Episode82/-侵略者-
(??.)
暗い夜道、電柱の灯りが照らされる路地裏で、ありすはナイフを空に向けて振っている。
しかし、ありす自身は既に満身創痍。生傷が絶えない。そして再び切り傷が増えた。
「姿を見せろ! なにがしたくて私を襲っている!」
ありすは叫び、切り傷が増えた向きにナイフを振る。静寂を金属がぶつかり合う音が切り裂く。
たしかにナイフに当たる感触はあるのだ。しかし敵対する相手は一切見えない。
「ん?」
そんな中、とぼけた声が上空から聴こえた。
「なにひとりでダンスしてるのさ? ありす?」
微風瑠奈が華麗に着地しありすの前に立つ。
「瑠奈! 不審な敵がいるから気をつけて! 見えない異能力を使っているんだと思う!」
「へ?」
パキンーーと瑠奈に刃物がぶつかる音がすると、割れた刃だけ姿を現した。
「とりあえず助けて! 逃げればなんとかなると思う」
「? わけがわからないけど、まあわかった」
瑠奈はありすを抱き抱えると空へと飛び去った。
暗い夜道には誰も映らない。しかし、静かな路地裏に舌打ちだけがたしかに響いた。
(??.)
「くそったれ! テメーは誰だ!?」
大海は体中を血塗れにしながら事務所の中で倒れ伏せている。現場にいた組員もほとんどすでに息絶えていた。
「名乗る名前はないよ」
少女は日本刀を軽々しく片手で構えると、大海を真横に切り裂いた。
死体となった大海を蹴り飛ばし、死んでいるかを確かめる。
そこに誰かからの連絡がかかり、少女はスマホを取り出した。
「大海組は始末したよ。次は? わかった。ちょうど近場にいるから私が行く。大丈夫、私は負けない」
血塗れになった組の事務所を少女は後にした。
(??.)
「お前はなんだ?」
日本刀の斬撃をかわし、自らも日本刀を取り出した刀子は相手の少女に問う。
大海組に用事があって向かっている最中、見知らぬ日本刀を持つ少女から襲撃に遭ったのだ。
「敵とだけ」
少女はそう答えると、片手で素早く日本刀を振り回す。刀子は防戦一方になりつつあるのを自覚し、深呼吸をする。
「なら容赦はしない」
「防戦一方の癖……に!?」
圧されていた刀子だが、スイッチかなにかが入ったのか、いきなり日本刀の斬撃の速度が上がった。
一、二、三回と回りながら切り込む。背後が隙にならない速度で再度三回転。思わず下がる少女を追撃し切り下げからの切り上げ、今度は二回転。完全に攻防が逆転した。
「っ……!」
ついに少女に切り傷が付き、攻撃するタイミングを失った少女は、身の危険を感じ振り返り逃げようとする。
そこに一、二、三段階の平突きが入り、少女は血を吐きその場に倒れ伏す。
首に日本刀を圧し当てると、刀子は口を開く。
「名前と所属、目的を吐け」
「綾瀬美弥……異能力の世界……異能力者が支配する世界をつくること」
「そうか。助かるよ、安心して逝け」
容赦なく首を切り裂き、少女ーー綾瀬美弥は絶命した。
「またおかしな奴等が現れたな。一応連絡しておくか」
刀子は沙鳥と教育部併設異能力者研究所に連絡を入れることにした。
怪しい奴等が彷徨いている……と。
(??.)
沙鳥は舞香と事務所にいた。
そこに瑠奈が血塗れのありすを引き連れてくる。
「どうしたのでしょうか?」
「なんか襲われたんだってさ」
沙鳥はなんとか息を整えるありすの心中を読み、「またですか……」と投げやりに呟いた。
真実の愛やらGCTOの残党やらと争っていた最近、もう大丈夫だろうと思っていた矢先にこれだ、と。
「おや?」
見知らぬ番号から沙鳥のスマホに連絡がかかる。
少し迷い、沙鳥はそれに出た。
「もしもし」
『初めまして。小野寺さつきと申します。端的に言うと、協力しませんか?』
見知らぬ女性からの謎の電話だった。
「いったいどこの組織でしょうか? どのような内容で?」
不審に思いながら沙鳥はさつきの返答を待つ。
『異能力の世界という新生の異能力犯罪組織です。あなた方特殊指定異能力者犯罪組織はそれはそれは凶悪な組織と聞きました。ぜひあなた方とは手を結びたい。異能力犯罪死刑執行代理人とここら辺の暴力団を潰し、供に異能力者だけが得をする世界を作りませんか?』
沙鳥はチラリとありすを見ると、口を開いた。
「詳しくお話を聞かせてもらいましょうか」




