選んだのはスローライフに必要なもの
転生させる世界を頑張って調査でもしたのだろう。良い笑顔のまま、長々と説明してくれた。
天照自身の感想が入り乱れていた為、俺には長く感じただけかもしれないが。
まとめると、こう言う事らしい。
・向こうの世界の名前は“グランダル”
・1年360日、1日24時間、四季がある。
・春夏秋冬それぞれ90日間である。
・こちらと同じメートル法がある。
・時間の単位も同じ
・稀に他の転生者がいる
・魔物がいる。
・魔物は基本的に魔素で構成されている。
・魔物は死ぬとドロップ品を残して、魔素へと戻る。
・ドロップ品は魔素が形となり残ったもの。
・スキルが存在する。
・スキルレベルは1〜10まである。
・固有スキルも存在しているが、100人に1人程度。
・スキルはレベルが上がる毎に貰えるスキルポイントを使って取る。
・魔物を狩ったり、雑用をこなす、冒険者という職業がある。
・ステータスがある。
・ステータスはレベルと共に上昇する。
・種族は大まかに、ヒト、獣人、ドワーフ、エルフ、ダークエルフ、魔族がいる。
・ヒトと獣人は平均寿命が70歳、ドワーフ、エルフ、ダークエルフは500歳、魔族はそれぞれで違う。
・獣人はもふもふではなく、ヒト族に近い姿で、ケモミミと尻尾が生えている。
・それぞれの種族のハーフも存在する。
・組み合わせによっては子供が出来にくい為、希少なハーフもいる。
・文化レベルは中世ヨーロッパ程度だが一部発達している部分がある。
・魔道具が存在している。
・魔道具は使用者のMPを消費して使用する。
・ミスリルなどの魔法鉱石がある。
・宗教は一神教、多神教、邪神教などがある。
・一神教、多神教の主祭神である、向こうの神の名前はガルガトル。
・新興宗教は、国によって対応が違う。
・俺が転生予定の国は新興宗教にも比較的寛容らしいが、一神教と多神教の祭神である向こうの神を主としない場合、邪神教だと思われる可能性が高い。
・転生予定の国の名前は“ライトニング”
・初代国王から取られたらしい。
・ライトニングの通貨はグラ。
・1グラ=100円程度になる。
・貴族制がある。
・人口はライトニングの首都ゼクスで5万人程度。
・転生する街は辺境伯が治めている都市。
・都市の名前はミーネル。
・ミーネルの人口は1万人程度
・ライトニングではここ数十年大きな戦争は起きていない。精々小競り合い程度。
・現国王は寛容な性格。怒ると怖い。
・貴族でも平民でも重婚できる。
大体はこんなところらしい。まぁ良くある転生ものと同じような感じか。その方が分かりやすくて助かる。
後の細かい部分は転生してから、現地で見聞きしてくださいと言われた。
めんどくさくなったんじゃ無いよな?
「それでは私達、八百万の神の中から好きな権能を選んで下さい!」
天照がウキウキとした様子で、俺に催促してくる。
月読と須佐之男はひと段落ついたと思っているのであろう。少し離れた場所で何処から出したのだろうか?ちゃぶ台の上に饅頭が置かれており、2人でズズっとお茶を啜っている。
なんかもう完全に他人事だなアイツら。
まぁそれはともかく、権能か・・。
そもそも、それぞれがどんな権能を持っているか知らないんだよなぁ。
「そうですよね。とりあえず私達のだけでも説明しましょうか?」
親切に天照が提案をしてくれる。
やはり神様なだけあってその辺は丁寧にしようとするし、優しいな。
だが断る!
「何でですかぁ!」
張り切って説明をしようとしていた天照の提案を華麗に断る。
まさか断られる事は無いと思っていた天照はその端正な顔を悲しげに歪ませて、詰め寄ってくる。
俺は現代日本人だ!平和ボケしているから、戦いなんて極力したくは無い!だから戦闘系は今のところ要らない!それに須佐之男の権能は予想がつく。姉に欲情する権能だろ?
