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第九話 股間すうっと無双

帝国暦 738年 春


 「やっぱり私が睨んだ通り、塔形式のダンジョンってところね!」

 「あ、ああ!そうだな!!」

 「そうよね!ダンジョンと言えば洞窟か塔だものね!!」


 必要以上に強がる兄妹。


 この異様な俺たちのテンション……原因はダンジョンへの入り方だった。


 このダンジョンってマップからは繋がってなかったんだよ。


 え?どうやって入ったかって?

 そんなの決まっているじゃないかっ!


 ダンジョン突入ってUIがあったんだよ。

 そこにパーティを組んでから「ダンジョン侵入」ってところを選べばよかったという……。

 知らんよね。そこまでゲームチックに俺らの人生を弄られてもさっ!


 もちろん、釈然としなかった俺は女神様()に食って掛かったさ。思いっきり!

 けどね。一言で返されちゃった。


 「私も知らなかったんだからっ!」


 あ、はい。って、感じだよね。そこまで言われちゃうとさ。


 結果、まぁ、そのあたりの文句は棚の上の上に放り投げることにして、こうやってダンジョン突入を果たしたというわけですな。


 「何とかダンジョンには入れたわけだけどさ。やっぱり何かしらのモンスターはPOPしてくるのかな?」

 「出て来るんじゃない?そのうちに……とりあえずは一本道で上に向かっているようだから、ここはゆっくりと上がっていきましょう」

 「へ~い!」


 かしょん、かっしょん。

 かしょん、かっしょん。

 かしょん、かっしょん。


 「ねぇ、シャヘル?」

 「なんでしょう駄女神様?」

 「その変な音がする鎧……脱いでもらえないかしら?」

 「な、なんだと!?俺が家の倉庫から失敬してきた「光の女神に祝福されたレザーアーマー」を脱げだと?」

 「脱ぎなさいよ。かっしょん。かっしょん。うるさいのよ。……それにこの世界に神はこの私しかいないんだから、その光の女神ってまがいもんよ?」

 「な……なんだ……と?」


 うん。なんとなくそんな気はしてた。

 だって、そんなにド級な能力してないもんね、この鎧……。

 だけどさ、これって一ヶ所だけ優れた性能が書いてあるんだよ?


*******

光の女神に祝福されたレザーアーマー:追加効果 / 凍結・寒さ 無効

*******


 ほら、こういった探索には有効でしょ?


 「結論から言うとだ……追加効果が素晴らしいので脱ぎたくない。耐えろ、妹よ」

 「え~っっ!脱がないのぉ……んじゃ……沈黙!」


 沈黙だと?


 (かしょん、かっしょん。)

 (かしょん、かっしょん。)

 (かしょん、かっしょん。)


 「(うわ~、気色悪っ!なんか音がしてるはずなのに、音がしない……って、俺も声出てねぇ~じゃねぇか!)」

 「あははは!!お兄様()ってば最高!なんか一生懸命口を動かしているけど、まったくしゃべれてない……ってか、声が出せないのね!あ~っはははは!」

 「(笑うんじゃね~!こっちは一生懸命にだな!……あ、おい!シャリム後ろ後ろ!)」

 「え?何言ってるの?お兄様()まったくわからないわよ?あ~はっははは!」

 「(いや、だから、志村後ろじゃなくて、シャリム後ろ!)」


 ええぃ!面倒だ!


 俺は槍を構えて、シャリムに後ろから近づいてきているゴーレム型モンスターに突撃をかます。

 全速力で走り込み、その勢いを落とすことなく突き!


 ドラグーンの能力があるからこそ可能になっている、一人ランスチャージ!


 ばっご~んっ!


 中々に良い音を立ててゴーレムが粉砕される。


 くくく。今日の聖竜騎士槍も絶好調だな。


 「もうぅ!びっくりしたじゃない!シャヘルったら声を出して教えてくれてもいいじゃないのっ!」

 「(……お前何言ってるの?沈黙させたの、シャリムさんじゃありませんかえ?)」

 「……沈黙は使えないスキルね。いいでしょう……解除!」

 「いや、使えないって、ひどくない?このくだりで無能扱いされた沈黙さんに謝れよ」

 「いやよ、だって……って、そうか。鎧だけに沈黙を使えば……沈黙!どうよ?」

 

 なにやら、ドヤっている駄女神様。

 まぁ、あの音は俺も耳障りだったので、成功してれば、俺も有難いことではあるのだが……。


 うろうろ。

 (かしょん、かっしょん。)

 うろうろ。

 (かしょん、かっしょん。)


 「お?成功のよう?」

 「うん。上手く行ったわね!流石私!」


 あ~、はいはい。


 「んじゃ、耳障りな音も消えたので、先に向かうぞ?」

 「そうね……いつぞやのダンジョンと同じく、ここでも倒したモンスターは煙のように消えちゃうみたいだし……」


 そうだね。これは全てのダンジョン共通の仕様なのかな?

