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神道なのに転生

気がついた時には辺り一面びっしりと雲に覆われている場所に立っていた。


上を見上げると夕焼けとは何かが違う、薄い金色の空が見える。


つい先程まで、家の近くの歩道を歩いていた気がするんだけど・・。


ここは何処だ?


「ここは高天原。我々が住む場所となります」


不意に横から声をかけられた。


勢いよくそちらの方を振り向くと、あまりにも神々しい雰囲気をした黒髪ロングの美女が立っていた。


あなたは・・?


「私は天照。そう言えばわかりますよね?」


何という事だろうか。目の前の女性は自らを天照皇大神と名乗っている。そして、それは不思議と心の中で本当の事であると理解される。


それと同時に先程言っていた、高天原という説明も納得がいった。


恐らくは俺は歩道を歩いていて、事故か何かで死んだのであろう。

思い返せば、あの時、後ろから叫び声の様なものと、何かが大きな音をたてながらこちらに向かってきているのを聞いた気がする。


20歳で神職となり、今年で6年目を迎えていた。まだまだやりたい事は沢山あったんだけどなぁ。


神道的概念として、死んだものは50日間をかけて神の元へ行き、神となる。又は、祖霊社にて自分の家の守護神となるという認識が多い。この解釈には地域差があるため、一概に正しいとは言えないだろうが。


それはともかく、やはり俺は死んで、この高天原に導かれたというのが、今現在では正しい認識であろう。


「その認識で概ね合っております。ただ、あなたは今から神になるのでは無く、異世界へ転生していただきます」


は?


異世界転生?

いやいやいや。

そりゃそういう小説読むの好きだよ?

でも神道には“転生”という概念は無かったはずなのだが?

仏教が混じってない?

え?というかナチュラルに心を読むな。


「も、申し訳ありません。ここでは私たち神の力が強まっているので、普通の人の思考は勝手に流れてくるのです」


普通の人を強調しないでくれる?

わかってるから!普通に成長して普通の能力しかなくて普通に生活してたから!


「あ、あの!何故か口調が最初と全然違うっていうか・・。私に対する尊敬の念も、なんか無くなってませんか?」


そりゃ、最初はさ、場所は見たこともない綺麗な場所だし、目の前には絶世の美女が出てくるしさ。


あ、これ死んだけど、神職として頑張ってきたご褒美に、神の一員になれるかもって思ったらさ。


転生しろ?

舐めとんのか?


俺は神道だったんだよ!

何でそれを信じてたやつに、仏教的な事柄の転生を出してくるんだよ!

神道なら神になるのが道理だろ?

舐めとんのか!?(2回目)


「ご、ごめんなさい・・。舐めてないです!その、でも、話を聞いてもらえませんか!?」


チッ!わかったよ・・。

ほら早くしろ。


「ありがとうございます!でも最早敬語ですら・・。なんでもないです!!」


俺は不機嫌さを隠すこともなく(隠せないのだが)目の前の神を半眼で睨む。


「うぅ・・・」


あ、ヤバ!泣かせちゃったよ。これってやっぱり俺が悪い?


俺がどうしようかと右往左往していると。


「あーあ。泣ーかした、泣ーかしたー」


「姉貴はすぐ泣くからなー」


そう言いながら、薄らとした光の中から、神々しさMAXの、片や銀髪にミドルヘアーで女性と見間違う程の美男子、もう1人は赤髪短髪で少し強面の美男子2人が現れた。


姉貴って事はもしかして・・・。


「そうでーす!月読でーす」


「俺は須佐之男だ。あんまり泣かせると、まーた岩戸に引き篭もっちまうぞ?」


この神々しさで月読と須佐之男と言われたら間違いなく信じてしまうな。というかさっきと一緒で無理やり理解させられている感覚があるんだけどね。


でも一言言わせてくれ、須佐之男さんよ。


「何だ?」


お前が言うな!!


