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第八話 屋外調理無双

帝国暦 738年 春


 ぺちぺち。

 つんつん。

 ぺちぺち。


 「ハイ!そこ!気絶なんかしな~いっ!」


 むっ。

 俺は光になったはずでは……?


 シャリムにぺチぺチやられて意識を取り戻した俺はゆっくりと目を開ける……。


 つうか、ああいうことをするなら、事前に何かを言ってからやれってもんだよね。


 「お前の無茶には大概慣れてきたけどさ~。ちゃんと事前に言っとけよ……って、なにこの山!高っ!!」


 山って言っていいのだろうか?

 ついぞ、俺の記憶にはないレベルのバカ高い単独峰が目の前に鎮座している。

 資料画像やら映像やらで見て来た地球のどの山にも似ていない、まさに異様なお姿が目の前にある。


 ありがたや、ありがたや。


 思わず手を合わせてありがたがってしまう。エレニズム息づく由緒正しい日本人の俺である。


 「シャヘル……有難がるなら、目の前におわす、この光り輝く女神様を崇めなさい!まったく……」

 「やかましい。駄女神にどうして畏敬の念を抱かねばならんのだ。……と、俺の本音はおいといて、この山ってこんなのね……洞窟ダンジョンじゃなくて、山を登っていくタイプのダンジョンなのね」

 「……さらっと、失礼なことをブッ込んでくるわね……毎度、毎度。まぁ、良いでしょう。それよりも、まずは目の前のダンジョンよ!」

 「そうだな、目の前のダンジョンだよな!」


*******


 新しいダンジョンが解放されました。


*******


 よし、謎のシステムもダンジョン開放を認めたね。

 それではいざ!!


 「いざ!行くぞシャリム!!」

 「ええ!行きましょう!!」


 ……

 …………


 「いざ!行くぞシャリム!!」

 「ええ!行きましょう!!」


 ……

 …………


 「だから、行こうじゃないかと……」

 「ええ、行きたいのは私も同じ気持ちなんだけど……シャヘル?」

 「……ん?なんだ?」

 「……言いたくはないけれど……ダンジョンってどうやって入るの?」


 ……

 なんだよ……入り方がわからないのは俺だけじゃなかったんだね。


 「……わかりません」

 「ですよね~!さっきから馬鹿みたいに「行こう!」「行こう!」ってさ。何処に行くんですかぁ~って感じよね!」

 「うっせ、うっせ、うっせぇ!俺だけじゃないだろ!ダンジョンの入り方がわからないのは!!」

 「「いざ!行くぞシャリム!!」とかってカッコつけ120%で話し始めたのは私じゃありません~。オツムの足りない脳筋(笑)兄上からですぅ~」

 「あ……今カチンと来ちゃったよ。お兄様は。……まったく元をただせば、お袋を激怒させたどこかの駄女神のせいのような気がするんですけど、ここにいるのって!」

 「うわ~!居直り強盗ここにありですか?開き直り男爵ですか?かぁ~、だから童貞って面倒なんです。童貞オタ撲滅運動に賛成票を一票投じますぅ~!」

 「へ、へ~んっ!残念でした!俺はdぽうていじゃありません」

 「……言えてないわよ。童貞オタ兄様」


 ちっ。

 微妙に動揺して噛んじゃったじゃねぇーかよ。

 いいんだよ。前の職場はそういうヤツラの吹き溜まりだったんだから……。

 数名の妻帯者は別にしてな……。


 「ん。んんっ。……まぁ、今は言い合いは止そうではないか、我が最愛の妹よ」

 「……まぁ、良いでしょう。不毛だものね……で、どうするの?この山って、ありえないぐらいの角度で聳え立つ山よ?上の方なんか殆ど塔じゃない……」

 「お!そうか塔!……ならばどこかに入り口があるってパターンじゃないか!?」

 「なるほどね……山と思わせておいて、塔形式のダンジョンだと……」


 目の前に洞窟とかがないから山を登っていくタイプかと思ったが、確かに雲の上の新エリア臭い場所へのアプローチと考えると、雲の上まで登らなきゃいけないんだもんな……シャリムが言うようにあの角度じゃ無理だわな。


