1. 断れない縁談
わたしの名前は周陽花。今この国で、富・名声・権力、どれをとっても一番と言われている名門周家の娘である。
お父さまも、亡くなったおじいさまも国の重鎮として政を動かしてきた一方、貿易商としても活躍し、国で他に類を見ないほどの富を築いた。わたしの二人の兄も周家の名に恥じず、それぞれ政治と商売を盛り立てている。
そんな家に生まれたわたしには、毎日毎日嫌になるほどの縁談が舞い込んでいた。お母さまが早くに亡くなり家族は皆わたしを溺愛しており、「陽花は絶対に嫁にやらん!」と言ってくれるので本当に助かっている。
……と悠長に構えていたのだが、ある時お父さまが宮廷から手紙をもらって真っ青になっていた。
どうしたの、お父さま?
「陽花、よく聞いておくれ」
「なあに、お父さま」
「雲海帝が、おまえを皇后にしたいそうだ」
「はい?」
李雲海。この国を治める李家の一族で、先王の末子であったにも関らず、王位争いの末に若くして玉座を手に入れた男だ。
お父さまやお兄さま曰く帝にふさわしい器量の人物だと聞いているが、そんな男の後宮には既にわんさかと麗しい妃たちが揃っている。ただし、正妃である皇后は不在だった。
「お父さま。雲海帝にはもうたくさん妃がいると思うんだけど、なぜ私に?」
雲海帝の後宮には特に寵愛を受けている四夫人の他にも、多くの妃がいる。なんでも、帝の寵愛を巡ってか、皇后の椅子を巡ってか、後宮ではいじめや暗殺事件が多発しているそうだ。
……どろどろの女の戦いというやつね。
早く後宮体制を盤石にするため皇后を決めろという声が後を絶たないが、雲海帝は一向に皇后を決めなかった。皇后は権力も何もかも圧倒的に他の妃を凌ぐ。皇后は正妃、四夫人と言えども所詮は側室で、重みが全く違う。
「そこでおまえに白羽の矢が立った。周家の娘なら、誰も文句は言わないだろうと」
「いやごめん、悪いけどわたしには文句しかないわ。わたしはずーっとお父さまやお兄さまたちとここで暮らすって決めてるの!お父さまも知ってるわよね?」
「う、うん。わたしだっていつまでも可愛い陽花には家にいてもらいたいんだけど、勅命なんだよねぇ、これ……」
お父さまってば雲海帝には甘いんだから!お父さまは圧倒的に人を見る目がある。先王の末子だった皇子に人を導く才があるといち早く見抜いたお父さまは、こっそりと彼に帝王学を学ばせたり剣の稽古をつけてやった。その結果、その皇子が本当に帝になっちゃうんだからすごいけど。
そしてそんなお父さまの一族を雲海帝も信頼している。上の兄は貿易で、下の兄は宮廷勤めで国と帝を支えているからだ。この縁談はさすがのお父さまでも簡単に断ることはできない。でもわたしだって、ここで引き下がる訳にはいかない。
「……わかったわ」
「え!わかったの陽花!?」
「勅命ならとりあえず話は聞かなきゃいけないでしょ。お父さま、わたしの雲海帝への謁見を段取ってくれる?わたしが直接話をつけるから」
「え……陽花、それってどういう」
雲海帝にうちが色々世話になっていることも理解しているが、断る算段をつけなければならない。
わたしはお父さまを残し、早速部屋に戻って作戦を練るのだった。
お父さま。悪いけど、わたしは一生誰とも結婚する気はないのよ。
今でも十年前に死んだ初恋の彼のことが、忘れられないんだから。
既に書き終えているので、これから修正しながらどんどん更新していきます。
中盤~後半は恋愛要素多めです。ぜひ最後までご覧下さい!