第四話 雪洞っぽい無双
帝国暦 735年 夏
竜人。
ここいらではドラグーンと呼ばれる種族に生まれ、この世界に飛ばされて十年ちょっと。
俺が住んでいるこの辺りは、夏でも外には雪が盛大に積もっている。
体感気温は二十度なのにね、不思議だ。
更に言うと、冬でも体感二十度なのがもっと、もっと不思議だ。
四五年前までは普通に寒さも暑さも感じていたはずなのに、十歳の冒険から帰って、親父に頭をぐりぐりされてから、一切、そのあたりの気温の変化に困ることが無くなった。
俺の体感温度、常春の国マリ○ラである。
「シャヘル生きてる?」
俺のことをその名前で呼ぶのは駄女神様しかいない。
「どした?また、親父に怒られるようなことをしたのか?」
「してないわよ!失礼ね。……それよりも生きているならちょっと、私の手伝いをしなさい!」
「……「暇なら」、とか言われるならわかるが、「生きてるなら」で手伝いを強要するのはどうよ?」
生存確認されたら、問答無用に女神の手伝いをさせられるのか?
ちと、信徒に対する扱いが酷すぎないか?この女神。
「いいから、付いて来なさい。今日は町の外に出て、冒険をするわよ!」
「へいへ~い」
「……なによ、嫌そうな返事ね。……まぁ、良いわ、元からシャヘルには拒否権が無いからね。無駄に説得の時間を取られるよりも楽なもんね。じゃ、行くわよ!」
俺達は今年で十四?それなりに育ってきていて、黒髪の駄女神様は外見だけならば立派な女神様な感じである。なんか悔しいから、綺麗だとか、美人だとかは絶対に言わない。
「お?嬢ちゃんと坊ちゃんは、これから外かい?今日からは何日かは天気も崩れそうにないからな、気を付けて行くんだよ?」
「「は~い!!」」
門番という名のニートのおっちゃんが有難い天気予報を教えてくれる。
住民三十人の町に門番って言ってもなぁ……。
ちなみにこの島には他に町と呼べるものは存在しないようだしね。
「で、どうして俺は町の外に連れて行かれたの?簡単な説明ぐらいしてくれよ。シャリム」
別に街の外に連れて行かれることに不満は無い。
だって、人口三十人の町ではやることが何もない。せいぜいが町の中での雪かきぐらいだしな。
これが、以前のスラッシュ達みたいな冒険者が海を渡って来ていようものなら、その行動を覗き見する程度の娯楽は味わえるのであろうが……。
「ん?シャヘルってみ~たんを家に連れてきたときに、ダンジョンを見つけたとか言ってたじゃない?やることもないし、暇つぶしにダンジョン踏破でもしようかなと思っただけよ」
「……そうなのか?あれから五年ぐらい経ってるだろ?どうして今更?……寒い外に出るのを嫌がってたろ?寒さを感じない癖に」
「うるさいわね。そんなに小うるさいと女にもてないわよ?お兄様(w)」
「やかましい!」
どあ……うやいぃ……いよ!
???
「なんか家の方から声が聞こえないか?」
「!聞こえないわ!全然聞こえないわ!いいから、急ぐの!!」
「ああ、うん」
あんの!ばかむすめ~!!!
「おい、こら、駄女神!家で母上様が大絶叫されておられるぞ!」
家庭内ヒエラルキー。
母上様>|越えられない次元の壁|>親父>>>妹>|見えない壁|>俺
要するに母上様に逆らうのは自殺行為ということである。
「何したかキリキリ吐かんか!この駄女神が!」
俺の生物としての存在にかけて、母上様の怒りの原因は知っておかねばなるまい。
「うっさいはね。ちょっとだけ母様のドレスにお茶をこぼしちゃっただけよ?」
「……」
「お茶だけでなく蜂蜜もこぼしたかしら?」
「……」
「ただのドレスじゃなくて、夜会用の最新ドレスだったかしら?」
がすっ!
「それだろ!!何やってんだよ、この駄女神!母さんが衣装狂いなのはわかってるだろうが!」
「痛いじゃないの。……それがわかっているから、こうして逃げ出してるんでしょ?!」
どこに行ったか、バカ娘が!!!
あ、声が近付いているかもしれん……。
「「とりあえずは早いところ町から遠ざかろう(りましょう)!」」
善は急げである。
……
…………
ぶごーーーっ!
「なぁ、シャリム。なんちゃって門番のニート野郎は、この何日かは天候が良いとか言ってたよな?」
「そうね、私の記憶が確かなら、そう言ってたわよね」
「「……あんのクソニート!!」」
ぶごーーーっ!
二人で大声を出したとて、吹雪が勢いは弱まることは無い。
観念してビバーグしよう。
山すそと思しき所まで頑張って歩いて、斜面に背を向けて土魔法でかまくら型の小屋を作る。
屋根やら、壁やらは勝手に雪が積もるので、骨組みと言うか、土台というか、簡単なものを気合を込めて作り出す。……どぉぅりゃ!