「ぶっ!!!・・違うわ!!」
須佐之男は飲んでた茶を吹き出しながら、必死に否定する。それを見ていた月読は、嫌そうな顔をしながら距離をとっていた。
あっ!悪りぃ、権能じゃなくて、煩悩だったな。
須佐之男は反論しないまま、ちゃぶ台に肘をついて頭を抱えている。自分の世界に入っているのか、ブツブツ言いながら時折身悶えしている。
図星だったか。
さて、それを踏まえた上で、古事記に出てきた神々の様子から推測するに、俺が欲しい権能を持っているのは・・・。
「持っているのは?」
ゴクリと喉を鳴らしながら俺の言葉の続きを待っている天照。
「少名毘古那神だ!」ドンッ!!
天照は選んだ理由が分かってないのか、疑問に満ちた表情をしていて、月読は得心した表情で、うんうんと頷いている。
須佐之男は・・・まだ自分の世界から此方に戻ってきていない。煩悩強すぎな?
「あの・・スクナビコナちゃんですか?」
そうだ。あの神の権能だと、俺の理想にピッタリだ!
「なるほどね〜。君は最近流行りのスローライフを歩みたいって事なんだね?」
その通り!!流石月読。わかってらっしゃる。
「いや〜、古事記見たら分かると思うけど、僕って空気なんだよね?やっぱりさ、戦闘なんて面倒くさいし、スローライフが1番だよ。僕にもスクナビコナ君の様な権能があればなぁ。もっと快適にスローライフ送れたのに」
ふっ。貴方こそ俺が信奉すべき神だったか。
「君こそ、僕の信徒に1番相応しい人だね」
俺と月読は、何か心が通じ合ったのであろう。2人でうんうんと、頷いている。
これは月読を最初に祀るしかないな。
「え?ちょ、ちょっと待ってください!月読はちゃんとこちらに神社がありますよ!他の神様でお願いします!」
んー。そう言われてもなぁ。そもそも神社を持たない神って事は、俺も知らないような神様なんだろ?それじゃ祀るのが難しくね?
俺が今回の転生を根本から否定するような物言いをした為、愕然とした表情をする天照。
それを見て月読も思案顔になる。
「確かに・・・。でも僕達も完全には把握しきれてないからね。それなら正式な名前じゃなくて、例えば“〜之氏神”とか“〜之神”でも良いんじゃ無い?」
そりゃまた大雑把な言い方になるな。
まぁでも氏神様を家の庭に祀っている所のお札は、大体そう書いてあったりするから良いのかな?
「それで良いと思うよ。だからその時自分が祀ろうと思った神様を祀れば大丈夫でしょ。そうでしょ?姉さん」
天照は月読から急に振られた事で、それまでの愕然とした表情を戻そうと、頭を振って真面目な顔になる。
「そうですね。何せ未だに増え続けていますからね。そうしましょう」
それじゃ、例えば動物で、犬の神様とかなら、“犬之氏神”もしくは“犬之神”で良いって事か?何か違和感バリバリなんだが。
「もうそれで良いです!それなら犬の神達がそちらに向かえるでしょうから」
あいよ。まぁでも最初は月読かな。それと、向こうの神はこちらで言う神宮大麻の扱いでいいだろ?
天照にとってあまり良い印象のない向こうの神を自分と同様の扱いをすると聞いて、少し嫌な顔をしていたが、彼女はすぐに表情を元に戻した。
「仕方ありませんね。それが1番良いでしょうから。それはそうと話を戻しますが、何故、スクナビコナちゃんなのですか?」
「姉さん・・。彼の権能は何だい?」
月読がため息を吐きながら、天照に問いかける。
天照は、自分が理解できてないことに焦っているのか、あわあわとした感じで答える。
「え?えっと、物作りや自然を作る全般の権能だったけど?」
そこまでわかっているならスローライフに行き着くと思うけどな。
「ご、ごめんなさい。最近の流行りには疎くて・・」
シュンとしながら、天照が謝ってくる。
いや、謝らなくても良いと思うけど。まぁお年寄りには難しいかな?
「お年寄り・・・」
俺の言葉がグサッと来たのか、余計にションボリとする天照。
「あはははは!でも僕も年寄りだよ?」
まぁそうかもしれないけど。一発で分かってるから、まだまだ心は現役っぽいけどな。
「まぁそうだね。いや〜、君の事気に入ったよ。どうだい?僕と契りを交わさないかい?」
月読が本気とも冗談とも取れる口調で、そんなことを言ってくる。
いや。俺は女性が良いので!
謹んで辞退します!!
「そうなんだ?でも僕は近代では男神って言われてるけど、実際は性別がないんだよ?」
え!?
どう言う事??女にもなれるって事?
