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Episode93/未曾有の大惨事

(130.)

 私は朝起きると、学校を休むため連絡を入れた。

 こんな緊急事態だ。学校など行ってはいられない。

 学校側には風邪を引いたと連絡を入れ、両親には学校へ行くフリをするため制服には着替えている。


「おはよう、母さん、父さん」

「おう、おはよう。近頃物騒だから豊花も気を付けるんだぞ」


 父親はテレビを見ながら不思議な返事をする。

 疑問に思いながらテレビを見ると、そこにはもろに魔女に関するニュースが流れていた。


『謎の少女に、少なくとも200名の警察官が殺害されており』


 危うく飯を噴き出しそうになった。

 もうそんなに犠牲者が出てるの!?


『少女は近場にいたインタビュアーに対してこのような発言をしております』


 テレビの映像が切り替わり、羽咲の姿が映し出される。


『安心してください。私はまだあなた方は殺さないから。むしろ全国に伝えてくださいね? ええ伝えてください。今から私は数日で、まずは神奈川県内の警察関係者を全員殺処分しますええします。次は国です。この国は、これから私たちが支配する独裁国家に変わりますから。ええ変わります』


 その発言に、緊張しながらインタビューをつづけている。


『いくら異能力者でも、それは不可能じゃないでしょうか? 日本にいる警察官の数は膨大ですし、警察側も相応の装備を』

『私は異能力者じゃないと言いませんでしたか言いませんでしたっけ? 私は精霊操術師です。私を倒したければ核ミサイルでしたか? それでも用意したらどうでしょう。まあ、その程度で私を倒せるなんて甘い考えは捨ててほしいのですが』


『……わかりました。インタビューありがとうございました』


『最後に言わせてください。全国民に告げます。今日を以て、日本は私たちが支配する国となりますええなりますとも! 私が法律です。私に逆らわなければ、なにをしても許しましょう。ですからお好きに暴れ』


 と、画面がニュースキャスターに戻り、映像は途端に切られてしまった。


『このような異能力者が現れるなんて、未だかつてありませんでしたよね』


 異能力者専門家と文字で紹介されたおじさんが口を開く。


『これでは異能力者を隔離したほうが世の中の為かもしれないよね。こんな大惨事を引き起こしておいて平然としている。頭がおかしいことの証左ですよ』


「異能力者全員をいっしょくたにして! この専門家頭おかしいんじゃないの!?」


 母親が切れてテレビを消した。


「まずいことになったな……豊花はどう思ってるんだ?」


 父親にそう問われる。


「まず最初に誤解を解きたいんだけどさ、彼女が言うとおり、彼女は異能力者じゃなくて精霊操術師とかいう魔女なんだ」

「魔女ぉ?」


 両親共に怪訝な表情を浮かべる。


 居心地が悪くなり、少し早いけど行ってきます。と家を飛び出した。







(131.)

 愛のある我が家に到着すると、皆が皆、神妙な顔持ちで待機していた。

 鏡子は誰かの視線を借りて私が来たのだとわかった瞬間、こちらに駆け寄ってきた。


 なんだろう?

 原因はわからないけど、どうやらなつかれてしまったようだ。


「既に被害は甚大です。マリアの手により神奈川県警が燃やされました。消火活動を行っているようですが、通常の炎と異なりなかなか鎮火できないそうですよ」


 それだけではありません、と沙鳥はつづけた。


「セレナと羽咲は街中をパトロールしている警察官を片っ端から殺害しております。このままでは数日足らずで街の警察機関は機能しなくなるでしょう」


 これまでもさまざまな問題と直面してきた。


 裕璃が発狂し人を殺してGCTOに加わり、挙げ句教育部併設異能力者研究所に囚われそれを救助する為に動いた事もある。だがその問題の最初の原因は、金沢が裕璃を裏切り強姦したことから始まった出来事だ。動機がきちんとしている。


 金沢の姉が真実の愛なる組織を立ち上げ復讐しようとした出来事もあった。しかしそれも、弟が殺害されたわかりやすい怨恨が動機だ。


 異能力の世界の起こした事件も、狙っている対象は異能力者保護団体関係と暴力団関係のみと、ある意味一番今回の大惨事に近い動機だったが、役者不足であっという間に沙鳥にほふられてしまった。

 弱かったため手のつけようがあったのだ。


 それと比べて、今回はなんなんだ?


