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Episode85╱異能力者?(1)

(121.)

 愛のある我が家に到着し二階に上がったとき、なにやら腐敗臭が漂っていることに気づいた。

 なんなんだこれ……まるで死体の血なまぐさい臭いのような……。


「澄さん! 食料は四階から上がってください! 下処理もまだでしょう!?」


 珍しく沙鳥は怒鳴っている。


「いや、なに。犯罪者をなるべく無傷で倒したからな。これをゆきと共に食べようと考えていたんじゃ」

「……ゴクリ」


 ひ、ひひひとの死骸を食べるだって?

 呆然としているなか、二人は三階へと上っていった。

 以前、ゆきが血液をちゅうちゅう吸っていたのは見かけたが、諸に死体を食べるだなんて聞いていない。


「……試しに見学してみますか?」

「………………え?」


 沙鳥に言われ、四階まで上がる。

 一番奥の部屋が空き放たれており、激臭が漂っている。もう吐きそうだ。

 室内をそーっと覗いてみるとーー人肉が切断され、滴る血をゆきがごきゅごきゅ飲んでいた。

 まるで牛肉や豚肉かのように捌いていき、それを焼き肉にして啄んでいた。

 胃液が逆流しそうになる。


 い、異能力者……いくら異能力者だからといって、同じ人間を食べるのなんておかしくないか!?

 私はいてもたってもいられなくなり、二人の間に立った。


「じ、人肉を食べるなんてどうかしている!」


 ピクリ、と澄は箸を止める。


「お主らは牛、豚、鶏と肉を食べているじゃろう? なぜ人だけは食べてはならんのだ」

「うっ……だってそれは……倫理的におかしいからだよ!」

「ふざけるな。わしは人肉が好物じゃ。ゆきは血を飲まなければ異能力を発露できぬ。なんら不思議なことではない。わしが吸血鬼やらと呼ばれている理由じゃな」


 頭がふらっとした。人殺しには耐性がついたつもりだったが、まさか人肉食を味方が行っているなんて思いもよらなかったのだ。


「豊花さん、人にはそれぞれプライバシーがあり知られたくないこともあるのです。食べられている肉は悪人です。ただ殺すだけでは処分が大変でしょう?」


 沙鳥に言われても、私の道徳観が許してはくれない……。

 まるで、異能力者が人間ーー一般市民を食材にしているという事実が……。


「そろそろ舞香さんたちが帰ってきますね」


 沙鳥に言われ、残虐なことをしている部屋から出ることになった。

 吸血鬼などと呼ばれている理由が、なんとなく理解できた気がした。

 知りたくなかった……あの無口でいたいけな少女が好んで人肉を頬張っている姿なんて、見たくはなかった。





 三階に降りると、通路で瑠奈が煙草を吸っている姿を見かけた。


「瑠奈さん、このマンションは室内外禁煙です」

「固いこと言わないでよ~。わたしはもうアラサーだよ」


 本当にアラサーなのか疑わしい低身長、美“少女”、中学生にも見える体躯でおっさんが吸うような厳つい煙草を飲む(吸う)姿は、正直言って違和感ありまくりだ。


「最近どこもかしこも禁煙禁煙うるさいんだよね~」

「副流煙は喫煙者以上に害を撒き散らします。私たちを肺癌にするつもりですか」

「そんなことよりアイツは帰ったよね? ルーナエアウラうんこ野郎は」


 うんこ野郎って……下品だなぁ……。

 いくらぼろ負けしたからと言って、なにもそこまで嫌悪しなくても……。


「アルコールなら吐かないかぎり周りに迷惑かけませんし、お酒に移行してみては?」

「ダメ、わたし下戸だから飲めない。酒こそ人類から消えるべき存在でしょ? 考えてもみてよ、アルコールはWHOでも非常に危険な薬物だって認定されてるんだよ? 覚醒剤は自分に対する害が高いと言われるのと同じように、アルコールは他人に対する害が非常に高いんだよ? ちょっとのお酒なら薬になるとかいうアンポンタンもいるけど、最近じゃ、酒は飲めば飲んだだけ身体害が出ることが明らかになって……」

「ですが、今度の慰安旅行では煙草はご法度、飲酒はOKですからね。このルールは守ってください」


 い、慰安旅行?

