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第五話 スキル無双

帝国暦 735年 夏


 「この放棄された砦がダンジョンってわけね!」


 凍結湖を前に、腰に左手を当て、右手でズビシッ!っと砦を指さして女神様はおっしゃった。


 そう、ここは以前に俺が堕竜の四天王だかなんだかをサクっと倒したあたりだ。

 うん。お袋から逃げ出したシャリムに連れ出されて早三日なんだよね……。

 まぁ、冒険自体は楽しいから大歓迎なんですが……。


 「おう。昔にここに来たらさ、急に目の前に「ダンジョンが解放されました」とかいうシステムメッセージっぽいのが流れて来たんだよ」

 「なるほどね!今さっき私の目の前にも出てきたわよ?」


 ほう。システムメッセージは女神様にも有効なものらしい。


 「とりあえずは装備の確認だけして突撃ね!前衛はシャヘルに任せるから、すべての脅威から私を守るように!」

 「へい、へ~い!って、まともな防具を俺は持ってきてないんだが……」

 「……そういえば、防具とかって家の倉庫にはほとんどないわね。……けど、何とかなるんじゃない?だって最強種だし……よっと!」


 そういってシャリムは虚空に浮かんでいるのであろう、UIを弄って装備を整えた模様。

 右手になんかぴかぴか光る錫杖を持ち、それまで来ていたみーたんの毛で作られたあったかそうなモコモコ上着から胸当に、下半身も所々金属で補強された皮のパンツを着込んでいる。


 ……なんか、ちゃんとアーマー着てるやん。

 俺はなんかあったか?

 イベントリを探す……。


*******

 防具/イベントリ


 E:布の服

 E:峡谷牛毛の上着

 E:峡谷牛毛のズボン

 E:革靴

*******


 おい!!

 俺のイベントリって装備済みの今着てる日常服しかないじゃねーか!


 「って、シャリム様?」

 「うん?どうしたの?」

 「俺のイベントリにはまともな防具が無いんだけど……どうして、お前はそんなに見た目もナイスな防具を装備できるのさ?」

 「そんなの家の倉庫からイベントリに移してたからに決まっているじゃない!」


 そりゃ、そうか。

 そりゃ、そうだよね。シャリムは家から逃げ出してダンジョンに行くって知っていたんだもんね。

 そりゃ、準備をしてるよね。


 「……俺、なんの準備もなくお前に連れ出されてきただけなんだけど……?」

 「あら、そう?けど、そういう時はアレでしょ?日本人のオタクさんたちは、どうせ「当たらなければ以下略」ってやるんでしょ?大丈夫よ」

 「……まぁ、異世界転生で言ってみたいセリフの第七位ぐらいのセリフだけどさ……それ。あ、もちろん一位は「俺なんかやっちゃいました?」だけどな」

 「ああ、それもベタよね。あとは冒険者ギルドの入会試験で才能を見せつけるとか、魔力探知機を破壊させるとかよね」

 「そうそう!あとはギルドランクの最上位が何故かSで、それ以降もSSSとかになってくるやつ!どっかの麻雀団体じゃねーっつぅの!」

 「そうそう、そもそもなんで異世界にはいちいちギルドとかあるの?しかもあれだけしょぼい経済環境で。全世界に広がるギルドって、それはもう国の存在を越えてるわよね」

 「そうなんだよな~!……俺も会社で「ギルドとかっていります?」とか言ったら、「ギルドなかったらお約束じゃなくなって面倒くせーだろ!代替考えるの!」って怒られたな~」