 未曾有の大事件に発展してしまっている。


 いまだかつて警察相手に何百と殺し敵に回しておきながら、平然と表を闊歩している人間ーーそれもたった三名でそんな出来事を行うなんて事、歴史的に見てもそうそうない。

 いや、あり得ないだろう。

 動機だって国家転覆以上のものだ。


 日本を支配し?


 新たな法を制定し?


 世界に対して戦争を仕掛け?


 世界を支配する?


 普通に考えたらできるわけがない。

 しかし……昨日の光景を見たら、可能かもしれないと思ってしまう自分がいる。


「そこで鏡子さん。疲れるかもしれませんが、三人の居場所を特定して、我々に映像を見せてください。その後、ルーナエアウラさんにセレナさんを退治してもらい、澄さんにはまずは一番延焼が怖いマリアさんの討伐に向かってもらいます」

「了解した」

「……わかりました……」


 鏡子は再び私の手を握る。

 なになぜなんなの?

 手を握っていないと異能力が発動できないの?

 ……いや、普通に考えたらそんなわけないか。


「……まずは……羽咲さんを……見つけました……」


 映像がこちらに送られてくる。

 どうやら羽咲を撮影して動画サイトにアップしようなどと考えている人間のようだ。マンションの屋上から急いでスマホを取りだし撮影している。


 羽咲の前にパトカーが数台現れる。

 羽咲はなにかを呟いたあと、手を前に翳す。

 すると、すべてのパトカーが一瞬のうちに凍らされていき、バラバラにされてしまった。中身ごと、平然と。


「……他を探します……」

「羽咲の恐ろしさはこんなレベルじゃない。瑠奈ならわかるでしょ?」


 朱音は瑠奈に同意を求めた。

 瑠奈はそれに対してすぐに頷く。


「羽咲はまだ本気を出していないよ。だって、精霊を召喚していないし、同一化を一度もしていない。羽咲が本気を出せば、半径100kmは軽く凍土にできる。でもそれをしないのは、本気でこの国を支配したいからだと思う」


 なんて恐ろしい。

 羽咲の機嫌ひとつで、日本が終わってしまう可能性すら秘めている。

 そんな恐ろしい相手と、今から澄は戦わなくてはいかないのだ。


「……あ! ……マリアさんは……多摩警察を燃やしている真っ只中です……」


 映像が頭に流れ込む。


『ひゃっはー! 燃えろ燃えろ! 熱くなれ熱くなれ! テメーらはこれから単なるゴミクズになるんだからよー!』

『ひぃ!』


 中から警察官が数名逃げようとするが、マリアがパチンッと指を鳴らした瞬間、その警察官や刑事らが一瞬にして炎上し燃えかすへと変貌した。

 その場には、焼け焦げた肉だけが燃えながら残された。

 なんて酷い……(むご)すぎる!


「澄さん、今すぐ現場に直行してマリアさんを殺してください! 遠慮はいりません。犠牲者をひとりでも出さない為にも早く!」

「あいわかった。行くとしよう」


 澄は返事すると同時に、ベランダから飛び出し、屋根を飛び移りながら現場へと急行した。


「残るはセレナですが……」

「…………見当たりません……あっ、いました!」


 またもや映像と音声に視界が切り替わる。

 この異能力、索敵能力としては最強レベルに近いのではないだろうか?


 セレナは羽咲やマリアとは異なり、一般市民まで巻き込んで切り裂いていた。

 年齢は16歳くらいだろうか。服装は朱音の言うとおり左右非対象のオーバーニーソックスを着用しており、ミニスカートと似合っている。

 可愛らしい外見だがーー。


『ほらほらー、早くしないとー、肉塊にー、なっちゃうぞー?』

『や、やめてくれ! お、俺がなにしたっていうんだげぼっ!?』


 セレナに圧縮された風の刃をぶつけられ、大量の血が辺りに飛び散り首だけ吹き飛ぶ。

 やっていることは、羽咲やマリアと変わらない外道そのものでしかない。


『いやー!』『やめろ!』『誰か助けて!』


 逃げ惑う人々、それに対して舌なめずりしながら、セレナは追いかけ回す。

 明らかに遊んでいる。


『はい、残念でしたーべろべろべろ』


 追い付かれた男性は容赦なく首を斬首された。

 その生首の髪を片手で握り締め、抱えたまま腰が抜けて立てないでいる女性に立ちはだかる。


『オレシンジャッタヨー、オレドーテーナンダ、ソレガムネンデサー、ジョウブツスルマエニー、チューシテクレナイ? だってさー! けらけらけら!』


 女性は座り込み、失禁し呆然としたまま動けないでいる。

 男性が不細工な成りをしているからといって、勝手に童貞と決めつけ死人にさえ煽っている!


