第三話 四大なんとか無双
帝国暦 731年 夏
「おっはよー!みんな朝だよ!」
「んだよ。シシリーは何でそんなに元気で……あ、イテテ」
「……おや?スラッシュも二日酔いで?」
「シシリーを除いて全員か……全く、エール程度で二日酔いだとはな……俺達も年なのか?」
「長寿のエルフに年とか言われてもな……イテテ。ったく、坊主は大丈夫だったのか?多少は飲んでいたろ?」
「いや、一杯位ですからそんなには……」
「そうにゃ。ビルは元気な漢なのにゃ。エールなんかでへにゃへにゃなんかにはならなかったにゃ」
「なんだ?そのミューイ語尾連発は……」
新たに昨晩勉強した。
ミューイの女性はそういった気分になると語尾があざとくなるらしい。
うん。つまりはそういうことだ。
昨日はシシリーが三人のエールに盛った。
酔いを早める薬的なやつを……そして、襲われた。この世界ではある意味、教われた。
滅茶苦茶に個人授業をしていただいた。
竜人、しかもドラグーンの種はミューイ的には堪らない魅力だったらしい……。
……、終わったことを振り返るのはよそう。
それよりも獲物の情報を聞こう。人生は前向きが一番だと誰か偉い人が言ってた気がする……いや?学歴詐称で干された芸能人かなんかだったか?
「旅立つ前に、昨日言ってた峡谷牛の居場所と堕竜の目撃情報が聞きたいんだけども……、良いかな?」
「おお、もちろん構わんぜ」
男前なスラッシュは皮袋から飲み水を一口、二日酔いの頭を振り振り、俺の質問に答えてくれた。
「……っつうことで、この崖を降りた先に凍結した川がある。んで、そこを渡って丘を一つ越えた辺りに、渓谷牛はいるな。堕竜の方はそこから更に二日ほど北に行った所の凍結湖。そこに面した古い砦跡で見掛けるって話を聞いたことがあるな」
「おお!有難うございます!これで父さんからの課題をクリア出来ます!」
「それは良かったですね。それでは貴方の行く先々に光が溢れることを神に祈って!」
「有難うございます!皆様の未来にも女神シャリムの御加護がありますように!」
「ん?なんだ?その女神というのは?」
「むぅ。シシリーも知らないにゃ。けど、ビルが言うならこれからはシシリーも女神シャリムを信奉するにゃ!」
愛称のビル呼ばわりはやめぃ!
三人の俺を見る目が変わってきてるではないか!
「ん?ドラグーンの神なのか?女神シャリム……神に性別やら名前があるってのは初耳だが、語呂はいいな……これからは聖竜騎士アーサーに敬意を表して、俺も女神シャリムを信奉してみるか」
「はい。出来ましたら女神シャリムを信奉して貰えると有難いです」
女神の存在エネルギー。
これも良くある設定の如く、世界の中で信仰される具合によって、生成程度が激変するそうだ。
ありえない話だが、惑星統一勢力の国境にでもなれば、あとは神階でこの種が枯れるまで、ぐ~たらな生活をしていて問題ないらしい。
目標はそこに如何に近づけるかだな……。
要するに、俺の……いや、俺達のグランドミッションは、死ぬまでの間、如何に女神シャリムを広めるか!ということだ。
ご褒美として、この一生のエネルギー収支が見事にプラスだった場合、また、神階で焼肉パーティーをしてくれるらしい……。
なんかショボいご褒美だな、と思ったのは内緒だ。
取り敢えずはスラッシュ達とはここでお別れだな。
「一晩だけとはいえ、皆と知り会えて良かったよ」
一人一人と固く握手をかわしていく。
「ああ、俺も英雄の息子と知り会えて光栄だったぞ」
「私も面白い魔法を見せてもらいました」
「ふん。ここから先の旅は寒さも厳しくなろう。この耳当てを持っていくが良い。エルフの狩人のお手製だ」
「あふん、昨日はすごかったにゃ。ワタシはもっとビルが欲しいから、また今度会いに行くにゃ」
何故かシシリーだけが小声で……というか耳元で囁いてきた……うん、もう皆にはバレバレでしょうね!
折角、気合いで消臭魔法やら清潔化魔法やらを行使してみたのに!
「「…………」」
三人の生暖かい視線が辛い。
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃぁ。これで俺は行くよ。皆、縁があったらまた会おうね!」
「「おう!またな~!」」
「縁が出来たからまた会いに行くにゃ」
シシリーはうるさい。
俺はまるで逃げるように、そそくさと、スラッシュに教わった道を北に向かって歩きだした。
よっ!
とっ!
はうぅっ!
