焼肉無双
俺は死んだ。
そして、異世界に転生するとかで待機中だ……って、異世界に転生するんだったっけ?
「ハイ。xxxxさんは転生しますよ。異世界、というか私がこれから作る新世界ですけどね……あ!その肉はわたしが育ててたやつ!!!」
「知らん!焼肉は戦場じゃ!……というか、この十数年は目上の人たちに御馳走になってばっかだったから、肉を育てるとか奪うとか……そういう次元の低い食べ方はしてこなかったなぁ~」
「……うるさいです。典型的な日本人は、そんな営業経費で落ちるような状況で焼肉はしません!」
「そうか?焼肉業界の売り上げのほとんどは営業経費だと思うけど……もちろん俺の体感な」
「……そうなんですか???あ!また取った!!!」
いちいち小うるさい女神だ。
この空間での焼肉は懐事情に関係なく高級部位を食べれるし、食味は大いに感じられるが満腹感は感じないという、ミートイーターにとっては夢の世界なのだ。
忖度無しで好き勝手に食わせるが良い!
「まぁ、いいんですけどね。でも、何です?その女神女神って呼び方!私にもれっきとした名前が……」
「名前が?」
「名前が……」
「名前が?」
「名前が有りません!!どうしましょうxxxxさん!」
いや、知らんがな。
「お前の親とか創造主とかっていないの?その人たちに付けて貰えば?」
「いませんね……そもそも女神って、いわゆる一つの自然発生的な現象ですから」
あ、そうなの?知らんかったよ……でも、ちょいちょいこの女神は古いネタ使ってくるよな。
俺の世代でギリだぜ?
「む!十代美少女は本当ですからねっ!私が発生してから、地球時間換算では十年ちょっとのはずです!たぶん!」
たぶん、言いよったよ、この子。
つうか、そもそも神の世界にも時間の概念なんかあるの?
「ん?時間の概念ですか?もちろんありませんよ?時間は観測対象があって初めて生まれる概念って感じですかね。そんなこんなで、私が発生したのは非常に地球に縁深いところだったので、自然と発生からの時間概念が地球と紐づいていたのです。ゆえに!私は十代美少女なのです!お!この大判は絶品ですね。山椒の風味がたまりません!」
「だろ?この大判が、大事な大事なシメなんだよな!」
アツアツご飯の上に、卵をくぐらせたお肉をのせて頂く……うまし!
「で、そろそろ本題に入ろうかと思うのですが……」
「よし!いつでも来い!腹は膨れないけど、非常に美味しい、思い出の焼肉が食べれて俺は感動したぞ!」
「あ、ハイ……それでは、説明しますね。発生したばかりの私、十代美少女の女神は……」
「十代美少女設定はやめい!そろそろウザイ!……つうか、名前を付けろ。名前が無ければ呼びにくいったらありゃしない!」
「そうですね、だけど名前ですか……どうしましょう。xxxxさんが名前付けてくれません?」
俺が名前を付けるのか?
っても、俺もなんか名前をこの女神に呼ばれてるはずなのに聞き取れないぞ?
……ん?俺の名前って???
「あ、名前ってのは世界と魂を結ぶ呪文のようなものですので、たしかに地球がある世界と切り離されたxxxxさんは名前が文字化けというか、概念化けと言いますか、おかしなことになっていますね。私の名前を決めた後にxxxxさんも名前を決めましょう!RPGの第一歩は名づけですもんね!」
なんだよ。この女神ってヨシさん作品の大ファンなんじゃねーか?
「オリジナルの名前なんか思いつかんから、地球の神話からパクってくる形でも良いか?」
「問題なしです!そもそもあの世界とは切り離されてますから、混線はしません。ゼウスでもアテナでも問題なしです」
「え~!そんな全能感バリバリ風味の名前は嫌だな~」
「いや、待ってくださいね。私はこの世界での神なわけですから、全能ですよ?」
いや、そんな自称十代美少女に万能感は似合わん……普通に女神でいいじゃん……女神?
「やっぱり女神の有名どころはヴィーナスとかエウロパとかだろ?……う~ん、ヴィーナスってことで金星にしよう!確か、明けの明星と宵の明星でなんか対になっている言葉があるじゃん、あれで!」
「ShaharとShalimですか……」
「そそ、んじゃ、俺が男ということでシャヘル、女神が女性だからシャリムということで!」
「まぁ、性は特にアレですが……いいでしょう。私はシャリム」
ぽうぅ!!
おお!シャリムは一瞬光り輝くと、その身を黒髪の美女へと変貌させた……変貌?それまではどんな姿だったっけ?思い出せ……お、うわあっ!
ぽうぅ!!