「わはははは!!須佐之男ったら!言われてやんの!」


俺からツッコマれ、月読からは笑われた事で、須佐之男はグゥ!と言いながら渋い顔をしている。


サーセン。

ここでは俺みたい奴は隠し事が出来ないらしいし、取り繕わなくてもいいかな?って思いましてね。


「別に良い。若気の至りではあるが、今も反省はしている」


「あの・・お姉ちゃん的には、あの事はショックが大きかったんだけどな?まだ引き摺ってるし・・」


天照が復活したのか、須佐之男に意見を言おうとするも、ひと睨みされた事で口を閉じた。


再び涙目になっている、天照を見ながら、月読が口を開く。


「まぁとにかく、今はそんな事どうでも良いでしょ?彼、困ってるよ?」


そんな事・・と呟きながら下を向いている天照。


まぁショックだったんだろうな。古事記にも色々載ってたし、それが本当ならトラウマもんだろう。


「そうなんです〜!須佐之男ったら、酷いんですよ!!」


俺の心の声が聞こえたことによって、味方して貰えると思ったのであろう、天照が縋り付いてくる。


あー。美人さんに縋られるのは嬉しいけど、とりあえず転生だっけ?それに至る経緯が知りたいんだけど。


「あ!そうでしたね!それでは説明しますね」


パッと俺から体を離して、真面目な顔をした天照は現在の神道について語り始めた。


「今、神道は廃れていっています。多種多様な宗教が日本で溢れていることにより、神道を信奉する方は昔と比べるとかなり少ないです」


確かにな。

正月は初詣に行くし、厄祓や七五三はするけど、宗教は神道ではなく、仏教とか無宗教って言うのが多いな。


「そうなんです!それに、今現在、神職になる方も減っていて、なったとしてもすぐに辞めていく方が多いのです。その為、田舎の方の神社では、神社を維持するのが難しくなり、廃社して、そこの神達を高天原に送り返すという事が増えています」


あー。神職が少ないとか維持出来ないとか、養成機関の授業で聞いたことあるな。


なんというか神社一本で食っていく事が難しいんだよな。俺みたいに比較的大きな神社に奉職出来れば、神主だけして生きていけるけど。


それでも給料は安いし、休みは少ないし、宿直とかあるのに手当は付かないし、奉仕という名の残業で、残業代が出るわけないし・・・。


あ、これじゃ辞めていく奴多いわw


俺も元々一般家庭に育って、実情を知らずに神主になったから、もっと楽なのかな?って思ってたけど、普通にブラックだもんな。


「宗教なんですよ!?多少ブラックな所は目を瞑って頂きたいです」


神様もそんな考えなら、神主は増えないな。

そもそも現代社会において、まともな給料や福利厚生がないと、やっぱり辞めていく奴は多いと思うしな。


俺の場合は自分の中で、やり甲斐があったから、辞めるという選択肢は無かったけど。


「まぁまぁ。今ここでその話をしても仕方ないからさ、話の続きをしようよ」


月読がいいタイミングで、続きを促してくれる。


「そうですね・・。それで神社という神の居場所を無くして、高天原に戻ってくる方が多く、溢れかえっているんです!ですので、貴方には是非とも異世界に行って頂き、その世界で神社を立てて、神々の居場所を新たに作って欲しいのです!」


んー。それって今の世界では出来ないって事?


「今の世界でも努力はしているのですが・・。まだまだ100年単位で時間がかかりそうなのです」


時間を気にするという事は、それなりに切羽詰まってるんだな。


「そうです。本来ならば、こういう事を信徒に言うべきでは無いのでしょうが、高天原で暴動が起きそうなのです!やれ、主祭神なのだからどうにかしろ。もっと神道を広めるために、信託して信者を勧誘する様に仕向けろ。良いケツしてんなぁ。・・・酷くないですか!?もう私もいっぱいいっぱいです!」


目に涙をいっぱいに溜めて、天照が訴えかけてくる。


神道は他の宗教の様に信者の勧誘をしてないからな。


しかし、神様の中でもそう言うのがあると大変そうだなぁ。最後なんてただのセクハラだし。


「そいつらは俺が罰を与えておいた。だから、やや暫くの間は静かになるだろう」


お姉ちゃんのために、文句を言う神に罰を与えたのか・・・。

自分はあんな事したのに・・・。

実はシスコン?

あれかな?

大好きなお姉ちゃんを揶揄っていいのは俺だけだ!!

みたいな感じ?


「ちちちち違う!!俺は断じてシスコンではない!!」


えぇ??