『キスしてあげたら助けてあげるよ?』

『あ、あああ……』


 女性はガタガタ震えながら生首を手にする。

 脂汗を顔中に垂れ流しながら、女性は目を瞑り生首の唇に接吻した。


『合格ー! 報酬はー斬首ッ!』

『えーーかっ!?』


 女性の首が跳ねられ、ゴミのように路上に放り捨てられた。

 それを邪魔に感じたのか車がクラクションを鳴らす。投げ出されたそれが何なのかわかっていない様子だ。


『うるさいなー。ざーんしゅ、いや、斬首かなー?』


 手を真上から真下に勢いよく降り下ろし、後部座席と運転席を真っ二つに切り分けた。そのままフロントガラスをぶち破り、中身にいたおじさんの首を切り落とした。


『生首コレクションがー増えて困っちゃうなー』


 切り落とした幾人もの生首を、他人の家の塀に立てて並べていく。

 それを見て満足そうに頷いた。


『あ、そこで覗いているやつー気づいてないと思ったー?』


 セレナはこちらを向く。

 慌てて視点保持者は逃げようとするが、同じように首を風刃ではね飛ばされた。

 最後に見た光景は、首から上がない自身の身体だったーー。


「もういい! 映像を切ってください! すぐにルーナエアウラさんに連絡します。場所は湘南海岸の近くーー」


 沙鳥は怒りと焦りからか、手を震わせながらスマホを手に取る。

 ルーナエアウラさんに伝えるのだろう。


「……うう……」


 鏡子は気分が悪くなったのか、吐きそうなほど真っ青な顔色をしている。

 そのままこちらに身を預けた。それをやさしく抱き止める。


 ……有り得ない。

 前代未聞の大惨事じゃないか!


 これがもし、異能力者のせいだと世間に誤解されたら、異能力者というだけで世界中からバッシングを受けることになる。


 なんてことをしてくれたんだ……。


 ふと朱音を見ると、なぜか涙を流していた。


「朱音……?」

「ぼくのせいだ。全部ぼくのせいなんだ。異世界なんてつくらなければよかった。異世界を利用しようとしなければよかった。裕璃を異世界に連れていくなんて提案しなければよかった。裕璃をどうにか逃がして、ぼくひとりの命の犠牲で済ませればよかった……こんな惨事になるなんて思いもよらなかった……全部、全部全部全部! ぼくのせいだ!」


 朱音は床に崩れ落ち、見たこともないくらい大泣きをはじめた。


「朱音さんの責任だけではありません」

「ええ、そうよ。異世界を利用して覚醒剤を密造するって提案をしたのも私たちだし、その利益も私たちは享受していたのよ?」


 沙鳥と舞香が朱音を慰める。

 たしかに、異世界と現世界を行き来する頻度が増えたのは、覚醒剤を異世界で密造しているからだろう。

 私も朱音だけの責任だとは思えない。


「そうだよ、朱音。朱音がいなかったら、私やルーナエアウラの奴なんかも存在できなかったんだよ? 朱音だけがカルマを背負い込む必要全然ないって!」


 瑠奈はむしろ、朱音には感謝していると告げた。


朱音は「みんな、ありがとう……」と言い、涙を袖で拭う。顔を洗ってくると洗面所に向かった。


「問題は、これらすべてを解決してからのことですね。今までだって、一部の過激派たちは異能力者は死ぬまで隔離しろだなんて言う人らもいたくらいですし、今回の出来事も端から見れば異能力者によるものとしか映りません」


