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第二話 石板無双 

帝国歴 731年 夏


 俺も、この世界で生を受けて十年。


 竜人の漢たるもの、十にもなれば得意武器を片手に闇に堕ちた竜の一匹でも狩ってくるべし!

 ついでに食肉にも使えそうな獣も狩ってこい!


 そう親父に言われて家を出されてから、はや五日。

 どこにも竜?しかも闇に堕ちた?そんなのいやしない。


 ってか、生き物の気配すらしない。


 ってか、親父よ。


 俺達家族が住んでいるこの西部竜峡谷は一年中雪に覆われていて、まともな生物の気配が全くしやしませんぜ?


 一応はコンパスを持たせてもらっているので、町の方角だけは見失わないで済むのが幸いなのだが……。

 連日の吹雪で視界は最悪。

 こんな中でこれ以上移動するのは御免なので、町から北に一日半程歩いたところに見つけた野営地跡。たぶん、昔に軍が使った場所なんだろうな。そこに土壁を築いて風および雪避けシェルターとし、雪原をうろちょろしていた悪魔的な生物を魔法の火で焼いて暖を取っている。


 これってステータス∞の俺だから生きていられるけど、普通の子供なら一発で死んでいるよな……。


 ってことで、家を叩きだされる前に盛大に親父に文句を言ったのだが、「竜人はそのぐらいでは死なん!」の一言で俺の反論は封じられた。

 シャリムもシャリムで、「ああ、そのぐらいでは死なん、死なん。シャヘルはこの世界の英雄が何千、何万、何億と束になって掛かって来ても倒せるような存在ではないのだから。まったく、そんなことを気にする方が馬鹿らしいというものよ?」と仰せになられた。

 あの、駄女神め!自分は魔法職で肉体労働を要求されることがないから、そんなことを言っていられるんだ!


 「うわ~、ここまで吹雪いているなんて信じられない!どうして、町の依頼なんか受けちゃったのよ?スラッシュ!……って、先客がいたのね?こんにちは、坊や。私たちもお邪魔させてもらって良いかしら?」


 なにやら、親父と駄女神への思い出しムカツキで探査の網が働いていなかったらしい。

 俺の改造した野営地、もとい、シェルターに冒険者らしき四人組が入ってきた。


 おい!勝手に入って来るな、そして勝手に火に当たるな!


 「まぁ、この吹雪ですから構いませんが、それなりに物資は提供して欲しいところです……」


 タダで俺の魔法の恩恵に預られてもな……まぁ、いわゆるMP的なものは欠片も使ってないんだけれどさ。


 ちなみに俺のステータス。五歳の誕生日を迎えた段階でHPとMPが出現した。

 理由をシャリムに尋ねたんだが、返答は一言「知らない。今までは気合が足りなかったんじゃない?」とのことだった。

 駄女神の恩寵よりも万能なんだな、この世界の気合って。


 「おお!そりゃ、そうだよな。すまんな、坊主。んじゃ、俺達からは外気で凍結寸前までに冷えたエールと、さっき仕留めた渓谷牛のいいところを出そうじゃねぇか」

 「おい、スラッシュ。いいところを出しちゃ、依頼が……」

 「な~に、しみったれたこと言ってるんだよ、グレイ。依頼は渓谷牛の肉、三頭分だ。何処にもいいところを三頭分何ぞ言われてねぇぞ。俺たちゃ、依頼内容をきっちりと文言通りに処理すりゃいいって寸法よ!」

 「それだと、達成評価が落ちるのだが……」

 「まぁ、それ以上は良いんじゃないでしょうかね、グレイ。私たちも寒い吹雪から逃れるために、ここをお借りするのです。それに、このシェルター、彼の土魔法で出来ているようですよ。ここは高級部位を供出して、ありがたくこのシェルターを使わせてもらいましょう」

 「ん?このシェルターは坊主が造ったものだってか?ワイズマン!」

 「ええ。私では、一朝一夕で作れるものではないほどに高レベルなシェルターですよ、ここは」


 おお、このパーティの魔術師さんは中々の目利きのようだな。

 俺の渾身の土魔法(MP消費は相対的にゼロ)を見抜くとはやるね!


 「良く分かんねぇが、とりあえず、ここにいさせてもらえれば、この吹雪は避けられるってことだな。益々、良い部位を供出しなきゃなんねぇな!」

 「……はぁ……わかったぜスッラッシュよ。んじゃ、外の肉を削ってくらぁ……」

 「まて、グレイ!同じことを何度も言わせんな。「良い部位」だ。さっさとイベントリから出せよ」

 「……わかった、わかったよリーダー。おい坊主、この部位は中々味わえないほどの高級部位だからな、心して味わえよ!」


 そう言って、狩人かな?長耳族エルフのグレイはイベントリからササに包まれた高級部位を取り出す。


 「ごめんね。坊や。大きな声じゃ言えないけど、グレイ、このエルフは軽く人間不信でね。根は悪い奴じゃないから怒らないでくれるとお姉さんは嬉しいわ」

 「……聞こえてるぞ。シシリー!」

 「はいはい、ということで、私は猫耳族ミューイのシシリー。彼がエルフのグレイでしょ。魔法使いが人間のワイズマンで、戦士がリーダーで人間のスラッシュ」

 「あ、丁寧にありがとうございます。俺は竜人ドラグーンのウイリアムです。この峡谷には……獲物を狩って来いって、親父に放っぽり出されてきました」

 「おいおい。放っぽりって……ここは町から近い西部とは言え、竜峡谷だぜ?そんな無茶は……ってドラグーンなら問題ないか。坊主も十才ぐらいには見えるしな」

 「そうだな。十才のドラグーンなら、一人でも西部ならなんの問題もないだろう」


 あ、この世界での常識ではそうなんだ。

 こわいねぇ、ドラグーンって。まぁ、町の中でもうちの家族しかドラグーンはいないし、生まれてからこのかた、酔っぱらいにも絡まれたことないもんな……妹(w)のシャリム含めて。