でも、神様達は近親相姦するからなぁ。


「うるさい!!」


焦る須佐之男に天照が優しげな顔をして追い討ちをかける。


「そうだったんですか?大丈夫ですよ。私もあんな事されたけど、大好きですよ!」


「〜〜!!」


自前の赤髪に負けないほど、顔を真っ赤にして

狼狽えている須佐之男。


あ、これガチだわ。

地雷踏んだな。

新しい神様が爆誕しそうな雰囲気だわ。


「ほらほら。また話が逸れてるよ?」


手をパンパンッと叩かながら、またしても良いタイミングで話を戻す月読。


これはアレだ。めっちゃ空気読むタイプや。


ハッとした表情で真面目な顔に戻り天照が説明を再開する。


因みに須佐之男は真っ赤な顔をしたままだ。


「そうでした!!と言うわけで、こちらは時間がかかりそうなので、並行して異世界で神の居場所を作ってください!」


話はわかったけど、向こうの世界の神様は承諾してるの?その世界にも宗教はあるでしょ?


「その点は大丈夫です!あちらの神とも、どうにか折り合いをつけました!元々は向こうの世界でも宗教はいくつかありますので、一つ増えても問題ないそうです!ただ、向こうの神様を主祭神として、他にもこう言う神様がいるよ〜って感じで広めてください!」


まぁそちら側がそれで良いなら・・。

でも、ちょっと質問があるんだけど。


「何ですか?」


何で俺なの?


「・・・」


俺がその質問をすると、3柱の神が一斉に明後日の方向を向いた。


お前ら!絶対なんかあっただろ!?

おかしいと思ったんだ!

もっと神道に詳しくて、信心深い人が居るはずなのに、何で俺なんだ?って!


俺じゃ若すぎるだろ!


「いやいや。若い子の方が適応力が高いでしょ?だからだよ」


月読が焦りを感じさせない口調で諭す様に話してくる。


まぁ一理ある。


だがしかし!そんな事で俺は騙されないぞ!

若い理由は100歩譲って理解したとして、俺よりも信心深かった同世代はいるぞ!


「ししし仕方ないじゃないですか!向こうの神様が、『良いぜ。但し俺に勝ったらな!』とか言うから!」


言うから?

どしたん?

ほれ?

言ってみ?


「その・・・。戦う事になりまして・・・」


何でやねん!?

バトル漫画か何かですか!?

少年誌ですか!?


俺が天照を追い詰めていると。


「待ってくれ!姉貴は悪くない!アイツが悪いんだ!あのクソ神が『俺が勝ったら、天照よ。俺の女になれ!』って言うから!負けられないと思って俺が戦ったんだ・・。その余波でトラックが横転してな・・。お前を巻き込んじまった」


クソシスコンが!

てめー!脳味噌までお姉ちゃんしか無いんじゃないか!?


「グゥッ!!」


俺の罵倒が心にグサっときたのか、片膝をついて胸を押さえる須佐之男。


はぁ・・・。

それで?


「それで!貴方だけが死にました!他の方は大丈夫です!」


そこじゃない!!

たしかに他の人が死ななくて良かったかもしれないが!


俺だけ死んで良かったわ〜。

じゃあ転生しますか〜。


って、それで納得するか!?

そんなに人間出来てないわ!!


「あわわわわ」


俺の怒りに天照も須佐之男の横で頭を抱えて丸まっている。


見かねた月読が続きを話し始めた。


「えっと。君が死んだ事は申し訳なく思っているんだ。それで今回僕らが担当する、はじめての転生者として、向こうの世界でもう一度人生を謳歌して貰おうかと思ってね」


前の人生も謳歌し終わった訳ではないけどな!!


はぁ・・・。

まぁ今更生き返る訳でも、神になれる訳でもないんだろ?


「悪いけど・・もう君を送るって決まっているんだ」


なら、仕方がない。

転生するしかないか・・・。


但し!

何かしら優遇措置は取ってくれよ?


「勿論です!!今回は特別に私たち神々の権能のどれかをお分けいたします!ちゃんと向こうの神にも承諾を取っているので問題ないです!」


じゃあ手始めに向こうの世界の説明でもして貰おうかな。そうじゃないと権能それを決められない。


「はい!!」


俺が転生を決めたと分かると、天照がパァッと花が咲いたような笑顔になった。

神様の名前は古事記表記にしております。

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