 「そう言うことなら入り口がどこかにあるということかしらね?」

 「と思うんだよな……だが、その前に腹が減っていたことを思い出しちまったな……ダンジョン突入がお預けになった途端に空腹を思い出したぞ?」

 「あ!私も!……何だが知らないけれど、この山周辺の天気は良いみたいだから、ここで食事を作って一休みしてから入り口を探しましょう!」

 「そうだな~!賛成~!」


 確かに、この山の周辺だけが笑っちゃうくらいに天気が良い。

 二キロくらいかな?後ろを振り返れば、そこは見慣れた猛吹雪の世界……。

 うん。不思議世界は何でもありだな。

 こんなゲームを出した日にゃ、時間を持て余せたクレーム厨からのお問い合わせがウザイことになるだろうな……。

 まぁ、そのあたりを楽にこなすためにフィールドを区切っちゃうのが正解だとは思うんだよね。

 シームレスの一枚MAPは理想だけれど、それこそ異次元VRMMO()が実現化でもされないと不可能な領域だよな。


 「ほら。テーブルと食器は私が作ったから、早く料理に取り掛かってよ!」


 ……女神様は今日も理不尽。ほんの数瞬の物思いも俺には許されていないのかよ。

 ……いいんだ、慣れてるから。


 「はいよ……。んじゃ、手っ取り早く肉を焼いて……ナンと野菜カレーっぽいのを付けるか」

 「お!カレーはスバラシス!」


 カレーはお子様からお年寄りに女神様までが大好きな献立のようですね。


 ならば……ぬぅぅううっ、ほうぅっうっ!せいやっ!


 気合で厨房を土魔法で作り出す。


 竈の位置と高さ、火力を生み出す洗練された造形、そして俺の背丈に合わせた調理台と手になじむ数々の調理器具。

 やはり、この辺りは自分の土魔法で作り出さないと何故かしっくりと来ないな……。

 独身男子の調理器具マニアはこうして生まれるのだろうな。


 まずは火の準備だ。

 イベントリには薪ではなく、ちゃんと炭を常備しているので、それほど準備には時間がかからない。

 更には、ドラグーン様はブレス一発で着火、燃焼が行えるからな、生前のキャンプの火おこし的イベントは丸々省略できるのが素晴らしい。


 イベントリの中から調理に使う素材を取り出そう。

 ベジカレー用野菜セットx4に……っと、その前に肉だな。時間がかかるのはこっちだった。

 手持ちの肉は、峡谷牛、峡谷山羊、大陸産の家畜肉(豚・牛・鳥)……やはり、時間を掛けたくないことを考えると鳥だな。


 手抜きラノベなどでは、牛的な生物を焼いたりするものだが、はっきり言ってそいつらはズブの素人だな。

 一度、テキサスのピットマスター達に地獄の千本スモークを受けてくれば良い。

 牛を焼くなど、その繊維質と脂肪の量を考えれば、ちゃちゃっとなぞ調理できるものではない。牛の塊肉など、平気で十数時間かかるのが当たり前の食材だ。

 そんなことも知らないやつらは、精々薄切り肉を汁に漬けてのなんちゃってコリアンバーベキューでお茶を濁しているのがお似合いだな。


 ふんっ、しかしだ。簡単に焼肉と言ったとて実は奥が深いのだぞ?

 肉の処理という、まさに答えが見当たらない人類最大の命題に挑まなければいけないわけだからな。

 個体差を感じ、部位を見極め、的確な刃捌きを見せなければいけない……食の何たるかを見つめたこともない素人に手が出せる分野ではない!