「そうだよ?ボクは男とも契りを交わせるよ?君の○○○をボクの○○○に入れて、気持ちよくなっても良いんだよ?」
わざとシナを作り、俺の事を流し目で見てくる月読。
心なしか、月読が可愛い系の女の子に見えてくる。
こりゃ一発ヤらせて・・、おっと下品だったな。言い直そう。
ヤらせて貰おうかな!(言い直せてない)
「だだだだダメです!今から転生するのに、そんな暇ないです!!それに月読!女の子化したらダメです!」
天照が俺たちの下品な会話を、顔を真っ赤にしながら遮る。
いつの間にか女化してたのか!?
これは新しい扉がひらいて・・・。っと、危ない危ない。かなり名残惜しいが、権能が先だ。
「そっかそっか。まぁ転生してから、ボクを向こうで祀ってくれれば移動できるし。それからでも良いよね」
月読のエッチ予約宣言に、俺の息子がやる気満々になりそうになる。
しかし悲しいかな。どう言う訳か心はエロい事したいのに、体が反応していない。何故だ?
「もう!!話が先に進まないから、制限しました!」
天照がプリプリと怒りながら、俺に死刑宣告を通達してくる。
え?制限されたって・・。
このままエロい事出来なくなんの?
「この場でだけです!向こうの世界に行けば戻ります!・・はぁ。とにかくスクナビコナちゃんを呼びますね」
心底疲れたと言う表情を隠しもせず、天照がため息を吐いた。
月読はこちらを見ながら肩をすくめてみせる。
その仕草も可愛く映ってしまい、俺は胸がドキドキしてしまう。
その辺の感情も彼らにはダダ漏れなので、月読が俺を見ながら舌舐めずりして、こちらを見つめてくる。
あ、これは向こうの人生での童貞は神に捧げる事になったな。
それもまたエロ・・ゲフンゲフン。興味がそそられて大変良い!
天照がこちらを半眼で見ている。
おっと、えっちぃ事ダメな天照さんは放っておこう。それよりもスクナビコナはいつ来るんだ?
「ここだよ」
俺の下の方から声が聞こえてきた為、顔を向けると、いつの間にかショタがいた。
「ショタって言わないでよ。ちょっと気にしてるんだからさ」
あぁ、気にしてるのね。
スクナビコナは少し長い黒髪に、身長が130センチ代か?顔は幼さを残しつつも将来イケメンになるだろうなと思われる程整っている。まぁこれ以上成長しないんだろうけど。
「そりゃ成長しないよ。もう何歳だと思ってるのさ?」
え?数千歳?
そっか。ショタジジイか。
「怒るよ?」
サーセン。
「はぁ・・。まぁ良いや。それじゃ、ぼくの権能を渡すね」
ショタジジイがそう言うと、彼の体から光の玉が出てくる。
それが俺の体の前まで来て、包み込まれていく。
温泉に浸かった時のように、暖かく心地が良い。これ、癖になりそうだ。
「はい。それじゃ権能は渡したから。ぼくは帰るね」
はやない?なんかヤり捨てされた感があるんだけど?
「ぼくも君と話をしたいのは山々なんだけどね。色々と忙しくてさ。それにボクも向こうの世界で祀ってくれるでしょ?」
そりゃ勿論。メインの権能だからな。
月読の次は貴方で決まっているさ。
それを聞いた、スクナビコナは肩をすくめている。
「メインのぼくが最初じゃないのは、ちょっとだけ納得できないけど。信奉する神と欲しい権能が別なのは理解できるし、まぁいいよ」
すまないな。さっき話しているうちに月読を気に入ってしまったから。
「まぁメインの3柱組だからね。仕方ないかな。でも君からちゃんとぼくの事も信奉している気持ちが見えるから大丈夫だよ。それじゃ頑張ってね」
俺に軽く手を振りながらスクナビコナは消えていった。
案外あっさりしてるな。そういう神もいるって事か。
そうやって自分を納得させる。
「グランダルに行けば、権能は固有スキルとして表示されるので」
苦笑いの天照が、捕捉の説明をしてくれる。
さてそれじゃ大体整ったかな?
「いえ。今回あなたの転生は我々神の所為なので、実はもうひとつ権能を渡して良いという事になっています。勿論向こうの神も賛成している事ですので、気にしなくても大丈夫です!」
マジか!?