光輝いたのはシャリムだけじゃないらしい。
俺ことシャレムも光り輝いた。
む??体型も何もかもが変わった?
視線が変わってるし……おお!これはあこがれの細マッチョ!
「シャリム!シャリム!鏡とかあるか?」
「あ、はい。鏡でしたらここに……はい!ってちょっと待ってくださいね。まずはわたしの確認が先です!」
ええ、どうぞ、どうぞ。
この程度のレディーファーストは何てこと御座いません。
「おっほおおぅ!アガる~!!なにこの黒髪バインバイン美女!!超ドストライク!!」
大興奮のシャリム様である。
止めなさい、自分で胸をゆっさゆっさするのは!
「いいから、次は俺に鏡を寄越せっ!」
半ば、強引に鏡を奪い取る。
どれどれ???
「おお!俺も物凄い美男子!……やばいなこれ。金髪碧眼の超絶美男子とかモテモテハーレム一直線じゃね?」
「ん?あ!本当ですね!シャヘルってば、これまた私の好みドストライクな王道美男子!」
「おお、ありがとう、ありがとう!それを言ったらシャリムこそ世界が騒然とするレベルのエキゾチック美女だぞ!」
「本当ですか?」
「本当、本当……シャリム……」
「ありがとう……シャヘル……」
「「……」」
何やら見つめ合って、いい雰囲気になってしまっているな……。
ぽふっ。
いつの間にか俺たちは天蓋付きベッドに腰かけている……シャリムめ、中々なシチュをぶち込んでくる。
「シャヘル……」
シャリムが俺の首に両腕を回し、しな垂れながら耳元でささやいてくる……。
駄目だ、辛抱ならん!
…………。
この後、滅茶苦茶セックスをしました。
…………。
「で、どうしてこうなった??」
ン十回目の賢者タイム到来でようやく我に返った俺。
きっと、焼肉でいい感じに元気になっちゃったんだろうね。うん。きっとそのせい。
「良いんじゃないの?美男と美女、一室に二人だけなら自然な流れってものでしょ?」
どうやら、シャリムさんはヨシさんの作品だけじゃなくて、なんとかクイーン的なものもお好みのようです。
ええい、それよりもだ!
「それよりも、転生とか新世界の説明をそろそろ求めるぞ!」
「ああ、そっちね!では、説明します!」
いつの間にか先生と生徒シチュになったようで、黒板を背にメガネをクイっと上げる仕草のシャリム先生。
「私は誕生から日が浅い女神です。ゆえに、存在エネルギーというものが、意外と希薄だったりします。更に、偶然観察していたシャヘルの巻添えを食らって地球世界から切り離されてしまいました」
おや?知らぬ間に俺の罪状増えてしまってたの?
「そこで、私は新世界を造って、そこから女神としての存在エネルギーを受け取らなければいけません」
「エネルギーが無くても世界って造れるの?」
「そこは問題なしです。世界を造れるのは創造神様ただお一人。私たちは創造神様が造られた世界の種に方向性を与えるだけ……そう、こうしてね」
シャリムは虚空に向かって手を伸ばすと一粒の種を拾った。
そして、その種に向かって息を一吹き……種がぐんぐんと大きくなる!
「シャヘル、見なさい。これが世界です……あなたはこの世界に転生し、大いなる進化を世界に与え、私が私として存在できるよう、活気ある世界の創設に手を貸してください」
「……?活気ある世界とか言われてもな?っていうか、それこそ、女神パワーでどうにかならんの?っていうか、俺が転生しなくても済む感じにならないか?俺もここから世界を眺めて暮らしていきたいぞ」
シャリムといるこの不思議空間。なんとも快適で、転生とか、ちと勘弁なんですけど……。
「う~ん。そうですね。私としてもシャヘルとここでふしだらな生活を送るのも悪くないと思うのですが……それだと、当からず存在エネルギーが尽きてお互いに消え去ってしまうでしょうから……それよりは、あなたが度々転生して、世界を回してくれた方がお互いの存在エネルギーが増えると思います」
おおぅお? いま、度々っていったか?
俺だけ、この世界に単身赴任するのか??
「そうなりますかね。では、よろしくお願いしますね?アナタ?」
「オイコラ!マテ!俺は承知してねぇぞ!!!」
「では、最後に一つだけ、あなたが欲しいものを私の力で送り届けますので、強く念じてくださいね~!それでは、また後で!!大丈夫、神の世界では時間の概念は無いですから!再会は一瞬後です!」
知るか!!
良く分からん前置きで飛ばされるのは俺だぞ!!!
くっ。なんだか身体が種に吸い込まれていく……。
時間が無い、俺の欲しいもの、欲しいもの……なんだ?武器かスキルかデバッグモードか?なんだ?なんだぁぁぁ???