安城シーナ、の4
スーパーのレジ打ちが嫌いなわけではない。時折どう扱っていいかよくわからない昔の年号の硬貨やお札が舞い込んできて、それ専用のレジポケットに一日で何枚溜まるのか期待する自分は、むしろ意外と好きだ。
まあもっともそんなことを楽しみにするような枯れた一日を送るのは安城シーナと、彼女から二回りも上の世代だけで、入ったばかりの高校生バイトは店で風変わりなお金を預かるたび、苦い顔をして、その都度店長をアナウンスで呼びつけた。
「またお札のガラが変わるって言うじゃないですか。もう諭吉でよくないですか?定着してますって」
お年玉で英世をくれる人はCないしD、眼鏡ならB、諭吉ならAで、諭吉’sならSクラスの親戚。
レジバイトの高校生、滝根洋子は、ようやく帳尻のあった自分受け持ちの清算を終えて、大きく息をついた。ランクについては以前彼女が言っていた言葉だ。
安城シーナはこれまでそうお金に困窮したことはなかった。Sまではいかないまでも、滝根洋子のいうところのAクラスの親戚が多くいて、年末から年明けにかけて彼女の財布へ補給される金品はゆうに十万円を超えていた。背景にシーナが彼女の家系血統の最末端であったからであり、彼女がいずれ結婚をしないなんて選択をした場合、安城の家は途絶する恐れが懸念されていたから、周囲は彼女をとてもデリケートに扱わざるをえなかった。
もちろん、シーナにはそんな意識も自覚もない。くれるからもらうし、あげる相手がいないから、自分で使う。
成人してなお盆正月に欠かさず実家に顔を出すのは本人に自覚のない単なる甘えの行動に過ぎなかったが、それを強く咎めることのできない周囲がいるから、いまだに絶えることなく『小遣いの譲渡』は悪習として継続されている。
節操の薄い娘を両親は心配するが、本人はどこ吹く風で奔放であったため、親族が集まった折りに責められるのは常に彼女の両親だった。
ラインで「元気なの?」と伝えると、「元気元気。お正月には帰るから」と、実に能天気な返答を返す娘にこれ以上どう伝えればいいのやらと苦虫を飲み下す日々だ。
スーパーのバイトが終わり、安くなって売れ残った弁当と牛肉を同じアパートの住人タエ子といい感じに分配する。
毎日売れ残ってくれませんかね、と洩らすシーナに店長のシビアな視線が放られる。
これを売るのが仕事でしょう?といわんばかりの目だったが、今日の肉担当は洋子だ。さすがに現役JK相手に野暮は言えないらしい。
心の中で舌を出し、帰路につくと、携帯がバッグのポケットで振動したことに気づく。
ロッキーだ。
そういえばパートが終わるころに電話を寄越すと言っていた。見栄を張らなければならない友人はここにいない。知らんふりをしてそのまま歩き出す。
ちょっと、いいの?電話、彼氏なんじゃない?とタエ子。
「まさかあ。あたしでかいゴキブリと同棲してる知り合いなんていませんよ」
シーナが好きなのは意外に適当に流れていく世界で、それを岸から眺める自分だ。お金は間に合うだけあればいいし話題から大きく疎外されなければそれでいい。
勿論、多ければ多いに越したことはない。欲を表立ってかいてると思われたくないだけだ。
あたしって健気だわ。
彼女の健気は少し身勝手だが、それを誰も突っ込まないから今、こんなになっているのだとは、彼女は微塵も思っていない。