 こんな異能力犯罪組織にも慰安旅行なんてものが存在しているのか……。

 どちらにせよ、未成年の私はお酒も煙草とも無縁だ。


「それより結愛がなんかぶちギレてたよ?」

「はい? 結愛さんが?」


 沙鳥は疑問を抱きつつ、私を連れて二階に舞い戻った。





 そこには、目付きが鋭い結愛がソファーに座っていた。


「……沙鳥さん」

「さん付けはいいですよ。なんでしょうか、結愛さん」


 バンッ! と大きな音を立てながらテーブルに見覚えのある物を叩きつけた。

 そこにあるのは、覚醒剤の入ったパケ袋と、使用済みの注射器だった。


「はは……沙鳥が売り付けていたこれ……結弦がハマってたよ……今や単なる薬物中毒者に成り果てている! 結弦は口煩く私を邪険に扱うくらい依存していた……! どうして!? どうしてこんな悪魔のような薬を結弦に渡したの!?」結愛は泣き出した。「せっかく……せっかくまともに働けるようになれたのに……」


 結愛は想像以上に激怒しており、怒りながら涙を流している。


「こんなものがあるから! こんなものをあんたたちが広めていたから! 結弦は屑みたいな悪友に騙されて使ってしまった……! そのうえ売人は愛のある我が家産だから云々言っていた! どうして……」


 結愛は奥歯を噛みしめぶるぶると震えていた。


「需要と供給の問題です。そもそも、そのような悪友とは縁を切るべきだったのではないですか?」

「大元の責任でしょ!? 今すぐ販売をやめて!」

「それはできません」


 結愛と沙鳥は睨み合う。

 次から次へと小さな? 問題が重なり、私の頭はパニック状態に陥ってしまっていた。


「売人が薬物を使うのはご法度です。なぜだかわかりますか? 嘘つきになるんですよ」

「じゃあなぜ売るの!?」

「お金になるからですよ。私たちばかりを責めていますけどね? 私は欲しがる人間にしか販売しておりません。その悪友が売人かは知りませんが、そのとき断れば済む話だった。なのに結弦さんは欲しがった。買う人間がいなくなれば販売する人間も淘汰されていきます。結弦さんのように興味本意で試しておきながら、やめられなくなったなどというのは、責任転嫁の常套句です」

「この!」


 結愛が剣を取り出した時点で、私はナイフを構え沙鳥を守るように前に立ちはだかる。

 しかし……例の言葉が甦る。末端はみんな被害者しかいない。

 これも、まさしくそういう状況なのではないだろうか?



 そのときーー。



 玄関のドアが開き、舞香とありす、それに挟まるように中学三年ほどの少女が現れた。見た目を端的に表すなら薄幸の乙女。髪はボサボサで汚ならしいし、距離が離れていても、ツンッとする刺激臭が鼻まで漂ってくる。

 でも、よくよく見るとかわいい。髪は肩くらいまであったのだろうが、前髪はボサボサな上目元まで髪で隠れていてよくわからない。


 話どおり制服ーーリボンタイ、ボレロ、ジャンパースカートと、ミッションスクールを彷彿とさせている。その制服も、ハッキリ言って汚れていた。

 少女は瞳の焦点があっていない。やはり全盲なのだろう。


「……美山鏡子(みやまきょうこ)です……殺さないで……なんでもしますから……」


 沙鳥は仏頂面で、まず始めに。


「風呂に入ってきてください。体臭が兵器並みになっています。瑠奈さん……は危ないので」

「えー!? なんでさなんでさ!」


 瑠奈は猛抗議するが、沙鳥に「あなたが彼女の身体を綺麗にしたあと、心を汚す可能性が高いからです」とバッサリ言い切られてしまった。

 沙鳥は悩み、「豊花さん、貴女が身体を洗ってあげてください」


「へ? 私!?」


 なんたる不幸。いや、幸運か?

