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三人目

 猛暑。八月半ばの太陽は何もかも焦がしてしまうように暑さを生み出す。

 夏は観葉植物もバテるので切り花も取り扱う。主に仏花だ。


「アスターにグラジオラス、ヒャクニチソウ」


 市場で仕入れて店で水揚げ、仕分けをするだけで午前は終わる。花の処理は少し面倒だ。


 お盆シーズンということで仏花とともにおまけで買われるよう小さなサボテンを店の入り口に置く。チープな手書きポップとサボテンの可愛らしさから皆一度は手にとり、レジに持っていこうとする。


 そんな中、一人の小学生くらいの男の子が一人で入店してきた。珍しい。


「いらっしゃいませ」


 何か買いに来たのだろうか。それとも少し涼みに来たのだろうか。キョロキョロと辺りを見渡す他何もしないので少し声をかけてみた。


「ボク? 何か探してるのかな? 教えてくれたら選んであげるよ」


「⋯⋯花束。花束はありませんか?」


 花束、というと仏花だろうか? おつかいで花を買いに来たのだろうか。


「えっと、お墓にお供えする花かな? それなら⋯⋯」


「お母さんは死んでない!」


 突然大きな声で彼が叫ぶ。どうやらお見舞いの花だったようだ。


「⋯⋯じゃあ、お見舞いの花でいいのかな?」


 そう尋ねると、彼はコクコクと首を振った。目には涙を浮かべている。


「じゃあいくらお金持ってる? 私がいい感じのを作ってあげよう」


「⋯⋯500円」


 500円か。アレンジメントにするにしても予算が足りない。けれど今にも泣きだしそうな少年をこのまま店から追い出すわけにもいかない。


「⋯⋯わかった。じゃあ少し待っててくれる? 作ってくるね」


 丸椅子を出して少年を座らせる。椅子が少し高いのか床に足がついていなかった。




「さて、500円か」


 オアシスに水を吸水させ、花材を並べる。

 ガーベラ、カスミソウ。そしてグリーンを使った淡い色合いのアレンジメントにするか。それなら平凡に、かつ無難にまとまるだろう。


 早速ピンク色のガーベラにハサミを入れる。⋯⋯処分品のアジアンタムも剪定ついでに使っておこう。




 数十分の思考と推敲の末、なんたか満足いくものができた。


「これならギリギリ⋯⋯」


 500円という制約があるにしては頑張った方だろう。若干赤字ではあるが今は収入も多いので特別ということで。


「はいどうぞ。これでどうかな?」


 アレンジメントを少年に見せると、しばらく見つめた後満足したのかにっこりと微笑んだ。


「ありがとう! これでお母さんも元気になるはず!」


 そう言い残した後、風のように店を出ていった。暑いのによく走れるものだ。



「お見舞いか⋯⋯」


 そういえば、母のお見舞いになんて数えるほどしかいっていない気がする。もっとも、癌が発見されたときにはもうステージ4だったわけだが。


「⋯⋯元気になりますように」


 心の中で、ささやかながら顔も知らない彼の母親の回復を祈った。

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