安城シーナ、の6
安城シーナは、求めに応じて参加した飲み会で自分以外の女にべったり寄り添うロッキーを、刺す勢いで睨みつけていた。
昨日電話で「主演女優のいない映画が糞であるように、シーナ不在の飲み会などあり得ない」そのいかにもなロッキーの釣り言葉に、疑問を持たない彼女の純真は今まさに傷つきそうになっていた。
目の前に、生物学的には男に分類されるのが三人並んではいる。が、シーナから見て右のドレッドヘアの吊り目の男、左の二十五を騙る胡散臭そうなオヤジはすでに論外であったし、唯一見た目がまともそうな真ん中の男からは、こちらに対する、えも言われぬ忌避感が漂ってきている。
「私らにどうしろと?」京子がそっと耳打ちしてきたが、正直そんなのはこっちが聞きたい話だ。
ただ、唯一既婚者の幸乃だけは、自称二十五歳相手に興奮した様子で会話を楽しんでいるようだった。
「薄井幸乃は旦那がほら、二十も上だから。あんなの相手でも普通なんだろうけどさ」京子の耳打ちが続く。
「私はやっぱ年齢は?若い方がいいから。シーナ、席変わりなさいよ。アンタの正面割とイイ線いってるじゃん。私口説くからさ」
普段頼み事に関しては首を縦に振ることの多いシーナも、絶賛恋人不在中(?)の身としてそこは流石に譲る気にはならなかった。
「ダメよ。彼はロッキーがあたしに紹介してくれるって言ってた人だもの」
もっともらしく口にしてみたものの、真っ赤な嘘である。
「え、そうなの?シーナ、さては私たちのことをダシに使ったわね?」京子が口を尖らせる。
「そんなことしないよお」
ダシでもなんでも良い。人相悪げな吊り目や明らかにオジサンよりかはマシ。
それで京子。改めて確認なんだけど。
なになに。
こういう時、男子に気に入られるための『サシスセソ』ってあったじゃない。なんだっけ?
は?と京子はシーナの顔を窺った。
「何よそれ、いまさらかよ」
いい?よく聞きなさい?
サ……さすがぁ♡
シ……シビれるぅ♡
ス……スゴぉい♡
セ……切羽詰まってるぅ♡
ソ……ソレな!
「オッケ!京子ありがと。ホント恩に着るわ」
「任せときな。私ら親友じゃん。応援するよ」
シーナは、京子の教えてくれたサシスセソをもう一度頭で反芻した。咀嚼して、呑み込む。
目の前の、まだ幼さの残る青年に視線を向ける。
目が、合う。
「こ、こんにちは」
緊張でとてもたどたどしく、言葉を紡ぐ。安城シーナはまともな恋愛経験など、これまで一度もない。思い込みと空回りと、未遂があっただけだ。あらたまって、まともに異性と認めたうえでの挨拶でさえ、したためしがない。
ひー!緊張するーっ!
頭の中に心臓の鼓動がリンクして高鳴る。
そんなシーナに、目の前の男、霧ヶ峰蒼太がゆっくりと口を開いた。
「もうこんばんはの時間じゃないですかね」
「ソレな……!」
シーナがそれを言っちゃしまいでしょうよ、という顔をした。




