霧ヶ峰蒼太、の10
宴会は、なんだかんだで盛り上がった。結局、鷺が言っていた当初の予定通り轟が綺麗どころ二人といい感じになっていて、なぜか店長の立花もそのうちの一人と二次会へ流れるようだった。
「私たちはどうするよ、鷺くん」
すっかり鷺と仲良くなったのは友永京子という女性で、こちら側にいた三人の中では一番元気のいい女子だった。
「カラオケにでも、行っちゃう?」鷺が提案し、鏑木と薄井幸乃さんという女性もそれに同意した。なんだかんだいって鏑木と薄井幸乃の二人がもっとも意気投合したのではないだろうか。酔って互いに肩を組み、「カラオケ行くぞー!」と空いた片手を上げている。
「だいぶ飲んでいたけど、大丈夫?」
ベンチに腰を下ろして酔いに耐える僕の隣に、安城シーナが寄り添うように座った。僕にあたらないよう配慮して、髪をかき上げる。もったりした居酒屋臭をざっと勢いよく払い、時間差でシーナの髪からなんともいえない良い香りが漂ってくる。
酔いの見せるフィルター無しでもこの安城シーナという女性は輝いて見えた。
飲み会の最中、自分は決して周囲から見ても格好の良い存在ではなかったはずだ。
自分でもよくわかっている。
異性との経験値が僕には圧倒的に足りていない。相手に気に入ってもらおうと思えば思うほどに調子にのっていく性格は、最早破綻の域に達している。
彼女に注がれる酒を注がれるままにカパカパと空けていった。
そしてそのたびに僕の口をついて、ありとあらゆる虚言が、あるいは妄言が、さらっさらの清水のように湧き出ていった。
酔いつぶれた最後には、もう自分が何を言っていたのかさえ覚えてはいなかった。
次に意識を取り戻したのはカラオケ屋だった。酔った頭にガシガシと響く歌声は、ノイズを通り越して振動さえ伴っていた。時計を見ると、日付はいつのまにか変わっていた。
童話、シンデレラの王子なら、金の上靴あるいはガラスの靴を忘れていった灰かぶりの姫を二日酔いと筋肉痛の体をおして探しに出た頃合いか?
馬鹿だよな。暇にもほどがある。靴のサイズが合ったから嫁に決めたって?
足のサイズが同じくらいの女性がこの世にいると思っているんだ。
鳥が教えてくれた?馬鹿言っちゃいけない。鳥の言葉を鵜呑みにしてあんたの世界はいい方向に向いたのかよ、なあ王子。
そんな扁平な世の中なわけが、あるまい?
ノイズを子守唄に、もう一度目を閉じた。
目をしっかりと覚ました僕は、朝の白い光にさらされた御白州のような中にいた。
公園のベンチであることはすぐにわかった。
鼻がつまっていて、喉がイガついている。
記憶がまるでない。
後頭部になにか貼りついたみたいに頭が重い。
二日酔いの症状だ。そんなに飲んだのか?
首に温度のある弾力がある。昨日嗅いだ匂いがする。
両目を開けた僕の視界に、こちらを見下ろす女性の視線と声。
それが安城シーナであることはすぐにわかった。
「そうたん、大丈夫?」
そう、たん?誰のことだ。
シーナの大きな瞳は、しっかりとこちらをのみ凝視している。
つまり『そうたん』とは、自分のことだ。
しかし、状況は未だよくわからない。
酔ってる間に何があった⁉︎
膝枕された状態で僕はとてもわかりやすく、狼狽えた。




