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天狐さんの優しさ巡り  作者: ユメカタール
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起源の章 因果

 ……目の前には、柔らかな光が降り注ぎ色とりどりの花々が一面に咲く幻想的な景色が広がっている……


 まるで雲の上に横たわっている様な不思議な感覚の中、身体を起こし注意深く辺りを見回す玉藻。ふと自分の手を見ると、身体の中から光で照らしているかの様に輝いている。


 (なんと神々しく心地のよい所なのでしょう…一体此処は…)


  心が洗われる様な美しい景色にうっとりしていると、なにやら天の方から声が聞こえてきた。


 「あぁ、此方にいらっしゃったのですね!」


 顔を上げ声のする方向に目を向けると、羽衣をまとった女性がこちらに向かってゆっくりと降りてくるではないか。

 玉藻が呆気に取られていると、優しそうな笑みを浮かべた清楚な女性が目の前に降り立たち、(ひざま)いた。


 「玉藻様でいらっしゃいますね。私は霊力の癒しを生業(なりわい)とする光の精で名を日向(ひなた)と申します。此度(こたび)は白蓮様より命を受け貴女のところ参りました、よろしくお願い致します。早速ですが、この場でよろしいのでどうか仰向けになって瞳を閉じて頂けませぬか」


 状況が飲み込めた玉藻はコクリと頷いて、言われる通りにその場で身体を倒して仰向けになった。


 日向は正座をして、玉藻の胸のあたりに両手で印を結んだ。


 「この者が世に生を受けし時より今この時迄に生じた、心の傷 身体の傷の源を(つまび)らかに示し給へ」


 すると、玉藻が苦悶の表情を浮かべ始め、身体のあちこちから大小様々な黒いモヤの様な玉が浮き出てきた。


 (これほどの負の因果が現れるとは…今までに想像を絶する様な辛い目にあってきたに違いない。早々に浄化して因果を断ち切ってしまわねば…)


 日向は深呼吸をして気を整えると、玉藻の顔を見た。


 「今から貴女を苦しめてきた業の浄化をさせて頂きます、よろしいですか?」


 玉藻は、不安な気持ちを掻き消す様にニッコリ微笑んだ。


 「私のことなら大丈夫です。何卒よろしくお願い致します」


 真剣な眼差しで頷き、浮き上がってきた玉を一つ一つ両手でそっと包み込む日向。


 「オン、アビラウンケンソワカ!大日如来の名の下に、この者の悪しき因果を照らし浄化し給へ」


 すると一つ目の玉の黒いモヤが晴れ、中で幼き日の玉藻がひとりぼっちで泣いてる姿が現れた。

 

 …私は悪い事なんかしたくない!でも病気の母様のお薬を買うお金を稼がなければ父様に叱られる…


 そして次々と玉の中が明かされて行った。


 …妲己(だっき)よ、お前の母親は病弱で寝たきりで、双子の妹の美尾は生まれつき口が利けぬ。お前が人間をたぶらかして、金や食べ物を持ってこなかったらワシの酒代や母様の薬代が稼げないだろうが…


 ―妲己を守ろうと妹の美尾が両手を広げて父親の前に立ち塞がっている。

…美尾、いいのよ、あなたまで父様に酷い目に遭わされるわ、私は慣れているからあなたは母様をみてあげて…

美尾は父親に突き飛ばされた―


 ―ある日のこと、妲己が人間から金品を奪って帰って来ると、美尾の姿が見当たらない。慌てて探しに行くと大勢の人間が何かを取り囲んで騒いでいた。人間に化け人混みをかき分けてゆくと、そこには息絶え絶えの美尾が横たわっていた。妲己は怒りに身を任せその場にいた人間全員を喰い殺した―


 ―妲己はぼろぼろになった美尾を抱きかかえて泣き叫んだ―

…ごめんね!美尾!姉ちゃんの稼ぎが少ないから手伝ってくれようとしたんだね!私の様な力も無いのに無理させちゃったね、姉ちゃんを許しておくれ…

 

 ―自害した母親の(むくろ)の側、恐怖に震え上がっている父親の前で、強い妖気を放ちながら立ち塞がった妲己―

 …父様、何もかもあなたのせいよ!あなたがしてきた事の報いを受けるがよい、死ね!…

 ―妲己は父親を八つ裂きにした。その時尻尾の数は九本に変化していた―

  

 全ての玉が因果を解放し終えると、大きな光に包み込まれ無垢な透き通った玉に変化して玉藻の身体の中に戻って行った。


 (この方は本来は優しい方なのに、妹さんの死がきっかけで九尾の狐に変化してしまい辛い道を歩んで来たのですね)


 玉藻に目をやると瞳から涙が溢れ出していた。


 日向は着物の袖で玉藻の涙を拭った。


「玉藻様、浄化は終わりました。具合はいかがですか?」


 玉藻は身体を起こし立ち上がって日向に深々と頭を下げた。


 「ありがとうございます!こんなにも気持ちが晴れ晴れとしたのは生まれて初めてです」


 日向も嬉しそうに微笑み


 「こちらこそお役に立てて嬉しゅう御座います」


 と言った後、玉藻の額の前で印を結んだ。


「それでは、白蓮様もお待ちでしょうから元の世界へお戻り下さい」


 日向は名残惜しそうに手を振った。


 (ありがとう…)


 玉藻は心地よい気持ちの中意識が薄れて行った。

 

 



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