 それは私もずっと考えていた。

 危害を加えない異能力者まで同列に扱われることになるのではないかと。


 例えば私なんかは最早犯罪者なのだし、最悪バッシングを受けても致し方ない。


 でもーー瑠衣や結弦など、犯罪とは無縁な異能力者の身まで危機に曝されるのは間違っている。


「……ルーナエアウラさんが……セレナさんと戦っています……」

「見せてください」


 沙鳥は鏡子に頼み、映像を皆に見せた。

 ルーナエアウラさんの視点だ。

 おそらく、鏡子が朱音に触れて、そこからルーナエアウラに触れたことにより視点を確保できたのだろう。


『今すぐ蛮行をやめろ、ゲス野郎!』


 ルーナエアウラさんは怒っていた。同じアリシュエール帝国に従事する精霊操術師として、断じて許しがたい行為なのかもしれない。


『あららー、ルーナエアウラちゃんじゃーん? まえまえから私の序列があんたより下って腑に落ちなかったんだよねー。本気で行くよー?』

『一瞬で終わらせてやる!』


 二人は同時に口を開き詠唱を開始した。


(かぜ)大精霊(だいせいれい)()(まね)く 夜明け(よあけ)()いて 浄化(じょうか)大気(たいき) (かぜ)(すべ)てを()べる(トキ) 世界(セカイ)(みつる) やさしい(ひかり) シルフ』


大気(たいき)()べよ (おお)いなる(ちから)よ (われ)()びかけに(こた)えよ! ジン!』


 二人は精霊を隣に召喚する。


 ルーナエアウラさんの隣には、女性形のシルフが。

 セレナの隣には、頑強そうな緑の肌を晒す男性形の精霊ジンが。

 同時に現れたのである。


『『同一化!』』


 二人は一斉に唱えると、精霊と融合し姿を変える。ルーナエアウラさんはそこまで変化はしていないが、セレナは瞳も髪も衣服も緑に変わり、顔つきも別人のように変貌している。


 セレナは一気に間合いを詰め、ルーナエアウラさんの首めがけて手刀を振るう。

 しかし、それを見透かしていたかのように軽々と避けると、セレナの同体に手のひらを当て、建物の外壁まで吹き飛ばす。


『くそがァ!』


 すぐさまセレナは立ち上がると、上空を高速で飛び回り、かと思えば地面ギリギリを滑走するかのように風速30mはありそうな速度で移動する。直後、セレナが移動した色んな箇所から風刃が放たれルーナエアウラを襲う。


 しかし、ルーナエアウラさんはそれを見向きもせず、体表に纏う風の圧で風刃すべてを消し飛ばした。


『やっぱり効かねーかクソ!』


 セレナに纏っていた風が消えたかと思うと、片手に異様なほどの風圧が集まり小さな竜巻が巻き起こる。そのままルーナエアウラさんに駆け寄った。

 風の力すべてを片手に集めて、ルーナエアウラさんの風壁を突き破るつもりだというのが、私にもなんとなく理解できた。


『ーーそれを待っていたよ』


 ルーナエアウラさんは見越していたかのように、セレナの目の前から一瞬で消えた。


『!? どこ逃げやがった!』


 セレナは走るのをやめると周囲を見渡す。ルーナエアウラさんは人間の絶対的な死角に陣取っている。


『終わりだよ、人間のクズが』


 ルーナエアウラさんはセレナにも目視できない速さで瞬時に上空に飛んでいたのだ。そのまま落下する力と風の力を溜め込み、セレナを地面へと叩き潰す。


『ぐべぇ!?』


 汚ならしい声を吐き出しながら、セレナはそれを最後に動かなくなった。


 やはり序列の差はでかいらしい。

 同じ風の精霊操術師同士の戦いというのに、どちらも切り札を使っていたというのに、ルーナエアウラさんは無傷でセレナを文字通り叩き伏せたのである。


 ルーナエアウラさんは念のためきちんと死んでいるかを確かめると、どこかに電話をかける。あっ、沙鳥だ。


 映像が切り替わり愛のある我が家に戻ってきた。

 その場に行っているかのような錯覚に囚われ、実際に現場にいたんじゃないかと思い込んでしまっていた。

 やはり鏡子の異能力は強力だ。


「はい。はい、見ておりました。ご協力ありがとうございます。……羽咲とマリア? マリアには澄さんを行かせておりますので心配なさらないでください。ルーナエアウラさんはすぐに帰投してください。さすがにルーナエアウラさん自身理解していると思いますが、羽咲は次元が違います。大切な戦力を失うわけにはいきませんので、ルーナエアウラさんは素直に帰ってきてもらえると助かります。では、のちほど」