 いや、でも、この距離でも悪臭が酷いんですけど……。


「これからさき、もしかしたら豊花さんは鏡子さんの目となり行動する可能性があるのです。多少スキンシップでもしてあげるつもりでお願いします。……不純な行動は絶対にしないでくださいね?」

「はい……」


 なんだか大変な事になってきたぞ……。





 まずは鏡子の肩に手を触れ視界をお裾分けした。

 衣服を脱ぐのはひとりでできるのか、意外とスンナリ全裸へとなった。

 風呂場に入り、まずはシャワーを浴びさせる。

 ……恥ずかしい。いくら女の子に目を合わせ続けなければいけないとしても、どうしても胸や下腹部に目線が行きそうになる。


 髪は私が洗い、身体はなるべく自分自身で洗ってもらった。

 その後、お風呂に入浴。

 不思議な感覚だ。

 私は鏡子を見ているが、鏡子には私が見えず鏡子自身が見えているのだろう。


「……久しぶりのお風呂、気持ちいいです……」

「失礼な問いになるんだけどさ、何日くらい入ってなかったの?」

「……二ヶ月……いや……かも……」


 そりゃあんな臭いにもなるわ。女性ホルモンが多いのか、囚われていたわりには髭や脇毛などは見た限りなかった。


「……これから私……どうなるんですかね……?」

「えっと……」説明しづらい。「まず沙鳥の検査を受けて、ここで働いてもらうことになるかなと」


 少なくとも、前いた組織みたいに必要最低限の生活さえさせてもらえない生活よりは遥かにマシだと断言した。

 それを聞いて少し安心したのか、今までの苦労や悲しみからか、鏡子は涙をポツリポツリ流し始めた。


「……さつきちゃん……親友だと思っていたのに……どうして……どうして……」


 グスングスンと泣きはじめてしまい、どうすればいいのかあたふたする。


「大丈夫。ここにいるひとは皆異能力者だけって点は共通してるけど、基本的には上下関係はないから。ひとりの人間として扱ってもらえるよ。沙鳥も鏡子が裏切らないかぎり切り捨てたりはしないって」


 静かに抱き締め、震わせた身体を包み込む。

 もう臭いは取れて匂いになっている。これなら対面させて大丈夫だろう。


「そろそろ出るよ」

「……はい……」


 私の言葉により、鏡子もお風呂からゆっくり出た。

 私は鏡子の方を向きながら、進路方向を確認させる。

 なんだ。きちんと洗えばまさに美少女という出で立ちだ。ボサボサだった髪は真っ直ぐストレートになり、相変わらず目は隠したいのか瞼の下まで黒髪を伸ばしている。

 風呂場で顔を見たときは、別に隠さなくても、いや隠さないほうがかわいいじゃないか。とすら思ったのに。


「はい、タオル」

「……ありがとう……」


 と、彼女の全身を確かめているときに、ふと……あれ? と疑問が湧いた。裕璃のときもそうだ。

 かわいい女の子の全裸を見ているのにも関わらず、性的興奮を覚えない。

 これも女体化しつづけている弊害なのだろうか……。 


「はい、これ私のお下がりだけど着替えね。下着は新品よ」


 と舞香が脱衣場に下着と彼女が元から着ていたのに似ている学校制服を手渡してきた。

 舞香、いくつ学校制服持っているんだよ……コスプレか?


 目が見えなくても下着くらいは履けるらしく、制服も触った感触で着衣し、だいたいあっている姿に様変わりした。


「……ありがとうございました……久しぶりに……スッキリしました……」


 気になるのは、会話のテンポの遅さだ。瑠衣や河川さんとも違う、常になにかを恐れている口調くらいだ。





 沙鳥の元に連れていくと、そこには舞香、結愛、ありす、瑠奈も室内にいた。

 赤羽さんはどうやら帰宅したらしい。


「鏡子さん、いくつか質問させていただきますので、どうぞお答えください。私たち組織に黙秘権はありませんので、改めてご留意くださいね?」とはいえ、と沙鳥はつづけた。「私には嘘はすぐバレますし、答えなくても脳裏の浅層・深層から勝手に読みますが……できれば口頭のほうが信頼を得られますよ」

