霧ヶ峰蒼太、の7
「そんなあなたに朗報だ」
鷺タケシが突然発した言葉は、世事に疎い霧ヶ峰蒼汰であっても一度なりは耳にしたことのある言葉だった。
最初の感想は「こんな台詞を生で聞く機会があるとは思わなかった」だ。
通常出回っているものからいくつかの機能を削いだテレビショッピングの商品の販売や、ネットの客引きサイトの文言でしかお目にかかれないような実に胡散臭い言い回し。
それを目の前の元同級生は、してみせた。
「なんだよ、それ」
突然にもほどがある。こいつの脳みそは絶えずどこか別の次元とつながっていて、いきなり受信した信号を突発的に口から出すように出来てでもいるのか?
「いや、週末さ、飲み会があるんだよ。で、お前どうかと思ってさ」
ひと仕事終えた車の中、型遅れのパソコンと武骨な事務机、象でもくるめそうなほど大きなプチプチのロールがみっしりと詰まった窮屈な車内で話すようなことには到底思えない。
「行かない」嘆息まじりに返す。
「なんで?」
嫌な予感しかしないからだ。それに週末と言ったか?
「お前の言う週末ってのは、いつのことだよ」
「そりゃあもう、明日だろう。金曜だぞ?ハナキンだ」
ほらな。
時計は午後八時を回っている。明日、こいつの言う週末はあと四時間もないうちに訪れる。
時間の感覚がおかしいのは、はたして僕なのか。それとも鷺のアホなのか?
さっきの『引越し』についてはトラブルとしてすでにカウントした。
これで連続五日ババを引いていることになる。
残りの金、土と、このままでは記録を更新してしまうかもしれない。これまで不幸は続いても、たいてい三日で終わっていた。
鷺が、死神の使いのように見えてくる。
「今日の明日で約束するやつがいるかよ。せめて三日前に言えよ」体裁よく断る。それに明日は普通にバイトだ。
「え?マジか。店長はさっき即決してくれたぞ?」
「は?」
「おお、俺は行くぞ?今から楽しみだ。な、鷺ちゃん」
「私も参加します」
そう答えたのは鏑木新平だ。ロープでぐるぐる巻きにされ、横になった状態で、それでも楽し気に笑っている。
「いや、店長明日普通に店あるでしょうよ。それにあんたは捕まって縛りあげられた分際でいったい何を言ってるんだ?」
店は臨時休業にしよう、と鼻歌まじりに車を運転する店長が言った。
なにを着ていけばいいですかね、と簀巻きの鏑木。
おかしいのは、はたして僕なのか?
なぜか頭がくらくらしてきた。




