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第六話 マウント無双

帝国暦 738年 春


 しゅっしゅしゅ!

 しゅしゅしゅっゆ!


 石像は上から下へ。

 ほこりを拭きとるには上から下だ。掃除の基本……らしい。

 これも何かしらの受け売りだったはず。


 「はい!シャヘル君!もっと魂とシャリム様への愛情をもって銅像の掃除をするように!」

 「へい、へい、へ~い!」

 「そうだにゃ。坊ちゃまはもっと心を込めて磨くにゃ!」

 「へい、へい、へ~い!」


 妹(w)だけじゃなくて、猫耳メイドにも叱られる始末。


 どうも「大ブリタニア大陸及びハイランド島竜峡谷連合帝国、西方竜峡谷辺境伯爵嫡子」のウイリアムです。またの名をこの世界の女神(w)に強制奉仕を命じられているシャヘルです。


 何でしょう。辺境伯とか笑っちゃいますよね。

 だって、うちの実家の領地って住民があれから増えに増えての五十人ですよ?


 で、なんで五十人の集落の村長さんで辺境伯なのかって?

 そりゃ、領主様が英雄様であると同時に、領地が馬鹿でかいんです。

 三年前ぐらい前、初めてダンジョンを踏破したリワードで機能解除されたマップ機能で知りました。


 ビビりましたよ。

 ハイランド島の大きさって、大ブリタニア大陸の五十倍はあるんですよ?

 日本をハイランド島だとしたら、大ブリタニア大陸はトリニダード・トバゴより大きくて、ブルネイよりも小さいんですよ?

 日本を大ブリタニア大陸だとしたら、ハイランド島ってロシア連邦より大きくて、旧ソヴィエト連邦より小さいんだよ?


 え?比較がわからない??

 比較なんてそんなもんだよ。抽象的な方がプロっぽいって日本語が達者なギタヒーローが言ってたからね。


 「だ か ら !私の銅像はもっと丁寧に拭きなさい!」

 「うが~っ!だったらお前がやれ~!!」

 「え?何言ってるの、そこの脳筋。マジで意味わかんないんですけど?ついに、脳細胞にまで筋組織が侵入しちゃったの?流石にそれは引くわよ?お兄様(w)」

 「じゃかぁしわ!俺が力仕事をするのは、百歩譲って構わんが、どうしてお前がネグリジェ姿のまま礼拝堂でティータイムしてんだよ?!そしてメイドを侍らしてるんだよ?!」

 「そんなの私の勝手じゃない。別に言わなくても、お兄様(w)が汗水たらして女神シャリム様の為に働いてる姿をお菓子代わりに旨いお茶を飲んでいるところ……ってわからないの?それにこれはネグリジェじゃないわよ?」

 「……じゃなに?」


 聞きたくもないが、どうしても聞いて欲しそうにしているので、しょうがないので聞いてやる。

 どうせ下らない事なんだろうが。


 「これは、スーパーゴージャスエロティックマジシャンズアーマーよ!」

 「流石です!お嬢様!!!神々しさがいつもの一万倍です!!」

 「あら?そう?神々しさを隠しきれなかったのね?ごめんなさいね、シシリー」


 ……イラッ!


 ゴッス!!ゴスゴスゴッス!


 ドラグーンの全力パンチをこの女神像にお見舞してやる!


 ……ちっ。相変わらず馬鹿みたいに硬い材質だな、この女神像は。


 「もうやめなさいよ!お兄様(w)、そこまで悪意を込めて殴られると、微妙にエネルギーが減少しちゃうじゃない」

 「ふん。多少の腹いせだ!」

 「まぁ、私が一五年間で、溜めに溜めた力で築き上げた女神像ですから、たとえこの世界が崩壊したとしても、髪の毛の先ほども削られない材質で出来ているのですけれどね!」


 ゴッス!!ゴスゴスゴッス!


