ブラック企業ファンタジー
動悸がする。めまいもする。
身体が不協和音を奏で、僕にもう楽になれと訴える。
「ついに、地獄の14連勤が終わった」
僕は、涙目になりながら、外の吹きすさぶ豪雪に耐えていた。
日時は12月31日。大晦日だ。
仕事は12月30日に終わる筈だったのに、気付けば日付が変わり、いよいよ今年最後の日を迎えていた。
僕は、深夜の駅前のロータリーの前に立ち、帰省のためタクシーを待つ。
「すみません」
若い女性の声が聴こえた。
「はい」
僕は声のする後ろを振り返る。
「お仕事を受けてもらえませんか」
僕は言葉を失った。
深夜の駅前の豪雪が吹きすさぶ、シンと静まり返った空間に、
見目麗しい銀髪の美少女が立っていた。
白い毛皮の不思議なコートを羽織り、丈の短めなスカートを履いたその少女は、明らかに、この空間と合致してなかった。
「誰ですか。あなた」
僕は、疑問に思ったことを素直に聴いた。
少女は、一瞬バツの悪そうな顔を浮か浮かべた。それから、少女は少し考え、にこやかな笑顔で答えた。
「海外のほうから来ました」
なんだ。外人さんか。目や髪の色も日本人とは違うし、何故か耳も長いし納得だ。
なわけあるか。
「海外のほうからってなんだよ。一体どこの国だよ。あんた」
チッと舌打ちを鳴らすと、すぐさま少女は涙目になり訴えた。
「お願いします。怪しいものじゃありません。私達は貴方の力が必要なんです」
少女は、僕にしがみつき必死に懇願した。
その必死な表情を見て、微塵も心が動かなかったかと言えば嘘である。
しかし、僕は、目を見開いた。
くしょん。
少女は、あろうことか僕が今年の自分へのご褒美として買った高級コートを鼻水でぐっしょり濡らしていた。
「嫌です。帰ってください」
すると、少女はまたチッと舌打ちを鳴らした。
瞬間。ハイビームのような明かりがこちらに近づいてくるのが見えた。
(きっとタクシーだ。これでこの変な少女から逃げられる)
僕は安堵した。
だんだんと近づく明かり。
なんて眩しい光だ。前がまったく見えないや。
神々しい光だ。救いの光だ。
「連れてけ」
背後にいた少女が、ドスの聴いた声でその明かりに言った。
瞬間。僕は、頭を何者かに殴られ、口を塞がれ、身体を担がれた。
(へ?)
一本角の獣ユニコーンが馬車を引いて僕の前にあらわれた。
そして、その馬車の中から聖職者たちが飛び出して僕を馬車の中にぶち込む。
少女は周囲を警戒する。
「誰にも見られてないわ。行くわよ」
新しい年が始まる。