「……は、はい……」


 鏡子は緊張しているようで、先ほどよりもガタガタ震えている。


「まず、質問その一。あなたの元味方のメンバーの体には触れていますか?」

「……多分……触れています……さつきさんや氷河さんにもタッチしています」


 なるほど、今回現場にいなかった氷河を探るのにうってつけの異能力だ。


「それは、ひとりひとり借りて覗き見するだけでしょうか?」

「……?」

「それとも、触れた相手の視界をまとめて処理が可能でしょうか?」

「……死ぬ気で異能力を使えば、複数の人たちの視界・聴覚を同時に流れます……」


 なんだか頭がパンクしそうな異能力者だなぁ……。


「現在の異能力のステージはわかりますか?」

「……おそらく4です」

「そうですか。ならまずは異能力の成長を促しましょう。今のままでも強力ですが、自ら触った対象のみというのは、若干心もとないですからね」

「……すみません……」


 愛のある我が家では、異能力侵食度を上げることは推奨しているのか……。


「自宅はありますか?」

「……ありますが行方不明扱いになっています……」

「なら帰宅するのを許可しましょう。必要になったら呼び出しますので」

「! い、いいんですか……?」

「ええ」


 若干緊張が解けたのか、鏡子はホッとした表情を浮かべた。


「では、最後の質問です。ーーあなたは私たちを裏切りますか? 風水氷河の居場所をリークできますか? 貴女と異能力の世界を完全に断つには、残党を始末しなければなりませんので」

「…………裏切りません。風水氷河の居場所も知りたければ教えます……ですから、命だけは……」


 カツンカツンと沙鳥は苛立たしげに机を指で叩く。


「裏切らないなら仲間です。私たちは決して仲間は見捨てませんし、命を取るなど野蛮な行為を味方にするわけないでしょう?」

「……わかりました。……ありがとうございます。……ここ最近、もう私は……このまま両親にも会えずに……死んでしまうと恐れていましたので……」


 話し合いは終わったのか、沙鳥は席を立つ。


「ただし、風水氷河を倒すまではうちに居てもらいます。裏切り者として表を歩いていたらグサリ……なんて可能性もありますからね」

「……はい」


 それは把握していたのか、鏡子は静かに頷いた。



「では、次の問題について。結愛さん。貴女はここでの仕事をやめたいのですか?」

「やめたいとは言っていない! ただ、ただ! 覚醒剤を売り捌くのだけはやめてよ! 結弦が、結弦がどんどん薬物中毒者になってて、私に隠れて注射していたりして……見ていられないの」


 沙鳥は一考したのち返事した。


「覚醒剤の密造・密売は、今の私たちのシノギのなかでは一番利益を上げています。それに、異世界で大麻を栽培し、それも新たなシノギにすることが、既に実行段階なんです。これは予定ではなく確定事項。結愛さんがやめるやめないは自由ですけど、結愛さんが例えここをやめたとして、結弦さんは私たちから直接購入しているわけではございません。入手ルートを特定して、悪友と売人をとっちめる以外、私には処方を知りませんよ?」

「……っ! そんなこと言われたって……じゃあ、私はどうすればいいのよ?」

「それは自ら考えてみてはいかがでしょうか。なんでもかんでも人だよりなほど人生は甘くありません」


 沙鳥はズバッと結愛の嘆きを切り捨てた。

 両者共に言い分はわかる。


 沙鳥はいま一番のシノギをやめるわけにはいかない。

 結愛は一番大切な人間をシャブ中にした元請けを恨んでいる。

 法律を抜きにしたら、どちらが正しいかなんて私にはわからない。


「……ぐすっ……結弦はね……幼い頃から私を大切にしてくれていた親友なんだよ? ……なのに、あんまりだよ……覚醒剤のせいで……ううっ……結弦は別人みたくなっちゃったの……どうして……あんまりだよ……酷いよ……」

