号令
授業の始めと終わりにさ、やるじゃん。
日直さんとかクラス委員なんかがさ。
お調子者だったら妙に声張ったり、逆にぼそっと聞こえる程度だったりで。
そう。
「きりーつ、きをつけー、れーぃ」
って、アレね。
その学校はさ、誰か担当になった人が号令かけるんじゃなくてね。
スピーカーから全校いっせいに流れるの。
その掛け声が。
って言っても、なんか不気味な声が流れる話とかじゃないよ。授業の都度、誰か知らない人の声が聞こえてくるだけで、いたってフツーな感じなんだけど。
録音、した声だったのかな。
いや、あらためて気にしたことなかったなあ。
毎回同じような声だったから、録音だと思うよ。
さすがにそうでしょう。
これはこれでちょっと変わってるんだけど。
それに加えて。
そのとき、先生いないんだよね。
これがまた変。
授業始めの礼まで終わって、みんなが椅子をガタガタさせてる頃に、ガラッて先生は入ってくるの。
で、ふつーに授業は始まる。
終わるときも、スピーカーからザザッてノイズめいた音がして、チャイムが鳴り始めたら、すっと出てくの。
で、号令が聞こえてくる。
国語でも、体育でも、美術でも同じ。
どの授業も同じ。
だーれも居ないとこに向かって気を付けして礼するものだから、みんな自然と音の方、スピーカーに向かってお辞儀してるわけ。
校庭とかだと、傍目におかしな感じだったろうね。
校内放送といえば、お昼ご飯のときも流れてたなあ。
教室でみんな給食を食べながら、やっぱりスピーカーに向かってモグモグしてた。流れてくる内容は、学校行事のお知らせや部活の試合結果、学校の噂話なんて他愛無い話、なんだかよく分からない音楽がながれたり、最近のニュースとか。先生へのインタビューなんかもあったかな。その他にもいろいろあったんだろうけど、何話されてたかって、そんな詳しくは思い出せないけど。
ま、そんな放送を、みんなが聞き入ってたわけ。
「手を合わせましょう。ごちそうさまでした」
落ち着いた声が、毎日同じ時間に校内に響きわたる。
片付けの音とともに、めいめい教室からこぼれ出ていって、人気のない教室を静寂が満たす。
そんな昼休み。
そういう学校だったなあ。
※週イチ更新予定です(プロローグなど含む全11回)。