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第七話 結界破壊無双

帝国暦 738年 春


 びよぅぅぉ~!!


 ハイランド島。そこは常冬の島……。

 緯度的に高いところ……って程でもない。

 ということは勿論、極に近いというほどでもない。


 しかし、しかし!

 暦の上では春でも、今日も今日とて絶賛猛吹雪中!

 魔法障壁的ななにがしかで、温度と視界を守ってはいるが、ちょっと気を抜けば簡単にホワイトアウトで氷の彫像が出来上がるという……。


 ドラグーン様の我々だからなんてことはなくこうしていられるけど、並みのヒト種じゃこうは行かないだろうね。

 そう考えるとシシリー達が数年前にハイランド島に冒険に来ていたのって、かなりの偉業なんじゃないかね?


 そういや、あの時の皆。スラッシュ達は元気でやっているのだろうか?

 村に戻って峡谷牛の肉を村に届けたら、その足で大ブリタニア大陸行の船に乗り込んだらしいもんな。

 シシリーは「思い付きの冒険の割には死にかけたにゃ」とか言ってたっけ?


 やはり万年厳冬のハイランド島って、ある種結界内の秘境だよな……馬鹿でかいけど。


 しかし、雪がうざいねぇって、……そういや、俺って生まれ変わってから一度も夏……どころか春も秋も経験してないんじゃ?

 日の光なんて雲の合間からほっそりと差すものしかほとんど見たことないな~。

 晴天とか、年に何回有るの?って割合だし。

 ふむ。日の光を遮るこの何処までが分厚い雲、一体どこまでがこの雲で覆われているのかねぇ?

 む?


 「今ひらめいたんだけどさ!シャリム!」

 「なに?どうせ下らないことでしょうけど、一応は聞いてあげるわ!私は女神だからねっ!決して雪の中を飛ぶのに飽きてきたところとかではないからっ!」

 「やかましい、駄女神が。お前飛ぶのに飽きてきてたのかよ……と、それは置いといて……この雲ってさ、上空何メートルぐらいまであるんだ?ほら、飛行機とかに乗ると曇って下に見えるじゃん?長距離線の高度とかの一万メートルぐらい上までって上がれるもん?」

 「一万メートルね……確かに地球の飛行機はそんなもんか。魔法で私の周りは快適空間にしてあるしね。ええ、いいでしょう!このシャリム様の力の片鱗を見せてあげましょう!」


 お?!

 特におだてる必要もなく、漆黒の竜は高度を上げる気になってくれたようだ。

 楽なのは結構だね。


 うぉ~~んっ!


 シャリムは一声吠えると、それまでの水平飛行から角度を大きく変え、天に向かって飛ばしていく。


 「おっひょ~!すげぇ、すげぇ!……ふっ、まるで人がごみのようだ」

 「……何言ってるの?頭が腐った?ここから地表なんか見えるわけないじゃない。しかもハイランド島には人なんかほとんど住んでないわよ?……止めてよね、人の背中の上でリビングデッドになるとか……私はゾンビものが好きじゃなかったから、この世界にはそれ系モンスターは存在していないのよ?」


 あ、そうなんだ。

 オタクにありがちな台詞を呟いただけで、この世界のゾンビ事情の裏側を知ってしまったよ。

 ゾンビ君たち、君たちは女神様から嫌われたために、この世界での存在を許されなかったようですよ。


 がいんっ!


 おや?如何なされましたかシャリム様?

 ちょっと、凄い音しましたよ?

 人型だったら、涙目で頭をさすりさすりしてしまうのではないでしょうか。

 あ~、よちよち。


 「イっつつ……ん?おかしいわね?何かの結界かしら……これ以上の上昇を阻んでいるわね」


 がしんっ!がしんっ!


 前足で透明の壁に猫パンチをかます漆黒竜の女神様。


 むむ。しかし、高度上限か。

 確かにこの手のタイトルには必須……というか、システム上で高度を無限に増やすとか面倒過ぎるからな。……まぁ、ただの計算でビジュアルも全面的に手抜きすれば可能と言えば、可能ではあるんだけれどもだ。

 ある種、マップ内での高度限界はお約束だ。


 「ちょっとしっかりと捉まってなさいなシャヘル。む~っ、ぬぬぬんぅ!ほりゃっあ!」


 どうやら、女神様は気合を溜めて結界を突破なさるようです。世界の法則に縛られないそのお姿。流石は女神様でございます。しびれも、あこがれもしませんが敬意は表しますよ。


 つうかマジ万能だね、この世界の気合。


 ぱり~ぃんっ!


 よくある系のSE音高らかに、それまで高度を上げられずにいたシャリムは、引き絞られた弓が解き放たれるかのように高度を急上昇させた。


 「のぉぉぉぉ!急すぎるわ!びっくりしたわ!乗ったこと無いけど長島ほにゃららランド以上のコースター以上にびっくりだわ!」

 「ああ、ごめんごめん。なんか引っかかりが解けたものだから抑えが付かなかった……けど、見てよシャヘル。どうやら、ハイランド島の万年豪雪の雲は一定の高さから上には無いようよ」


 あら?そうなの?