「一番楽な方法は、結弦さんに覚醒剤をやめてもらうことです」


 沙鳥は簡単に言うが、舞香でさえ隙を見せれば使用してしまうほどの魔薬だ。そうそうやめさせることなど不可能に感じてしまう。


「仲間の身内でなければ自業自得と切ってしまうところですが、まさか結愛さんのタルパーが乱用するとは、世界とは狭いものですね」沙鳥は数枚のホワイトペーパーを差し出した。「ここに覚醒剤依存症の治療方法がいくつか掲載されています。認知行動療法をはじめ薬剤での対症療法など。とはいえ、いずれも舞香さんには無意味でしたが」


 舞香は居心地悪そうに視線を逸らす。


「ひとまずここから治療してみてください。覚醒剤依存症は不治の病です。とにかくやめる日を増やしていく以外に方法はありませんからね」

「わかったわよ……」


 治療の中身をチラッと覗いてみた。

 輪ゴムを手首に嵌めて、薬物探索行動の前兆が来たら輪ゴムをパチンと手首に弾かせる……なんじゃこれ、意味あるんかいな。



「さて、最後の問題に取りかかりましょう」


 沙鳥は軽く手を叩き、その問題は解決したとばかりに次の話題へと駒を進めた。


「一番厄介な相手、風水氷河が敵には残っています。彼の異能力は幻覚です」


 幻覚?

 アリーシャと似た技術なのだろうか?


「豊花さん、概ね正解です。アリーシャさんよりは厄介ではありませんが、彼は五感の好きな感覚を乱し、正常な動作を奪う異能力を扱います」


 沙鳥からの話を要約するとこうだ。

 風水氷河は、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の何れかを乱す。


 視覚ーー本来いないはずの場所に相手を認識し、本体は別の場所に存在することが可能になる。

 聴覚ーー無関係な騒音などが耳の奥まで浸透し、相手の声や周りの音声が正しく認識できなくなる。

 触覚ーー物を触るという感覚に違和感が生じ、ナイフを持っているはずがナイフがやけに柔らかく感じたり、持っていないという錯覚に陥る。

 嗅覚ーー空気などの匂いすら激臭に変わったり、逆に異臭が感じられなくなったりと、正常な嗅覚が麻痺してしまう。

 味覚ーー何を食べても塩や砂糖にしか感じられなくなり、食欲が失せ、また、風水氷河を倒すまで味覚は治らない。

 と、このように、様々な感覚を正常に働かせなくなる異能力を持っているという。


 幸い、ひとりの人間に対してひとつの感覚しか麻痺させられないがゆえに、対処できないというわけでもない。ただし、ステージが成長した場合、最悪五感すべての認識を誤認させるといった極悪非道な異能力になることも推測できなくはない。


 だからこそ、早急に対処(殺害)しなければ面倒なことになる。


「正直言って、ここにいる異能力者で相手を討伐するとなると、若干力不足も認めざるを得ません。ですから、今回はちょうどこのマンションにいますし、澄さんにお願いしましょう。豊花さん、澄さんに伝えてきていただけます?」


 え……?





 あの光景を再び目の当たりにしないといけないのか……と憂鬱になりながらも、四階の一室を共用の鍵で解錠した。

 扉を開けると、先ほどよりは弱いが、やはりムワッとした鉄の臭いが玄関から外に一斉に飛び出していく。

 吐き気を我慢しながら、ゆきと澄がいるリビングへと足を踏み入れた。


「豊花か。なにかあったのかのう」


 澄は食事を終えたのか、ナプキンで口を綺麗に拭っている。

 ゆきは絞りたて100%と言い出しそうな真っ赤な血液をコップに入れて啜っていた。湯気が立ち込めており、おそらく暖め直したことが容易にわかる。


「あの……風水氷河討伐作戦の要に澄さんが措かれるみたい」

「ふむ……まあ致し方なかろう。とはいえ、敵の情報なくてはどこに向かえばいいのかすらわからんぞ?」

「今回は、えっと……実行部隊としては澄が。敵探索役として鏡子がサポートしてくれるって」

「ふむ、心得た」


 たった数分、いや数十秒で話がついてしまった。

 わざわざこんな臭い部屋に来る必要はあったのだろうか?


「ま、まあ、では二階に……」

「よいじゃろう。ゆき、お主はきちんと栄養を取るのを忘れるんじゃないぞ?」

「……」


 ゆきは静かに、コクり、と頷いた。

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