 ふぅー、と沙鳥はため息をついた。

 ようやく三人の狂人のうちひとりを対処できたのだから、少し安心したのだろう。

 しかし、三名の内では一番の弱者。

 残り二名はルーナエアウラさんより魔女序列の高い一位と二位。現在澄がマリアのいる現場に向かってはいるものの、それでもまだ羽咲という一番厄介な相手が残っているのだ。


「……澄さんが……マリアさんのもとに到着しました……映像を送りますか?」

「ええ、澄さんなら大丈夫だとは思いますが、一応お願いします」


 再び視界が暗転する。


 目の前には、背後に燃え盛る建物と、その前に佇み高笑いしている二十代の女性ーーマリアがいた。


『なんだ? テメーは警察関係者じゃねーな。だったら下がってろクソガキ』

『それはできぬ。お主を止めにきたのじゃからな』

『はぁ? ははっ! おまえみたいなガキが? 私を止めるだと? 笑わせてくれるじゃねーか。なら、ちっとは遊んでやるよ』


 マリアは手を左右に振るう。すると、火の玉が澄に向かって放たれた。澄は避けもせず平然とそれを受けきり、尚も無傷だ。


『へー。やるじゃん』


 マリアはパチンッと、まえに見たように指を鳴らす。

 澄の足元から火炎が立ち上ぼり一瞬で燃え上がったがーー。


『この程度か。まあ、たしかにわしがいなければ日本は支配できていたかもしれぬのう。この程度、地獄の業火に比べればまだまだ温いわい』


 炎を鎮火するなり、澄はマリアを挑発する。


『ほー、そっかそっか。なら全力で燃やし尽くしてやるよ! 塵ひとつ残さねーが、挑発してきたテメーが悪いんだからな?』マリアはそのままつづけた。『四大属性(よんだいぞくせい)支配(しはい)する()よ (いか)れ (いか)れ (いか)れ (いか)りを(あらわ)にせよ 地獄(じごく)業火(ごうか)よ (いま) 此処(ここ)降臨(こうりん)せよ! イフリート』


 マリアの隣に、炎でできた魔物のような物体が出現した。


『同一化ーー!』


 それとマリアは融合を果たし、全身に炎を纏うようになる。


『知ってるか? 神にもっとも近い属性を。地か? 風か? 水か? いいや違うね。火こそ神が人類に与えた最大の叡知だ』

『ふむ。神が与えた叡知をこのような蛮行に用いて、もっとも神を侮辱しているのはお主ではないかの?』

『ほざけ!』


 マリアは澄に駆け寄り、殴り付ける。同時に火炎が辺りに飛び散り、そこから火柱が立つ。澄はそれを避け、『血界』と一言唱えた。


 瞬間、周囲は真っ赤に染まり、血の臭いが立ち込める世界へと変貌した。


 いつの間にか、マリアを纏う炎が消え失せている。


『な、なにをしやがった!』

『いや、なに……わしの世界へと塗り替えただけじゃ』じゃから、と澄はマリアに直進する。『このわしの世界ではわしが神じゃ。よって、罰を下すのもわしじゃ』

『ごぼっ!』


 マリアは血へどを吐く。腹部に澄の拳が当たり貫通したからだ。


『死骸は残さぬーー血壊』


 すると、何度となく見た光景。

 周囲の赤赤とした色がマリアに集まり膨張し、マリアは膨らみに耐えきれず炸裂。辺りに血肉を撒き散らし勝敗は決した。


 視点が愛のある我が家の私に戻る。


 やはり澄の実力は現実離れしている。


「さて……最後は羽咲だけですね」

「ちょっといいかな?」


 朱音は顔を洗い終えたのか戻ってきた。


「なにか?」

「マリアやセレナとは違い、羽咲には澄でも苦戦するかもしれないんだ」

「どういうことでしょうか?」


 それは私も気になる。

 魔女序列二位と戦っても、あれほどまで余裕綽々だった澄が苦戦を強いられるかもしれないだって?


「澄の強さは肉対面だけじゃなく、あの血界にあるでしょ?」


 沙鳥は頷く。たしかに、通常でも力強いが、澄を異質足らしめているのは、あの血界からの血塊のコンボ技だ。


「実は羽咲も、周囲を自分の世界に塗り替える、澄と似た力を持っているんだーー」 


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