 仕様……非常に便利な言葉です。

 サラリーマン時代はその御威光に開発スタッフ一同、大いに助かったものでした。


 「とりあえず、上にって……何これ?階段じゃなくて……リフト的なやつ?」

 「うん?どうなんだろうな。……パッと見た感じ床が浮くようには見えないけど……」


 ……あ、なんか嫌な予感。

 これって高所恐怖症な人が駄目なタイプの移動方式じゃないか?


 「まぁ、とりあえず上に乗ってみればいいんでしょ?って……う、うわぁぁ~っ!」


 びしゅ~んっ。


 小気味いい音を奏でて空を飛翔するシャリムさん。

 ざっと十五メートルぐらい?上方にある場所にひとっ飛びされた。


 やっぱり……。

 これ系の移動方式って苦手なんだよな……。


 「……シャヘ……ル……早く来……なさいよ!」


 そこそこの距離があるので、シャリムの声はとぎれとぎれに聞こえる。


 はぁ、覚悟を決めるか……。


 俺は恐る恐る、円形に光る床に乗る……。


 びしゅ~んっ。


 「うひっ!」


 これって逆バンジーってヤツ?知らんけど。

 凄い勢いで身体が上に引っ張られた……。


 「うひっ!……だって……お兄様()は高いところが苦手なの?竜の一族の癖に?」

 「……うるさいな、俺にも苦手なものはあるんだよ……色々と」

 「お~ほっほほ!それでは、お兄様が飛翔のスキルを取るのは夢の又夢ということですわね!」

 「……なんだ、その縦ロールお嬢様みたいな笑い方は……まぁ、いいんだよ。確かに俺は高いところは苦手だけど、飛行機は乗れるぞ。……さっきはお前に乗って空も翔けたしな。たぶん、こういうのが苦手でも俺の人生に問題は無い!」

 「無いといいわね?お兄様()?」


 やかましい。


 「けど、シャヘル?今の一回でこれだけの高さしか移動できていないのだから、単純計算でもあと百回以上はあるはずよ?この手の移動床は」

 「……ヤなことを言うな……」


 本当に嫌なことを言う妹ですこと。


 ごきゅんっ。

 ごきゅんっ。


 「お?またゴーレムみたいだぞ?今度はお前も働けよ?」

 「はいはい。……それじゃ、私が向かって右側、シャヘルが向かって左側をお願い」

 「へいへ~い!」


 お互いの持ち分を確認する。

 タイミングは……適当に合わせるか。


 シャリムが魔法を放つのに合わせて突っ込む。


 攻撃方法がワンパターンではあるけれど、正面からやって来る少数に対してはこの攻撃方法が一番効率が良い。


 ぴゅんっ。


 シャリムの指先から黒い光線が飛び出す。


 ぱりんっ!


 ゴーレムの胸にあるガラスのような球体に光線が当たっと見えた瞬間、ゴーレムは砂のように崩れてしまった。


 あ、そういうこと。


 さっきは力任せの倒し方でやってみましたが、このゴーレムを倒すにはよりスマートな方法があったようです。

 いや、ワンパンの相手にそういうことはあんまり考えないよね?前衛職ってさ。


 今度は胸の球体を俺も狙ってみる……って高さが三メートルほど?


 うん。やっぱりやめよう。


 一回目の倒し方と同じように、駆け込んだエネルギーを槍に乗せてゴーレムを突く!


 ばっご~んっ!