 うん、懐かしい思い出だな。

 あとは、「Sってどうなんすかね?」も聞いたな……。

 その返答が、「そのうちに格付け会社もAAA+の上にSとか作るから大丈夫だろ」って、わけのわからない返答だったな……元気かな、やる気なさそうな世界設定の島村さん。


 「あとは、アレよ!たぶん不思議宝箱とかボスっぽい敵倒したら出てくる装備があるわよ。それを装備していけばいいんじゃない?」

 「おい!ダンジョン装備で一揃えとかって、何周させる気だ?」

 「大丈夫でしょ。職業が神なら何でも装備できるわよ」

 「……いや、俺の職業って「竜騎士/半神」ってなってるんだが?これって、装備制限とか出て来るんじゃねーか?シャリムが好きなRPG的なノリだと……」

 「あら、そうなの?まぁ、防具なんて無くても何とかなるわよ。だって、その槍って凄いんでしょ?」


 ……その通り。

 初めて家の倉庫に忍び込んで以来、ずっと俺のイベントリに入れっぱなしになっているこの光り輝く槍……堕竜も一撃で倒せる逸品である。


*******

 武器/イベントリ


 E:光輝の聖竜騎士槍

 ATK: ∞

 効果: クリティカル発動 xxx% 能力値 xxx倍上昇

*******


 数値が文字化けしてるのか、何やらおかしなことになっているが、とにかくすっごく強そうな槍であることは間違いない。

 「僕の考えた最強の武器」感がもの凄い品である。


 「ともあれ、早くダンジョンに向かいましょう!」

 「へ~い!」


 俺は槍を担ぎやる気ない返事をした。

 本当はやる気バンバンでテンションMAXなんですけどね!

 けど、そんなオーラ出してたらシャリムに揶揄われること必至だからねっ!


 ……

 …………


 「おお!なんだか良く分からないけど、破壊不可能的な石材で作られた砦なのか!」

 「本当ね!なんだか、これぞダンジョンって感じ!……けど、なんで破壊不能なのに、こうして朽ちてるのかしら?不思議だわ」

 「……気にするな。きっと床とか建物を壊したら危険だから、無意識に冒険者たちは力を抑えてしか壁を殴れないんだよ。きっと」


 ちょっとだけ、お問合せセンターにやって来るウザいユーザーからの問い合わせを思い出した。

 たまに来るんだよな~、そういうの。

 大体は定型文システムで送り返すからアレだけど、一回は内容に目を通さなきゃいけないから当番の人は大変なんだよね……。


 「あ!敵が出てきたわよ!狼型が三体!」

 「んじゃ、俺が突っ込むか!」


 雑談をしながら道なりに砦を進んでいくと、通路奥にいきなり敵がポップした。

 狼型が三体。後衛のシャリムにターゲットが移らないよう大声を出しながら突っ込んで横に大振りをする。

 ファーストアタックのヘイトは大きいのがお約束だからな。


 きゅい~ん。ぽしゅ。


 おおぅ。

 槍が当たった端から光になっていく狼さんたち。


 「へ~、ダンジョン内の敵はすぐに溶けてなくなっちゃうのね。素材とか肉とか残らないんだ」

 「みたいだな……イベントリに落っこちてもないようだし……そっちは?」

 「私のイベントリにも入ってきてないわね」


 どうやらダンジョン内の敵さんはドロップ無しのようである。


 「んじゃ、サクッと行きましょうよ。道中の敵が何にも落とさないのなら、こっちとしては進むだけね」

 「……そうなるか」


 そういったシャリムさん、通路を一人でずんずんとお進みデス。


 入口の扉をくぐってから二十分ぐらい?

 階段を登っては通路、階段を登っては通路、といった単純な構造の部分を進んでいく。

 通路部分になると必ず数体の敵がポップするが、これまでの所すべての敵は俺の一振りで光の塵となっている。


 「あれ?ようやく上りも終わりかしらね。なんだか、いかにもな扉が目の前にあるわよ?」


 おぅ!

 確かにシャリムの言う通りに、目の前には高さ三メートルほどにもなるだろうか、巨大で雰囲気強烈な装飾が施された扉がある。


 「この扉を開けたらボス戦かね?」

 「わからないけど、多分そうなんじゃない?思いっきり、ソレっぽいし……それじゃ、一応はバフを掛けようかしら」


 んだよ。バフとかあるなら、初めから掛けて欲しかったぞ。

 たとえ、MOBが一撃で倒せる状況だったとしても……もしかしたら、精神的な疲労も軽減されたかも知れないじゃないか!


