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2. 断りと提案

「そなたが周陽花か」

「はい。この度は謁見の機会を頂戴し、恐悦至極に存じます」


 初めて見た李雲海はお父さまに聞いていた通りの人だった。まだ若いが堂々とした風格の美丈夫。さすが数々の武功を立てただけあって背が高くてがっしりとした体躯。後宮の女性たちは彼に骨抜きらしい。


 雲海帝の隣には彼の側近だという、曹雨月(そううげつ)という優しげな風貌の青年もいた。

 雨月の名もお父さまやお兄さまから聞いた事がある。科挙を首席で卒業し、若くして雲海帝の側近になった帝の右腕。お父さまや政界の大物たちにも一目置かれている実力者だ。

 雨月はにこにこと微笑みながら、わたしの様子を窺っていた。


「今日は後宮入り前にそなたから話があると聞いたのだが」

「はい」


 まだ後宮入りすると決めたわけじゃないわよ、と心の中でつっこんだが、まあいい。


「恐れながら申し上げます。わたしは、主上の皇后になることはできません」

「……なに?」


 まずは結論から言わなきゃね。説明する時は結論から言うとわかりやすいってお兄さまも言っていた。


「どういうことか」

「はい。わたしには子供の頃から好きな人がいます。今もその人のことが好きなんです」


 雲海帝は探るような目でわたしを見たが、早く要点に持っていかないといけないので話を続けさせてもらう。


「その人は残念ながら事故で亡くなりました。でもわたしはその人のことが忘れられず、いつまで経っても忘れられず、決めたんです。一生誰とも結婚はしないと」


 それを聞いてさすがに雲海帝も、側近の青年も驚いた顔をしていた。


「……亡くしたのは最近なのか」

「十年くらい前です。でも今でも彼が好きです」

「なに?十年前?」

「ですから主上の皇后にはなれません。誠に申し訳ございません」


 まずは正攻法で断ってみる。雲海帝はしばし考え込む仕草をしたが、毅然とした態度で口を開いた。


「駄目だ。その好きな男とやらは十年も前に死んでいるんだろう。そなたに現在婚約者がいないことは既に確認済みだ。こちらも吟味に吟味を重ねた上でそなたを皇后に選んでいる。悪いが、そんな理由で俺の縁談を断ってもらっては困る。周家にはこれまで以上の待遇も約束しよう」


 やっぱり駄目か。予想の範囲内ではあるが、死んだ人を今でも想っているという理由がそんなに軽く見られるなんて、ちょっとへこむ。わたしの想いは本物で、真剣だというのに、理解はしてもらえない。


「……では、恐れながらわたしから提案をさせて頂けませんか?」

「提案?」


 お父さまから知らせを受けた後、部屋にこもって色々考えたが、この提案は帝にも有効なばかりか己の将来にもきっと役に立つはずだ。


「はい。主上がわたしを皇后に立てたいと思うのは、後宮の争いを諫めるためと父に伺いました」

「そうだ。妃たちの醜い争いが激化している。先代の御世では後継者争いで多くの血が流れた。俺も巻き込まれた一人だ。俺にまだ子はいないが、いずれは子供たちも巻き込み血で血を洗うことになる。そこで、確固たる皇后を据えることで、無用な争いを可能な限り避けたい」

「わかりました。ではわたしが一時的に後宮に入り、後宮問題を調査し、誰が皇后にふさわしいか見極めます」


 わたしは目に力を込めて提案した。わたしにだって、人を見る目があるお父さまの血が流れてるのよ!

 

 雲海帝は眉根を寄せ、玉座から身を乗り出した。


「誰が皇后にふさわしいか見極めるだと?」

「はい。わたしが仮初の皇后として後宮に潜入します。後宮の妃たちを調査し、問題を見つけ、解決策を考えます。その上でどの妃が最も皇后にふさわしいかを考え、報告します。最終的にお決めになるのは主上ですから、わたしの報告はあくまで参考までですが。……それが終わったら、ご期待に沿えず申し訳ございませんが、どうかわたしを家に返して下さい。例えこの世にいない人でも、今でも彼を愛しているので、わたしは誰とも結婚するつもりはないんです」


 帝と側近はぽかんと口を開けている。信じられないものを見るような顔をしているが、わたしは至って真面目だった。


「本気で言っているのか?」

「はい。仮初でも周家の娘が皇后になれば、少なくともしばらくは後宮が落ち着くかもしれませんよね?」

「そうだな」

「もちろんわたしへの手出しは無用でお願いします。先程申し上げた通り、好きな人がいますので。子作り却下です」

「……」

「いかがですか?」


 雲海帝は隣にいる側近を見た。曹雨月は口を手で抑えたままぷるぷると震えている。どうやら笑っているらしい。


 わたしは皇后になれという勅命にも真摯に向き合い、困っている帝を助けたいと思ってちゃんとこの案を考えてきたのに、笑うなんてひどいわ。

 しばらくして二人が顔を見合わせ、頷くのが見えた。


「わかった。そなたの提案を受け入れよう」


 よし!とりあえず正式な皇后になることは回避したわ!

 こうしてわたしは、雲海帝の仮初皇后をすることになった。



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