 「だから、やめなさいって!……流石に、私も自分が殴られるのを見てお茶を頂くような趣味は無いわよ?!」

 「ふん。今日はこのぐらいで止めてやる」


 三下感満載の捨て台詞を残して、俺は像の掃除を終える。

 くっ。いつかこの像を破壊できるほどの力を溜めてやるぞ。


 「で?今日は何の用で朝っぱらから礼拝堂に来たんだ?妹(w)よ」


 もみゅもみゅもみゅ。


 「ああ、用事ね……用事、用事……何だったかしら?覚えてる?シシリー?」


 もみゅもみゅもみゅ。


 「ぇ、ぁっ!ぃゃ!……って、普通の会話をしながらワタシのお尻を揉まないで欲しいにゃぁ。ぁ!」


  もみゅもみゅもみゅ。x2。


 いつ揉んでも、最高の揉み心地だな、シシリーのお尻というのは。うむ。

 シャリムもいつの間にか、この魅惑の感触の虜だ。


 「うぉ~い!お前たち!元気にしてたか?!」


 礼拝堂のドアをバンッ!とじゃなくボゴォゥン!という音をさせて室内に入ってきたのは聖竜騎士アーサー様である。

 女神的な何かのシャリムと、半身的な何かの俺の二人をして、殴り倒すことが叶わぬ謎のドラグーンである……ちなみに、ドラグーンは火を吐けるドラグニュートのことらしい。最近、その設定を親父から聞いた……。あ、そうなんっすね。


 「元気だよ~!」

 「元気だけど、どうした親父?珍しいな?こっちに戻って来るなんて?」


  もみゅもみゅもみゅ。x3。


 「いや、俺もいい加減、大ブリタニア大陸の禿げ皇帝の面倒を見るのに飽きてな~。無性に腹立たしかったから、軽く「禿げとるやないかっ!」って頭を叩いたら、力加減を誤って殺しちゃった。テヘッ!」

 「「ん??」」


 もみゅもみゅもみゅ。x3。


 「だから殺してきちゃった。皇帝……テヘッ!」


 もみゅもみゅもみゅ。x3。 


 「テヘッ!じゃなーい!」

 「ああ、もう何?この脳筋親父……止めてよね……流石にシシリーのお尻を揉むのも疲れてきちゃったじゃない」

 「お?シシリーの尻は俺が独り占めしていいのか?んじゃ、ありがたく貰っていくぞ?」

 「ああ、いいんじゃない?元からシシリーは親父の側室扱いだし」


 そうなのである。

 ミューイと言う種族は強いオスにめっぽう弱い。

 ……単純な話、俺に再会するためにこの街にやってきたシシリーは、俺より強いオスにメロメロになってしまったというオチだったりする。

 ……悔しくはないよっ!


 「で、シシリーのお尻は置いといて……それって面倒にならない?」

 「面倒ってなんだよ」

 「いや、帝国が攻めて来るとか……」

 「こんな辺境に?船で一か月、人口わずか五十人の大陸に?」

 「まぁ、そう考えると来ないかもだけど、帝国の面子とか、次期皇帝の正当性を示すためとか?」

 「う~ん、ねぇんじゃねぇかな。皇帝を誤って殺しちまったけど、その場で重臣の皆さんからは拍手喝采、報奨金も貰って、宰相からは辺境伯じゃなくて、ハイランド大公って地位まで貰ってきたしな」


 ……。

 うん。そこまでとか。

 どうして今までその禿げ皇帝は生きてこれたのかが謎だね。


 「シャリムはどう思う?」


 俺はシシリーの尻にも飽きて、皇帝殺害が大したことになってないのがわかった途端に、すべてから興味を失くしてしまった妹(w)にも話を振ってみた。


 「別に?話に聞いた最初は、これでハイランド住民五十人に信仰されている女神シャリムが邪神扱いされるのだけはヤダな~って思ったけど、そうなりそうにもないから別にどうでもいいやと。まぁ、本当に討伐軍とかが編成されるのなら、私とお母様で空から船を燃やせば良いだけだしね。ほんとうにどうでも良い」


 なに?海上で船団が丸焼きにされちゃうの?

 ナニソレ怖い……シャリムって本当にこの世界の神様なの?


 「ん?なによ、その目は……だから、今この時点での私はただの最強種族の一人にしかすぎないの。そもそも五十人の村に船団を送って来るとか、多勢に無勢じゃない。少数の者達が全力で抵抗しても恨まれる筋合いはないわよ?倫理的にもオールオッケー!」