 ぴゅわ~~。


 なにやら微妙なSEを鳴らしながら、俺とシャリムの体が薄く光る。


 う~ん。

 この光以外に変わったところがあるようには思えんぞ?


 「……そんな目で見ないでよ。スキル項目では、能力補正に回避効果上昇とかあるんだから、きっとそれなりのもののはずよ?」

 「……ほう?……って、スキル?」

 「え?……スキルよ?なに驚いているの?」


 いや、だって、俺スキルとか知らんぞ?


 「あ!もしかして、シャヘルとかスキルも知らないの?ぷぷぷ。ダッサ。あんたってばコレ系の商品を開発して飯食ってきてたんでしょ?ならスキルとか必須じゃない?」

 「……やかましい。最近はスキルとかいうシステムがないタイトルもあるの!」


 ……そういったタイトルもあるにはあるが、俺は開発に携わったことは無い。

 ぶっちゃけ、忘れてた。スキルとかってなんだよ!


 「……スキルってどうやれば取得できるの?」

 「どうやって??……う~ん、気合?とりあえず、スキルUI開きなさいよ。そこに何かしらの取得可能スキルとかあるはずよ?」


 出ました!気合でシステムウインドウを出すこの世界ルール!

 意外と、その気合が難しかったりするんだぞ?


 ムムム……ヌヌヌ……ほぅぁ~!……どりゃ!


 ぷぅぃん!


*******

 スキル


 O: 豪撃

 O: 薙ぎ払い

 O: ジャンプ

*******


 おや?


 「シャリムさんや。俺のスキル画面には取得可能なスキルなんてものは現れないのだが?」

 「……そうねぇ。私の画面にも出てこないわよ?」

 「……んじゃ、どうやってスキル覚えたんだよ?!」

 「そんなの決まってるじゃない!きあ」

 「気合とか言うなよ!」


 先回りで逃げ道を潰して置く。


 「……気合よ」


 あ、言いおった、この駄女神。


 「んな!無いものを気合でどうにか出来るか!!なんか、ヒント寄越せよ!これができるとかって教えろよ!こうすれば取得できますとかって道しるべもないのかよ!」

 「私に言われても困ります~!そして、ああ出ました。何事も周りに任せた気持ち悪いオタクの開き直り!「選択肢が多いから選べません」ってヤツ?馬鹿じゃないの?あ、いえ馬鹿でしたか。そのぐらい自分でその小さい容量の脳みそ使ってください~!」

 「ああ?!不親切なシステム提示しといてなんだよ、その言いぐさ!納得いかないだけなんです!こっちは!こんなに使えないシステムを提供するそちらがお馬鹿なんじゃないんですか?!」

 「うわ~、なにそのご自分至上主義。笑っちゃうわね。同じ条件で私は使えてるんです。あなたが使えてないだけです。自分の低能を一般化しないでください~!ハイ、論破!」

 「ああ!なんだそれ!!何その言い方!どっかの掲示板かよ!!」


 ぴろんっ!


 むっ?


*******

 スキル「口喧嘩」を獲得しました

*******


 え?スキルってこうやって獲得するの?


 「……シャリム……今、俺「口喧嘩」ってスキル獲得した」

 「……奇遇ね。私もよ」

 「もしかして、スキルってこういう行動から勝手に獲得するの?」

 「そうかも知れないわね……正直な所、私の魔法スキルって最初から膨大な数が使えていたから」


 ああ、そういうことですか。

 行動を基にスキルが追加されるタイプのアレですか……。


 「……シャリム。もう一回バフ掛けてくれる?なんか切れちゃった」

 「……いいわよ。……はい」


 もう一度身体が薄く光り輝く。


 「じゃ、行こうか」

 「そうしましょう……」


 なんか口喧嘩に疲れた俺達は、無言で扉を開いた。

 そして空から降りて来る黒いドラゴンを素手で殴り飛ばした。


 なんか武器を使う気がしなかった。

 シャリムも魔法を使う気がしなかったようだ。


 ……

 …………


 ダンジョン踏破、意外と簡単だった。

 以上!帰宅!

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