余波で死んでよかったわ〜。
「現金だね〜。でもそういうところも良いよ」
天照の発言に喜んでいる俺を見て、月読が笑っている。
「その代わり!もうひとつはサブになりますので、権能を丸々渡すわけにはいかないそうです。なので選んだ権能に準じたものとなります」
ケチだな。
「むぅ!!私に言わないで下さい!」
頬をプクッと膨らませて、可愛く睨んでくる天照。
冗談だよ。それじゃもうひとつは・・・・。オモイカネかな。
「良いね!生産チートに知識チートか!もう人生勝ち組だね!」
月読は相変わらず理解が早くて助かる。
それじゃ早速呼んでくれ。
「わかりました」
天照がそう言うと、目の前に髪は髷を結った感じで、髭を胸ほどまで長く伸ばした、白髪のお爺さんが現れた。
「ほほっ!わしの権能を選ぶとは見る目があるのぅ」
オモイカネが嬉しそうに髭をさすりながら、こちらをニコニコと見てくる。
なんというかザ・好々爺と言った感じだ。
「本来なら全知識を授けたいところじゃが、まぁワシの権能全部は駄目らしいからのぅ。だから知識そのものは渡せぬが、お主の質問にワシが答える様な事を出来る形にしておこうかの」
それは有難いな。貴方を選んで良かった。
俺が感謝していることが伝わったのであろう。オモイカネがうんうんと頷き、光の玉で俺を包み込んだ。
光が収まると、オモイカネはこちらをニッコリとした顔で見る。
「お主にはすまぬ事をしたと我々神は思っておる。お主の次の人生が幸多き人生になるように願っておるよ」
そう言ってこちらを柔かに見つめながら消えていった。
うん。第一印象通り、良い人?神だったな。
オモイカネとのやり取りを黙って見ていた、天照と月読がこちらへと近寄ってくる。
不意に天照が口を開く。
「・・それでは、転生して頂きますね。本当にありがとうございます」
礼を言うにはまだ早いな。何せこれからが本番だろ?
真面目な顔をする天照に、肩をすくめながら軽い感じを出す。何かコイツ感極まって泣きそうだし。
「そんな事・・ないです」
まぁやっと今まで苦悩してた事が、少しは良い方向に向かう兆しが見えたのだ。それも仕方ないだろう。
天照が肩を震わせて、目に涙を溜めながら口を開く。
「やっと解放されるよ〜!!これで何か言われても、言い返せる!!私が後ろめたくて何も出来ないと思ってたエロ神達からのセクハラも跳ね除けれる!!」
よっしゃー!と涙の露の白玉が宙に散るほどの勢いで腕を天に振り上げて、そのまま昇天でもするのではないかと言うほどの、やり切った表情で上を見上げる天照。
うん。
色々あったんだろうから、嬉しいのはわかるよ?でも、無粋だとは思うけど、さっき言った様にこれからだと思うけどね。
「あははは。それだけ君に期待しているって事だと思うよ?」
月読がそんな姉の姿を慈しむ様に見ながら、フォローをする。
まぁ気持ちは分からんでもないけど。
だがしかし、アレは絶対これで自分の仕事は終わったって思ってるぞ?
「まぁまぁ。これからもボク達が一緒に支えていくから大丈夫だよ」
優しい笑みを浮かべて、こちらを見る月読。
そっか。やっぱ神の中では貴方が1番好きだわ。何年かかるか分からんけど、最初にお祀りさせて貰うよ。
「ありがとう。《《楽しみに》》して待ってるね♪」
最後の《《楽しみに》》の所で、背中にゾクっと来たが、今は忘れる事にしよう。
ところで向こうの神とは会わなくていいのか?
最初から最後まで姿を見せない、向こうの神の事を今更ながら聞いてみる。
「彼は、須佐之男との戦いで傷ついたから、療養中なんだ。君なら、その内向こうの世界の教会にでも行けば会えると思うよ?」
苦笑いをしながら肩をすくめる月読を見て、そうか。と頷く。
「それじゃ、いってらっしゃい」
あぁ。行ってくる。
天へと腕を振り上げる天照、未だにちゃぶ台で悶える須佐之男、笑顔で見送る月読を見ながら、暖かい光が俺を包み込んだところで
「あ!言い忘れたけど!スクナビコナの権能をメインにしたから、君の体は・・・」
月読の言葉を最後まで聞き取ることが出来ずに、俺の意識は途絶えた。