校長先生のお話
その学校では、集会といえばいつも校庭でやってたような、ほんとそんな覚えがあるんだ。
その日は、初めて参加した全校集会だった。なんの集会だったのかは忘れたんだけど、ともかく校庭に集まってた。
風が強かったのを覚えてる。
校庭って、晴れてて風が吹くと砂が舞うよね。なんか鼻の奥が乾いてパサパサになる感じ。
わかってもらえるかな。
たまに目にごみが入ったりでシバシバする感じも。
そして、日差しもそれなりに強くて息苦しかったなぁ。
そんなわけで、なんとなく不快指数が高かった。
ボクも始まる前から早く終わらないかな、なんて思ってた。
なぜだか集会が始まる前にはラジオ体操することになっていたので、多少だらだらと腕を振ったり腰を曲げたりする。
体操が終わった後も、静かなんだけど、どことなくザワついた雰囲気が漂ってる。
ボクは砂に○×ゲームを書いたりしてた。
勝ち方って決まってるよね。でも、すぐに忘れてしまうんだよね。
その、あやふやな必勝法がどんなのだったか、手順をあれこれ考え直したりしてた。
ふと顔を上げると、いつの間にか校長先生が朝礼台に立ってるのに気が付いた。
あのお立ち台、朝礼台って名前でいいんだよね、多分通じると思うけど。
で、マイクの前に、じっと立ってる。
あー、これはアレか。
「みなさんが静かになるまで○分かかりました」
って言われるやつだ。
前の学校でも言われたことあったから知ってる。
あちらこちらのノイズが、少しずつ、おさまっていくのを感じる。
ボクは、その後に続くお説教を想像して、ちょっとだけ気が重かった。
自分が何かしてたわけでもないけど(とくに親しい友人もいないし、騒がしくできもしないしね)、それなのに、まとめて叱られることになるわけで。
連帯責任感ってやつをすりこまれるんだ。
胃が重くなるんだよ。
すっかり気配のなくなった校庭。
たまに鼻の奥をおおう砂のにおい。
風切り音がマイクに乗っている。
それでも、あいかわらず校長先生はただ立っている。
虫の居所でも悪いんだろうか。
あー、むずがゆい。
ずっと同じ姿勢してたので、少し脚をずらすくらいしたいんだけど、それでさえ気が引けてしまう雰囲気。
たまに空気を震わせる生徒の咳する音も、ちょっと今はガマンしてくれよ、こっちだって堪えてるんだからという気分。
気にし過ぎかな。
まあ、その生徒も思いっきり堪えて少し息がもれたくらいの音だったからご愁傷様だけどね。
それにしても、風に舞った砂粒が、からだにまとわりついてくるようで。むずがゆい。
風の音がほんの少しハウリングしているかのような、不安定にうなるノイズ。
低周波。
仕方なく、校長先生の方を、凝視している。
遠目なのではっきりしないけど。
猫背気味の上半身がゆっくりと、ゆれている、のかな。
口が開いてるのかどうかは分からない。
どこを見ているのかつかめない視線。
まばたきも、しているのかどうか。
校舎の向こう、山の稜線に並んだ風車が勢いよく回っているのが目に入った。
首筋が日差しでひりつく。
いつも吹いている風が一瞬途切れた気がした。
「これで全校集会を終わります」
唐突に、校内放送が告げる声が聞こえてきた。
校長先生はもう見えなくなっていた。
「……分」
そんな声が風にのって聞こえた気がした。
※週イチ更新予定です(プロローグなど含む全11回)。