わたしたちは生きていかなくちゃいけないの
私は19歳になって、ある女子短大に通っていた。私は就職活動中だった。会社を20件くらい回ったが、あまりいい結果はでていなかった。ある会社の面接が終わったある夕方、私は家に帰る途中、雨が降ってきた。そして、雷の音が聞こえてきた。私は傘を持っていなくて、ある店のシャッターの前に雨宿りをした。次第に雷はひどくなってきた。私はどうしようかと迷って雲間を見つめていた。すると、私は雲間に黒い人の影が見た。影はゆらゆら揺らめきながら、雷を地上に落としているかのようだった。私の頭の中で美佳の言葉が回った。
「雷神よ。」
私は驚いた。10年間忘れていた言葉だった。その言葉を思い出して、私は急に涙が出てきた。今、私は気付いたのだ。
私も美佳のようにこの世界からいなくなりたかった。
やっと、美佳の言った意味がわかるような気がした。隣を見ると美佳がいた。美佳は中学校の制服を着ていた。
「ねえ。雷神が見えた?」
「ええ。見えたわ。美佳。あなたは死んだの?」
「いいえ。わたしはただこの世界から消えたの。私には生も死もないの。」
「そう。あなたは中学生のままなのね。うらやましいわ。でも、わたしたちは生きていかなくちゃいけないの。大人にならなくちゃいけないの。」
私は泣くことを堪えることはできなかった。美佳はスカートのポケットからハンカチを取り出した。
「ええ。わかっているわ。でも、この世界にわたしの居場所はなかったの。だから消えたの。・・・ありがとう。」
美佳は微笑んで消えた。
影はいなくなり、雷はどこか遠くの方へ消えてしまった。そして雨が上がり、雲間から光が覗いた。私は美佳のハンカチで涙を拭いて、歩き出した。