 砂のようにサラサラと崩れ去ったゴーレムとは違い、こちらのゴーレムはけたたましい音と共に砕け散った。

 うむ。脳筋職としてはこちらの方がしっくりくるな。


 「……風情は無いけど、その方がシャヘルには合っているわよね」

 「うるさいな。モンスターを倒すのに風情なんか必要ないだろ?ようは効率だろ?」

 「うわっ!でたっ!効率厨()……って、クリエイターサイドが効率厨ってどうなのよ?」

 「何を言うんだ?むかしから、クリエイターサイドであればあるほどに効率厨になっていくんだぞ?……これは聞いた話なんだが、神の領域のクリエイター達はどんなゲームをやっていても数式の塊にしか見えないので、いっそのことグラフィック自体が邪魔になって来るらしいぞ」

 「……それは、なんとも嫌な職業病ね。一ゲーオタとしてちょっと同情しちゃうわよ」


 日本のゲームクリエイターの皆さん!ここにおわす女神様は貴方のことを憐れんでくださっておりますよ!きっと、何かしらのご利益があるかも知れませんよ!


 「それはそれとして、さっきと同じパターンだと、ゴーレムを倒した先には移動床よね」


 あ、本当にヤなこと言う女神様だ。

 シャリムはにんまりしながら、目の前に床、丸く光った床を指さしながらそう言った。


 ……

 …………


 ゴーレムを倒すこと、都合二十回。

 その度に、股間をすぅっとさせる、あの嫌な感覚を味わいながら、俺達は着実に塔を登って行った。


 ……そして現れる大きな扉。しかもナイスな装飾付き!


 「「ボス部屋か(ね)!?」」


 にやりと笑う俺達。


 シャリムは純粋にボスという存在に対して、俺は次のステージではこの嫌な移動方法ではなくなるであろうという期待から……。


 「じゃ、行くわよ!シャヘルはボスの注意を引き付けて、私に魔法を使わせるように!」

 「へいへい。んで、もし、取り巻きがPOPするタイプのボスだったら、範囲魔法でそのあたりの処理は頼むぞ?」

 「了解よ!……でも、そんなに時間かからずに倒せるんじゃないの?……いつもみたいに」

 「……でしょうね!」


 そこは、この世界の最強種であり、本当の女神であるシャリムと半神である俺。

 まぁ、楽勝でしょうよ。

 けどそれは言いっ子無し!

 今はそれっぽい雰囲気を楽しもうではないかっ!


 「とりあえず、扉を開けるぞ!」

 「頼むわね!……空いたと同時にシャヘルは突っ込んでよ?」

 「へいへ~い!」


 ごごごごっ!


 滅茶苦茶にそれっぽいSEを鳴らしながら大扉が開かれる。


 ふっしゅ~っ!


 「ここまでニンゲン共が攻めてこようとは!……だが、我の目の前にのこのことやってきたという不運を……」


 ああ、アンデット化した騎士って感じの敵なのね?

 デュラハンのユニークって感じかな?

 顔無し鎧で盾と剣を構えて全長が五メートルほど……。


 「あらよっと!」


 俺は打ち合せ通りに、ボスの注意を引き付けるべく、全力でチャージを盾に向かってぶちかます。


 づごぉ~んっ!


 お?

 流石はボス?

 一撃では沈まなかったね?


 ……だけど、盾を構えた左手側?

 半身が消し飛んでいるね。まぁ、良しの初撃と考えよう。


 「わ、我はこの程度で……ゎ」


 しゅ~んっ。


 がらんどうの鎧の中身をさらしているボス。

 その鎧の中の空間にシャリムの放った黒い球のような魔法が命中する。


 ……うわ~っ。

 なにこれ?重力魔法とか空間魔法とかそういうヤツ?


 黒い球がボスに当たったと見えた瞬間に、黒い球は不定形の靄のような姿に変え、デュラハンの残った半身を飲み込んで消えた。


*******

 永劫の刻を生きる聖騎士ウィリアムを倒した!

 EXP:xxxxxを獲得

 原罪の欠片αを手に入れた

*******


 「む?なんか良く分からんアイテムを手に入れたが?」

 「アイテム?私は特にそういうシステムメッセージは出てこなかったけど?」

 「あれ?そうなの?……なんか、原罪の欠片とか、思いっきりいわくがありそうなアイテムなんだけど……」

 「原罪、原罪ねぇ……経典の民に信奉されている神様の中には、その手の話が好きな神様がいたけれど……私は苦手よ?だって、生は無条件で喜ぶべきことだと思うからね。生けとし生けるものは須らく祝福されるべきだと私は考えるわよ?!」


 おお!なんか、久しぶりに女神様らしいオーラを放つシャリム様!


 「だって、私を崇め奉る者達が産まれた時から犯罪者とかって気持ち悪いじゃないの!」


 ……やっぱり、シャリムはシャリムだった模様で……。

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