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3. 後宮入り

「おい雨月、笑いすぎだぞ」


 雲海帝は隣にいる雨月をぎろりとにらんだ。謁見を終えた周陽花が帰ったところだ。まったく、あの周浩然が溺愛している娘なので皇后にしても安心だと思っていたが、とんでもない提案をする女だった。


「申し訳ありません。しかし予想外でしたね、主上相手にあんな提案をされるとは思いませんでした」

「ああ。だがまあ結局皇后にはなってくれるんだ。目論見通りだな。おまえのこの案が功を奏すといいが」

「そうですね。しかしさっきの好きな人云々の話は本当でしょうか?さすがに十年前の話は調査範囲外ですよ」

「……嘘だろう?十年前の恋、しかもそいつは死んだという。それで一生独身でいようとかあり得ない。あの周家の娘だぞ?星の数ほどの縁談が舞い込んでいたはずだ」

「信じられませんね。まあとりあえずは皇后になってくれるんです。それで様子を見ましょう」


 雨月はにっこりと笑った。



***



「うーん、意外とこの生活も快適ねぇ」


 こうしてわたしは雲海帝の後宮に入った。この国で圧倒的地位を築く周家の娘の立后に、反対する者など誰もいない。驚くほど順調に受け入れられ、それだけでも主上は効果に満足したようだ。


 後宮入りしたわたしは、皇后宮の一室で美味しいお茶を飲んでいる。後宮は伏魔殿。どんな危険があるかわからないので、侍女は信頼できる者を置きたいと言って自宅から二人呼び寄せた。


「皇后さま。はしたないですよ」

「ちょっとやめてよ翠玉(すいぎょく)ー、その呼び方。部屋ではいつもみたいに呼んで」

「……陽花さま。変な体勢でお菓子を食べると、あとでお腹が痛くなりますよ」


 しょうがない、お腹が痛くなるのは嫌だ。わたしは寝そべっていた長椅子からのそのそと体を起こした。


 わたしの計画は完璧だ。皇后ともなれば、優雅で快適な暮らしは当たり前。周家にいた時からそうではあるのだが、何しろ国で一番偉い女性の生活環境は素晴らしすぎる。持ち物から食べ物まで一級品ばかり。しかもわたしはあくまで仮初皇后なので、公務にはなるべく出さないようにしてもらった。


 何より趣味の読書にふけるのに丁度いい。王宮にはこの国が誇る素晴らしい書庫があり、珍しい本も借り放題。残念なのは趣味の乗馬ができないことだが、しばらくは我慢だ。


 そしてこの計画の一番の魅力は、後宮を出た後にある。入宮時、主上に本当にそれで良いのかと改めて確認されたが、仮初とはいえ一度皇后になってしまうと醜聞を恐れ、結婚を申し込む男性が減ることを危惧されたのだ。


 というか、それこそわたしの狙いである。毎日毎日やってくる山のような縁談。わたしは彼のことが好きだっていうのに、鬱陶しくてしょうがない!


 お父さまやお兄さまたちはわたしが初恋を引きずっていることは知らない。ただ単に、実家と家族が好きすぎる娘だと思っているのだが、世間の目を気にすればやっぱりいつかは嫁に出さなければならないと思っているはずだ。


 だが皇后になり出戻ってしまえば、娘を涙ながらに受け入れて一生面倒を見てくれる。


「陽花さま、後宮は危ないことも多いんですのよ。暗殺沙汰だってあったそうですし」

「ま、なんとかなるわよー。別に本当に皇后になったわけじゃないって思えば、色々冷静に対処できるわ。主上との約束も果たさなきゃだしね。ちゃんと生活費分は仕事するわよ」

「そんな悠長な……」


 翠玉はやるせないため息をつきながら、せっせとわたしが読み漁った本を片付ける。


 わたしは菓子をつまみながらぺらりと手に持っていた書物をめくると、ばたばたと足音がした。


「た、大変です!」

「なあにー、鈴玉(りんぎょく)

「主上がお越しになりました!」


 ……なにそれ。めんどくさいわ。





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