イテテ……最後の飛び降りは調子に乗った……。
五メートル程度の高さなら何ともなかったので、最後は二十メートルにチャレンジした……。
足がしびれて動けぬ……。
やはり、ドラグーンと言えど高所ダメは無効には出来ないらしい。
ぬん、ぬん、ぱぉ~ん!!
おっと、可愛らしい峡谷牛の子供ではないかね?
お兄ちゃんは足がしびれて動けないけど、君は可愛いね?お~よしよし。
ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
はっはは!
可愛いですね~、毛がフカフカですね~、長いお鼻がしっとりとしててえも言えぬ触り心地ですね~、可愛いですね~。
雪原ということもあり、気分は動物愛護マスターの雀士だ。
はっはっは! ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
はっはっは! ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
はっはっは! ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
はっはっは! ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
うん。堪能した。
足のしびれも治ったので、そろそろ君のご両親に挨拶に行こうではないか?
堕竜の討伐もあるのだ。肉の確保に時間は掛けられない。
「さぁ、我が家の豊かな食卓の為に、君の両親、もしくは群れの下へと案内するが良い!!サクッとヤッテ、イベントリに収まるぐらいの大きさに切断しちゃうぞ♪」
ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
いかん。流石に獣か魔物かわからんこの生き物に話は通じん……。
どうしよう……うん、まぁ、良い。このまま見なかったことにして、付近の捜索をしよう。
うろうろ。 ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
うろうろ。 ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
うろうろ。 ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
「ええい!!ぱほぱほ、やかましいわ!!」
ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
……くっ、くじけたりなんかしないんだからねっ。
まぁ、良い。俺は順序などと言ったものには拘らない漢。ようは目的を達成すれば良いのだな。
先に、凍った湖に向かえば良いさ。
堕竜は砦跡に現れるという、流石にこのぱおぱお牛もそこまでは付いてこないだろう。
…………
……………………
ついてこないと思ってた俺が馬鹿でした!!
なんだよ……二日間も付いてくるとは思わないじゃん!!
ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
もういいや、この「み~たん」の好きにさせよう。
こいつってば、俺と違って高所ダメが無いらしいし、人の戦闘中は物陰でじっとしてるし……。
もう、ペットとして連れ歩こう。きっと、俺がテイマーとして覚醒したとかなんだよ、きっと。
……あのタイトルでテイマーなんて職は無いけどな。
ぶ~お~んんっ!
*********
新たなダンジョンが解放されました
*********
壮大なんだが、ちゃっちいのか、良く分からないファンファーレと共にシステムアナウンスっぽい文字列が浮かんだ。
くっくく。
どうやら、目の前の砦跡はダンジョン扱いらしいな!
これはアガるな!テンションが上がる!!……って、馬鹿っぽい言葉だよな。「緊張が上がる」ってどういう現地語?って感じだ。
おぅ、いかんいかん。こういうことを素で言っちゃうから、地球ではモテなかったんだ!これからは気を付けよう!……ただ、妹(w)相手には気を付けなくて良いと思うけどね!
ここは、気を取り直して……。
「さぁ、初めてのダンジョンに出発だぁ!!!」
ばさっ、ばっばさっ!
……。
「ほぅ、そこな産毛も抜けきっておらぬような、ひ弱で吹けば飛んで行ってしまうような赤子の竜よ……」
……。
「見れば、あの忌々しき白いトカゲ共の……」
……。
「ここであったが百年目!今こそ、この偉大な……」
うがぁぁぁあぁ!
親父直伝のジャンプ!からの……脳天割り!!
「ぐ、ぐふっ……ま、まさか……闇の四だ……」
「黙れ!」
ぐしゅっ。
首を落として黙らせる。
うむ。家の納屋からパクってきた、この光り輝く槍斧の威力は素晴らしいな。
もとい、堕竜の強さは置いといて……ってかさ。
なんだよ~、せっかくダンジョンに挑もうかと思ったのに、いきなりミッションクリアの敵が出てきちゃったじゃんかよ~。
展開書き直せよ~。こんなの実装したら、ユーザーという名のクレーマーが大挙して凸って来るぞ?
「まったくもうな~、微妙にここはシャリムの世界なんだと思わせる展開が続くよな~」
はぁ~、ぶつくさ文句を言いながら、親父に堕竜の撃墜を証明するためにこいつを持って帰らなきゃな……何個のパーツに分断すりゃイベントリに入るんだ?
この黒いの、全長が十メートル越えてるし……。
ぱぉぅ、ぱぉう、ぱほほほぅぉ~んっ!
おお、み~たんも祝ってくれるか。
んじゃ、一緒に村まで帰るか。