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安城シーナ、の10

 図星は、指されるととても痛い。

 自分に多少なりとも該当する事柄があるほど、それは深く心を抉ってくる。

 一見して厚顔にも見える安城シーナだって、なにも自分に対してあけすけに無自覚なわけではない。

 

 あたしは承認欲求が他人よりいくぶんか過度なだけ。

 これまでそう思って生きてきた。

 だからそのことを初対面の、まして一つ年下のガキンチョに『自己顕示欲過多だ』と言われたことについては、傷ついたし、なによりむかついた。

 承認欲求と自己顕示欲とは似てるけど全然違う。

 承認欲求が可愛さを匂わせる言葉であるのに対して、自己顕示欲はあきらかに人間としてイタイイメージがあるように思える。


 「殴んなくてホント良かったよ」友人の友永京子はシーナの肩を叩いてそう言った。その顔にいつものふやけた感じはなかったから、本気でそう思って口にしたのだろう。

 

 まあ、でも、後できっちり殴るけどね。


 「忘れてさ。まあ飲みなよ」薄井幸乃が仕切り直しとばかりに新しいビールの入ったジョッキを渡してきた。

 飲むけどさ。

 グッとジョッキの半分を空ける。

 男性陣が「いい飲みっぷりだ姉さん」と手を叩く音が聞こえた。

 それには応えず、もう一口、ビールをあおる。


 早く起きないかしら。


 安城シーナはうずうずとしながら、目の前の青年が起きる瞬間を待ち望む。彼女がこれまでに自分のことを『面倒』と評したやつらを制裁しなかったことは、ただの一度もない。

 その日の機嫌や言われ方で軽く小突く程度から、果ては飛び蹴りまでの幅はあるものの、言われっぱなしということだけは決してなかった。

 そう言った行為や考え方を含め、それは客観的には『面倒くさいヤツ』のやることで、これまで再三に渡って「やめときなよそういうのは」と二人しか残らなかった友人にも苦言を呈されてきた事だった。


 「やめないわよ?やめたらあたしが面倒なヤツだって認めることになるじゃない」


 苦言のたびに、シーナはいつも目を逸らし、斜め上を向いてそう答えてきた。最近ではようやく友人二人にも諦めが生まれたようで、「シーナはそういうやつだから」で済まされるようになってきている。

 ただ、そうなるとなったで、シーナ自身は面白くない。

 友人ならもっと粘って止めるとかさ、してくれるもんじゃないの?などと内心考えているからタチが悪い。

 テーブルに突っ伏して軽くイビキをかいている青年は、まだ目を覚まさない。

 むう、と唸る。先刻の無礼を丁寧に説明して、思い切り殴る準備は出来ている。軽く指でつついてみるが、起きる気配はまるでない。多少飲ませすぎたかしら?

 「困ったな。目を覚ましてくれなきゃ、清々しく殴れないじゃないの」

 つついていた人差し指で『そうたん』の頭を今度はグリグリと弄る。

 そうたんが眉間に皺を寄せて苦しそうに小さく呻いたのを見て、シーナの胸は少し晴れる。

 

 そうよ。悪夢に苛まれなさいな。

 

 指でグルグルと蒼太の頭に円を描いて、彼の表情が変わるのを楽しむ。


 安城シーナは、客観的に見て相応に面倒だ。問題なのは、彼女がそれをいっこうに認識しないところにある。

 

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