 ふむ。この四人パーティ。

 見た目と違って実はいい人たちなのかも知れないね。


 「ほらよ、スラッシュ。ササの葉で包んどいたから、鮮度バッチリの霜降りだ。だが、どうやって食うってんだ?……坊主が使ってる燃料はイビルアイだろ?闇の眷属を燃料にした火で食うとかぞっとしねぇぞ?」

 「それなら、その火は聖火ですので、そういった心配は無用だと思いますよ?」

 「「おお!聖火だって?!」」


 おおっと、予想外の反応。


 「いや、だって聖火と言えば限られた聖職者にしか使えないとされる火……確かに、その火で焼かれればイビルアイだとてただの燃料になるのでしょうが……」

 「そんなに大したものでも……だって、俺たちは竜峡谷の町に住むドラグーン、聖竜様の眷属ですから、そりゃ、吐き出す炎は聖火になりますよ」


 この辺りは物心ついてから、両親に習った設定である。


 この世界では竜と名がつくものは、聖竜と堕竜の二種類の系統に分けられる、聖竜はこの世界の存在で世に安寧と平和をもたらす存在、一方の堕竜は混沌と戦乱をもたらす存在……この辺りはかの大型タイトルそのまんまである。

 シャリムめ……ゲーオタにもほどがあるぞ。


 「そうか、お前さんがかの高名な聖竜騎士アーサー様の御子息ってことか!いやぁ、こいつはなんとも嬉しいな。英雄の息子と一晩一緒に過ごせるのか!」

 「くくく。そう言えば、スラッシュはアーサー卿に強い憧れを抱いていましたね?」

 「そりゃ、そうよ!漢と生まれたからには、おのれの腕一本で辺境を開拓する領主様となるのはな!英雄譚の一大テーマだよな!」


 ……初耳だよ。うちのスパルタ親父ってご領主様なのかよ……人口二十人ぐらいの町の。

 天下のドラグーン様らしいのに。


 「はいはい。英雄譚も良いけれど、とりあえずは肉を焼いてくれないかい?肉を焼くのは漢の仕事なんだろ?アタシャお腹が空いて、空いて、たまらないよ!」

 「そうですね……イビルアイが聖火で燃えているのならば……、このまま適当な大きさに切って、串焼きにしますか……」

 「そうだな。岩塩をまぶせば中々に旨いものが……って、どうした?坊主」

 「それなら、ちょっとオススメが有りますので、少々お待ちを……」


 確かに塩を使って豪快に串焼きにするのも良いが、せっかくならパリジャーダ風ということで鉄板を使おう!

 土魔法で作るから、鉄板じゃなくて石板だけどな。


 よし、まずはイメージ!


 BBQ台の上に溶岩のプレートを……って、あの溶岩焼きに使うのってどっちの岩になるんだろ?

 玄武岩より?流紋岩より??

 まぁ、一般的な溶岩イメージはパホイホイだから軟らかめで行くか。

 土台は流紋岩、鉄板は玄武岩で……むむむ!集中集中、気合、気合、気合!んが~っ!


 どどんっ!


 ふぃ~。完成だな肉焼きセット。


 「「えっ??」」

 「え?」

 「「え、詠唱は?」」

 「ドラグーンが使う魔法に詠唱とか聞いた覚えがないのですけど?」

 「そ、そうなんだ……ワタシは初めて聞いたよ」

 「俺も初めて聞いた……まだまだ、俺も英雄譚の読み込みが足りねぇな」

 「いや……エルフの里でも聴いたことが……」

 「魔術学校でも聴いた覚えはありません……といっても、ドラグーンの方々は就学されていませんでしたが……」


 む?そうなのか?

 お袋や妹(w)の魔法なんか、呼吸をするのと同じレベルで魔法を発動させてるぞ?

 妹(w)から脳筋と呼ばれる男二人は気合を溜めるのに時間がかかるから、魔法に関しては思いっきり戦力外通告されているのだが……。

 ともあれ!


 「まぁ、俺はドラグーンですから!それよりもちゃんと肉焼き台を作ったので、これで美味しく肉が焼けますよ!」

 「そ、そうだな!これで、うまい肉が焼けるな!」

 「そう、そうですね。では、これから先は俺がエルフに伝わるスパイスをふんだんに使って、最高に旨いステーキを焼いてやろう。狩人の肉焼き技術を期待していろ!」

 「う、うわ~!!楽しみ~にゃ」

 「……なんですか、その無理やり付け足したミューイ語尾は……」


 おおぅ。ミューイは猫耳だけじゃなくて、語尾にもあざと過ぎる猫成分があるのか……。

 新発見だな。


 ともあれ、石板を熱するために火力を上げよう。

 追加燃料イビルアイ投下!

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