 シャリムに言われて下を覗き込む俺。


 「む~。ほんとだな。綺麗に、一定高度で雲が……平ら?になっているな。あそこの高さが結界っぽいのがあったところかな?」

 「でしょうね。けど、結界の上は日差しが注いでいて綺麗ね。この世界に来てから初めて日の光を身近に浴びた気がするわ」

 「いや、神階でも太陽は無かっただろうが……」

 「うっさいわね。こっちに来る前までは、たま~に地球に降り立って日の光を浴びていたの!」


 あらあら、シャヘルさん初耳である。

 どうやら、21世紀の地球は、ふらりと神様が遊びに来る程度には、人と神とが身近な存在らしい。


 「で、そこな駄女神様は地球に降り立って何してたんだ?」


 気になるよね。

 地球での女神の休日って……お寺の掃除をするとか?

 電話で呼び出されて、実はその呼び出しがプロポーズだったりとか?


 「まぁ、グルメよね。特にグルマンな私としては美味しいものがお腹いっぱいに食べられる料理が大好きよ!」


 答え!女神様は何よりも食い気を優先されるお人柄だったとのことでしたっ!


 「……最新のお気に入りは何だった?」

 「バーベキュー、コレ一択ね!正直テキサスの名店の全ては女神会で回ったりしたもんよ!肉を見事な火と煙で調理する……簡潔にして王道なる調理法よね。Show me the meat!」


 びっくりである。

 テキサスの皆さん。休日のBBQ店、あなたの近くのテーブルにお座りの美女軍団は、もしかしたら女神様たちかもしれませんよ?

 その集団にデザートでも奢れば、きっとあなたの人生にもツキが廻ってくることでしょう!


 「一回目の来店はコンボプレートを頼んでソースを別料金を掛けても全種類。それで店の判定をするってのが、私たちのセオリー。毎回が同じメンバーってわけじゃないけれど、必ず食の女神や竈の女神は連れて行くわ!彼女たちが一緒だといつも以上に美味しい料理に出会える確率が上がるからね!」


 テキサスのピットマスター諸氏。

 もしも神がかって、その日の火の扱いが上手く行った日。その火には女神会が来店しているかも知れません。ご報告です。

 神がかったということは、そこには神がおわすのです。


 「……なんで、飯の話になったのかはもうわからんが、急に腹が減ってきたな。どこかに降りて肉でも焼くか?バーベキューとか言われたら我慢できなくなってきたぞ」

 「はい!その案に賛成!……ただ、降りる時にまた結界破りしなきゃいけないのがダルいわよね……どこかに結界の穴とか無いかな?シャヘルはなんか見えない?それっぽい穴」

 「結界の穴……ねぇ。……こういう時って大概、その結界を貫く山脈やら塔やらがあったりするけどな?某タイトル的には」

 「ふむふむ。そう考えると目的地の方角に見えるあの山とかがアヤシイのかしら?」


 山?

 俺には良く見えないが……?


 ここは気合か。

 む~んんっ!むんむんっむん!もうちょい、もうちょい!

 はぁ~!!!どっせいぃっ!!


 ぴこぴこり~ん♪


*******


 スキル獲得:千里眼


*******


 毎回違うSEが鳴って微妙に腹立たしいな。

 コレがうちのチームだったら、ヨシさんがブチ切れてサウンドチームのケンさんを呼び出す事態に発展するぞ?結構大変なことになるぞ?

 ……ヨシさんとケンさんが仕事でぶつかると二三時間は平気で会議室で大声出しあうからな~。

 まぁ、その日は徹夜作業が強制的に無くなって、チーム総出で宴会が始まるわけではあるのだが……。


 う~む、それよりも今はこの新スキルだな。どれどれ……と。

 はい、千里眼を使用っと!


 「ああ~、何かすんごく高い山が見えるな」

 「でしょう?で、今私も目を凝らしたんだけど、あの山が私が言っていたダンジョンの場所なわけよ」

 「ほっほぅ!それはそれは……」


 山系のダンジョンはクリアすると新マップの解放とかがお約束だからな。

 山道うねうねを登ってからの目の前に開ける広大な新マップ。

 中々に心躍る展開だな。


 でも、新マップか……そうなると山の上あたりに何かが?


 「なぁ、シャリム。あの山の上って……なんかでっかい雲が流れもしないで、ぷかぷかと幾つか存在してないか?」

 「え?……あら、本当。……う~ん。しかも、あの曇の上。なんか地面みたいなものがみえないかな?」

 「「天空城!!!」」


 うむ。見事なハモリですね。


 「おお!天空城とか、天空大陸!雲海の大地とかアガッてきた!!!」

 「間違いないわね!ファンタジーの鉄板ネタね!……ふっふふ。この世界の女神たる私をここまでアツくさせるとは、中々やるわね!」


 女神なら、もっとこの世界に精通してろよ!……と思わないでもないが、ここは黙る大人な俺。


 「で、どうなんだ?シャリム。あの雲海まで直接上がれるか?」

 「そうね……やろうと思えば、上がれるとは思うけれど、ダンジョンを素通りして行くってのが……」

 「「勿体ない!」」


 ゲーマーのユニゾンである。


 「だよな~、あれだけの新マップ直前のダンジョンとかさ」

 「クリアしてあげなきゃね!」

 「話はまとまったなシャリムさんや」

 「話はまとまりましたなシャヘルさん」


 言うや、否や。急に速度を上げるシャリム。

 ふふふ。今回はこの急発進を予測していたから、ビビることは無かった。

 俺に死角なしだな。


 「全速力で飛ばすわよ!掴まってなさい!」


 え?全速力じゃなかったのこれまで?

 ……やな予感しかしないんですが?


 ……あ、光になったのね。

 僕たち……がくっ。


 意識が遠くに置き去りにされたでござる。

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