 ……この世界には神も仏もいないのね。


 「で、今思い出したわ。私がここにいる理由。ねぇ、お父様?」

 「ん?なんだい?サラ?」


 もみゅもみゅもみゅ。 


 「ん、ぅはん、ゅぃ」


 ん?シシリー?……ああ、親父様は俺達との会話中もずっとシシリーのお尻を揉んでたんですね。

 ちょっとだけ、頭がおかしい父親ですね。


 「島の中央部分にダンジョンを見つけたんだけど、行ってきて良い?」

 「おお!構わんぞ?と言っても島の中央部分とか、行くだけで三か月はかかるんじゃないか?」

 「いや、とうとう私、竜化に成功したのでひとっ飛びできるようになりました。荷物持ち兼肉盾にお兄様(w)を連れて行こうと思ってるんですけど、お父様の了承を得てから旅立とうと思って……」

 「そうか、そうか、肉盾持参ならば安心だな。二人で行ってらっしゃい。母さんにはおれの方から言っておこう!」

 「わ~、お父様大好き!」


 ぎゅっ!


 なんか良く分からん親子の抱擁を見せつけられとる……。

 って、なに?ドラグーンって竜化とかできちゃうの?新要素盛り沢山なんですけど?


 「それじゃ、行ってきますね!」お父様!」

 「……いって、き、ま~っす」


 俺はシャリムに腕を掴まれ、ドラゴニュートの全速力で礼拝堂から連れ出された。

 俺の返事はドップラー的な感じに親父には聞こえたんじゃなかろうか?


 「これぐらい村から離れたら、そろそろいいわね……う~~っはぁ~~!!」


 相変わらずの、良く分からん掛け声とともに気合を練るシャリム様。


 ぱっふぉん。


 気の抜けた音と共にご変身。

 俺の目の前には体長五メートルほど?漆黒鱗輝く美しい四枚羽の竜が現れた。


 「おお!すっげぇ!本当に竜に変化した!」

 「フフフ。まぁね。女神像を作ってからの三年間、溜まりに溜まったエネルギーを消費して編み出してみたわ!」

 「……なぁ、シャリムは忘れているかも知れないけど、俺たちの目標ってその存在エネルギーを集めることじゃなかったのかい?」

 「大丈夫じゃない?竜の寿命って、この世界じゃ、ほぼほぼ無限だし?」

 「半疑問形でそんな重要な設定を後出しするんじゃねぇ~!!!」


 ……まったく。


 ……チラッ。

 ……チラ、チラッ。


 「あ、あの。シャリムさん?その私はシャリムさんの背中に乗っても良いでしょうか?」

 「うん?当たり前じゃない。だって、シャヘルって竜化出来ないでしょ?……あ!良いから早く乗りなさいよ!ほら!早く!!」

 「おお!ありがとうでは早速!!ってなに?鞍と鐙的な物もあるの?うわ~!マウント解放じゃん!カッコイイ!!」

 「そんな感想は後でいいから、早く乗りなさい。いいわね。乗った?乗ったわよね?行くわよ?それっ!」


 おっとっとと。まだ身体固定できてないんだから、そんなに急がないでくれよ~。

 って、おおほぉ!凄い凄い!!村がもうあんなに小さくなってる!!


 びゅゅーんっ!


 ん?


 びゅびゅ~んっ!


 上から??


 「おおお!!!なんだよアレ!!隕石が落ちて来てるじゃないかよ!!」

 「飛ばすわよ!シャヘルはしっかり掴まっておいて!!」


 びゅゅーんっ!

 びゅびゅ~んっ!


 「待、ちな、さ~い!!」


 ん?このお声と……もしかして、この隕石ってば魔法……?


 「おい、駄女神!」

 「何よ?そんな懐かしい単語を持ってきて……」

 「お前、お袋に何をした」

 「べ、別に……」

 「いいから、とっとと白状しろ、駄女神」

 「………………」

 「聞こえん」

 「お母様の大事にしている、み~たんの毛で出来た上着を借りパクしようとして……」

 「……して?」

 「着てるのを忘れて竜化してしてしまいました……」

 「……竜化すると着ていた服は?」

 「ボロボロの屑切れになります」

 「あああぁぁあぁぁ!!!何、お袋に喧嘩売ってるんだよ!あの人の衣服への執着が凄いのは知っているだろ?!なんで、そんな危険なことするのかな?この駄女神は!!」

 「だって、だってだって!あの上着って綺麗なんだもん!!」

 「もんじゃねぇ!!親父にさえ二人掛かりで戦っても勝てないのに、お袋相手に喧嘩売るなんて自殺行為じゃねぇか!」

 「だから、こうして逃げてるんじゃないの!」

 「っだったら、俺を巻き込むな~~!!!」

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