント男ってそう。ひどいよねー。京ちゃんに心から同情する!」
あんたの二十離れた旦那にもあたしなりに同情するわ。
二人の友人のどうでもいい会話を余所に、安城シーナは今にも葉を落として冬への支度を着実にすすめている街路樹を喫茶店の窓越しに眺めていた。最近、アパートに帰っても伸悟のことを思い出すことは少なくなっていた。
さすがにもう「男に騙された」というゆるぎない事実を自分自身根っこで受け入れつつあって、これまでずっと信じようとしていた「裏切りを認めたくない」という感情に対しても、ようやく向き合う気になっていた。
あたしもたいがい馬鹿なんだよねー
木でさえ淡々と次の季節に向けて準備しているっていうのに、あたしってば人間なのに完全停滞。霊長類失格かしらね。
友永京子と多幸幸乃の馬鹿話はまだ続いている。
いっそバイト仲間の滝根洋子にでも誰か良い人紹介してもらおうかしら。
ふと秋風混じる外の街路樹通りに、あの時の青年、霧ヶ峰蒼汰を思い出す。
あれはきっと、こっぴどくフッた部類に入るよね。
だってグーパンで殴ったもんね。
ふ、と笑みがこぼれたのを友人二人は見逃さなかった。
「ちょっとシーナ聞いてる⁉男ってひどいって話をしてるんだよ。笑ってる場合じゃない」
「そうだよー。シーナそういうトコあるよ」
ふ、とまたこぼれる。
停滞は自分だけじゃない。でも流石にこんなにピーチクさえずる気にもなれない。
「今さらだけどさ、五十歩百歩ってすごい言葉だと思わない?」
安城シーナの不意の言葉に、友永京子と多幸幸乃はお互いの顔を見合わせて「なに言ってんの?」と口をそろえた。