「はいはい、ご苦労様。あとの内装は私の仕事ね。ちょい、ちょい、ちょいっと♪」
これが、魔法適正と言うやつなのか。
俺は気合を入れて腹から声を絞り出すような気合を放ったというのに、シャリムのやつなんかは鼻歌交じりで内装を整えていく。
床に、内壁、テーブル、ベッド、椅子……暖炉に煙突。ドアは透明の思念物っぽい何か……。
うむ。魔法というのは理不尽だ。さらに才能というのも理不尽だ。
「ふふん!ほめたたえてもらっても結構よ?流石は女神様ってね!」
「やかましいわ、駄女神様。……しかし、今は感謝を贈らせていただきます。ありがとうございますシャリム様……」
思わずひれ伏してしまったね。
俺のひれ伏しプライスレス。
……価格が無いって意味でね。
「その清々しいまでの剽窃っぷりがお兄様(w)らしくて良いわね」
「なんとでも言え。何故だか知らんが寒さを感じない身体になったとしても、こんな吹雪に吹き晒される趣味は無い。さらに、ただのかまくらよりも立派な内装を備えたシェルターの方が有難いのは間違いないからな」
「ほほほほ。今後はちゃんと女神シャリム様と呼ぶのよ?」
「へへ~。駄女神様、ありがとうござーやす」
「……もう。良いからなんか燃料くべて暖炉に火を点けてよ」
駄女神呼びにもお許しが出たので、燃料になりそうなものをイベントリの中から探そう……。
たいまつとかマッチとかは持ってないよな……流石に。まぁ、一般的な冒険者とは違う存在だし、俺達ってさ。
他に、火がつきそうな物……薪とか持ってるわけもないし……となると、道中で狩ってきたこれか。
よいしょっと!
「なんで、私の渾身のロケットストーブにイビルアイがくべられるのよ……まぁ、闇の眷属が聖光で燃え盛る様は風情があるけどね」
おお。女神様の新たなお許しが!
っていうか……。
「っていうか、シャリムってこの世界の創造神なわけだろ?」
「う~ん。いわゆる「創造神」ではないけど「最高神」かつ「唯一神」なのは間違いないわね」
「ほう。で、だ。疑問に思ったのは、そんなシャリムしかいない世界でどうして闇の眷属とかがいるんだ?こういうクリーチャーって、邪神を信奉しているとか、魔界から漏れ出たなんかとかっていうのが相場じゃん?そうじゃなかった場合は、シャリムの創造物ってことだから、こうして容赦なく燃料にするのも罰当たりなことなのかな?と」
どうせ、ヨシさんのタイトルに影響受けたオタ女神の創造世界ってことで、ここまであんまり気にしてなかったのだけれど、流石にちょっとぐらいは世界設定というのが気になり出した。
MOBって感じだけど、倒して素材が落ちるとか、お金が自然に手に入るとかではないしな。
「さぁ?剣と魔法の世界ならモンスターは基本じゃない?いちいちモンスターの由来とか知らないわよ。別段、別世界の神々云々もいないし……そもそも、どっかの誰かが神様に怒られて隔離された世界なわけだし、ここは」
「……そうでしたね。ワタクシがずっこけて人を突き飛ばしたのが原因でした……」
思い出した。
ごめんね、伊藤さん。そして、許してね。伊藤さんを見守っていた神様。
「じゃぁ、なんだ?このモンスターって別に幾ら倒したところで問題は無いのか?」
「……殲滅して二度と存在しなくなった!とかなら多少の生態系に影響は出るでしょうけど、あんまり深刻に考えなくてもいいんじゃない?」
「ふぅん。そうか。……あとはさ、何年か前に堕竜を狩ってきたじゃん?その時に、その堕竜が話しかけてきたんだよな、相手にしなかったけどさ。で、その時の口ぶりが、妙に奴らの組織というか群れというか、そういうのを示唆してきてたもんで、ちょっと気になったのよ」
ラスボスとか、邪神との戦いとか、善神だと思っていたらラスボスでした!とかってよくあるじゃん?由緒正しきJRPGに限らず。
「気にしなくていいわよ?私が思いついた「理想のゲーム世界」なわけだから、この世界は」
「……そういうものなのか?」
……この駄女神のことだから、どこかで、思いっきり致命的な間違いとか、勘違いをしていそうな気はするが……まぁ、今は深く考えないでいよう。
まずは、この吹雪をやり過ごす。
そして、その次はダンジョンに挑む!これだな!
「そんなことより、これからダンジョンに挑むのよ?!そっちの方がアガる案件でしょうが!」
「そりゃ、そうだ。……でも、ダンジョンってどうゆう代物……」
「あ~~!うるさいシャヘル!あんたは職業病なのかも知れないけれど、細かいところに気を使い過ぎ!この世界は私の妄想から生まれた世界!そして、私はこの世界の唯一神!OK?」
「あ、はい」
しょうがないじゃん……。
気になるのは気になるんだからさ……。
前も思ったことだけど、この駄女神のことだから、何かしらの設定に穴があって、俺が酷い目に会うんでしょ?どうせ。