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安城シーナ、の8

 安城シーナは、注げば注いだだけ酒を飲み干していく目の前の青年を、とても面白いな、と思った。とりたてて冴えた容姿ではないが、会話にひねた感じがなく、素直な受け答えをする様には好感が持てる。聞けば、震災の際の津波で家族を失ったという。

 「ご苦労なさったんですね」

 いや、ええ、まあ、と、時折思い出したように涙ぐむ姿には同情を禁じ得ない。同じ東北人ではあったが、内地寄りのシーナの家ではとりたてて被害らしい被害はなかった。多少家が地震でガタついたくらいだ。もちろん親戚の家をたらい回しにされた経験もない。

 自分も大概不幸だと思っていたが、正直、比べ物にならない差があった。

 「あたしも自分のことを不幸な身の上だと思っていたけれど、あなたの方がよっぽどだったのね。ええと……」

 「霧ヶ峰蒼太です。そうたん、とでも呼んでください」

 そうたん、ね。顔を真っ赤にしているのは照れからではなく、単純に酒が過ぎたのだろう。言葉尻はすでに怪しさを醸していた。

 宴会が進むにつれ、『そうたん』は、目を閉じたまま動きを止める頻度が多くなってきていた。

 安城シーナは、ちょっと調子にのって飲ませ過ぎたかしら?と思ったものの、すぐに『飲み会だもの、いいわよね』と身勝手に考え直した。


 「こういうことの自己管理ができないなんて、なんてかわいいのかしら?」

 つん、と、目を閉じたままの青年の額をつつく。


 起きる様子はない。


 「なあにい?彼氏酔っぱらっちゃったわけ?若いのにだらしないな。おおい、起きなよ。お姉さん退屈してるぞ?」京子が自分も半開きの目のまま、ぷらぷらとした手つきで霧ヶ峰蒼太を叩こうとする。

 「ちょ。寝てるんだからやめなよ。あたしがちょっと飲ませ過ぎたんだってば」慌てて京子を止める。

 「ああ、わかった。お持ち帰りする気だね?いいんじゃない?あっちはあっちでよろしくやってるみたいだしさ」京子の視線の先にはロッキーがいた。ロッキーはこちらのことなどまるで気にする様子もなく、目の前の女子二人を交互に口説いている。

 それを見たシーナは、自分の意思とは無関係に目元がぴくりとひくつくのがわかった。


 節操という言葉はないのか?


 自分の慧眼のなさを棚に上げまくって、それでもシーナは自身を被害者然として神経を尖らせた。

 

 おお、あんたがその気ならあたしだって。


 そんな剣呑とした気配を察するように、間を読まない霧ヶ峰蒼汰が目を覚ます。

 当然、この後に自身がやらかすことなど、考えもしない。

 

 不幸の賽は、あっけなく放られる。世の中はたいていそんなものの積み重ねだ。

 

 

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