霧ヶ峰蒼汰、の15
「おいおい本当にどうしたよ」
鷺が僕とヘルメスの間に口を挟んできた。雰囲気を読んでの行動だったが、ピリピリした状況に変化は生まれない。ヘルメスがそれを楽しむようにニヤニヤと口元を歪めている。
「初対面なんだ、何もあるわけないじゃん、なあ」
ああ、と短く答えるが、出てきた声はかすれていた。
どこが、というわけではなかったが、とにかくヘルメスの一挙手一投足が、僕の胸に都度、針を打ち込んでくる。
根っこの部分で、僕がヘルメスを毛嫌いしているのだと気付かされる。
ねめつけた視線を感じたのか、ヘルメスが僕から鷺の方へ視線を切った。
「今日、リーダー来るんだろ?何時ころかな、これから俺、用事あんだよね」
軽薄な声。
「どうせまた女がらみだろ?今日はやめとけよ」鷺が釘を刺す一言を放つ。
言われたくないし、そう唇が動いていたのが、わかった。呟くヘルメスの表情には怜悧の相が浮かんでいて、それを目の当たりにした僕は、口に入っていた最後の酒の一口、を覚えず一気に飲み下してしまった。
「とにかく、今日は、ダメだ」
さすがに鈍い鷺も察したのか、あらためてヘルメスに対して二連、釘を刺す。そのうえで、そういうわけで、だ、と今度はこっちを見る。
「おまえにもうちのリーダーを紹介したい」
何がそういうわけで、だ。
コイツもこいつだ。
どうしてこの男は昔から行動がこうも突発的なのだろう。常に自分中心で物を考え、相手の都合や思惑など考えもしない。まあ、高校時代から変わっていないといえば安心できる節もあるが。
鷺は、これからリーダーが来ると言っていた。
その一節一節に違和感があって、わずかに息苦しさを覚えた。
そういえばまだ今日は悪いことが起きていない。