 「まだ~?また、変なトリップしてるんじゃないの?私はお腹が空いたんですけど~!」


 ふっ。

 今日も外野が囀っているな。

 ここはピット。俺こそがピットマスター。ゆえにここは俺の城だな!


 「いいから、いつもみたいにちゃっちゃっとやってよ!」

 「あ、はい」


 なんか、設定疲れしたのでいつものように楽に調理しよう。


 炭に火を点ける!


 ごしゅうぅっ~。


 マジ、ブレス万能だよな。


 さて、火が付いたので、俺的カレー用の深パンと肉を焼く石板を取り出す。

 外で肉はどんな時でもこの溶岩石の石板が楽だからな……。

 そういえば、俺も土魔法のレベルが上がればBBQ用のオーブンとかが作れるようになるのかな~。そうすれば、いつでもスモークできるというのに。


 じゅ~。


 タレを一滴、石板に落として温度を見る。

 よし準備は出来た……。

 カレーの鍋は……よし、いい感じの煮込まれ具合だ……。


 ん?いつの間にって?


 そんなの、家の厨房であらかじめ作っておいた一昼夜掛けて煮込んだフォンドボーっぽい何かに、カレー用ミックススパイスを溶かしこんで、野菜セットをぶち込んだだけだからな。


 ……だって、屋外で一から調理とかって、ただの馬鹿だよね。

 イベントリって便利機能があるんだから、そんなの家の厨房でやれるだけの下準備をしとけばいいのにね。

 ちなみに、俺のイベントリには数年は余裕で食い繋げられるレベルで様々なものが詰め込まれている。


 それなら、料理をあらかじめ作っておけって?

 俺にもそんなことを考えていた時期がありました!


 このイベントリってさ、便利は便利であるんだよね。しまい込んだものは変成しないし……簡単に言うと、腐敗とかが起こらない。まぁ、腐敗が起こらないということは発酵とかも起こらないんだよな。ゆえに熟成とかも不可能だ。


 微生物の反応が起きない。だけど、生物が入れられない……って、わけじゃないんだよな。

 生きたアリとか入れることは出来たし……。

 ただ、戦っているモンスターとか大型生物は無理だったし、それらの部位的な一部分だけっての無理だった。

 よくはわからないけど、多分、人間が「出し入れ」できる概念というのが重要な気がする。

 気がするだけだ……。


 考えをもとに戻そう。

 出来上がりの料理を入れる……皿に盛り付けたものは駄目だった。

 イベントリでは上下とか、そのあたりの概念が存在しないようだな。

 取り出した瞬間に料理が地面に落下してしまう……。


 密閉した何かに入れる……これは成功した。

 だが、ジップ的でロック的な物が無い世界。一々何かしらの魔法容器を作って、一々密閉、一々開閉作業……だるいわ。

 精々、塩やら胡椒やらを入れた袋の取り扱いが限界だ。


 そして、熱……これが時間の経過とともに冷める。

 これについては良く分からんが、推論としてはこうだ。

 熱ってあれだろ?いわゆる物体が内包してる運動のエネルギ-的なやつだろ?

 動いてるから熱が出る。つまり、イベントリの中では動けないから熱が出ない。よって、保温のためのエネルギーも出ない。

 ん?だったら、冷えるか凍るんじゃね?って?

 そんなん!知るか!生き物も入るんだからなんかそのあたりの絡繰りがあるんだろ?

 俺は物理学者じゃねー!


 「シャヘルまだ~?!」


 まぁ、良いさ。

 今は調理中。


 「今、出来た~、先にカレーを装いなさい」

 「はいは~い!本当にカレーって偉大よね。あらかじめルーを作っておけば失敗しないし!」


 そう、何事もあらかじめの準備が大事なのです。


 ん?肉は?だと?


 そんなものは一瞬だ!

 なぜなら、調味料を10時間ほどまぶした薄切り肉がイベントリの中でスタンバイ中だからな!


 「シャヘル?肉とカレーはわかったけどナンは?」


 あ!忘れてた……。

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