Episode72/ユタカ
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混乱しながらも、私は急いで瑠璃に連絡することにした。
『もしもし、どうしたの?』
瑠璃の何気ない返事が返ってくる。
「ユタカと融解したはずなのに、ある言葉を使うとユタカになってしまうんだ! ユタカはこれはおかしいと言っている。どうにかならない? 美夜さんに繋がらない!?」
『はあ? ちょっとちょっと!? いつ異霊体と融解したのよ? ステージFになったってこと!?』
瑠璃は突然のことに焦っている。当然だ。こんなに早くステージFになった事例はないのだろう。
『わかった。美夜さんに連絡するから、至急異能力者保護団体に来て!』
もう夜も近いと言うのに、瑠璃はすぐに対応してくれた。それくらい心配してくれているのだろう。
ーー会話が再びできるようになったのも不自然だ。それも会ったら訊いてみるべきであろうか。ーー
わかっている。個人的には嬉しいことだが、異霊体からすれば異常事態なのだろう。
と、沙鳥から連絡がかかってきた。
あれ、瑠璃じゃない?
「もしもし?」
通話に出る。
『伝えにくいのですが、柊 ミミさんは戦力にならないとありすさんに伝えられました。ありすさんが言うには、豊花さんのほうが余程戦力になると』
「は、はあ……」
『ですから、しばらくの間は豊花さん個人で動くのはなしにします』
少し安心する。いきなり行動しろと言われても無理があるからだ。
『明日も愛のある我が家に来てください。道具とネタの取り扱いを教えますから』
「え……?」
結局そうなるんかい!
『それでは、また明日』
そのまま通話は切れてしまった。
まあいい。そんなことよりまずはユタカのことだ。
とにかくまずは異能力者保護団体に向かわないと。敵対しているとはいえ、共闘関係でもあるんだ。どうにかしてくれるだろう。
私は着なれたワンピースを着て、少し寒いなと感じつつ異能力者保護団体に向かうことになった。
異能力者保護団体に着くと、既に瑠璃と美夜さんがロビーに待っていた。
「で? たしかにステージFに到達しているな。それでボクになにが聞きたいんだい?」
「やっぱりステージFになっているっていうの!? 普通に見えるんですけど!?」
瑠璃は美夜さんの言葉に驚く。
「見せたほうが早いかな……まずはあまり見せたくないんだけど……ステージが成長して異能力が変化したのがこれーー男体化」
瞬間、一瞬意識を失い元の僕の姿に戻った。
あまり瑠璃には見られたくなかった……けどしょうがない。
「へぇ、それがきみの元の姿か。ボクはてっきり不細工を想像していたんだが、普通じゃないか」
へ?
普通?
「豊花、あんたが言っていた元の自分は不細工だって、あれ嘘だったの? たしかにイケメンでもないけど、不細工ってほど顔は崩れてないわよ?」
瑠璃にまでそんなことを言われる。
ーーだから言っただろう? きみは思っているほど不細工ではないと。まあ、並だな。ーー
皆にそう言われて、なんだか少しだけ自信がわく。いや、でも女性が言う普通って、普通以下のこともよくあるしなぁ……。
「おい……なぜ融解しているステージFなのに異霊体と会話できているんだい?」
美夜はぎらりと瞳を睨ませる。
「それは今から見せるよ。この間、僕の記憶は曖昧になるから気を付けてね?」そう注意を付けたし、僕は「ーーユタカ化」と唱えた。
再び意識が途絶える。
そこには、豊花とも豊花とも違う、ファンシーな衣装に身を包んだ少女が現れた。
「な!?」
「三人目の……変身?」
二人は驚き声を上げる。
「いや~、違うよ? 私はユタカでありながら豊花ではない。いわゆる異霊体だ。今の豊花は私の精神にしか干渉できない」
ーー……どうして僕と話すときと口調が違うのさ?ーー
「気にしない気にしない。さて、これを何 美夜はどう判断する? 私としても豊花と融解できなくて困っているんだ。これじゃ融解じゃない。分離だ」
ユタカの言葉に対し、美夜は頭を抱え首を振る。
「どこまで前代未聞なんだ、こいつらは……いっておくが、こんな事例は世界初だ。それに全員幽体が消えている。まるで別人が重なりあっているようだ」
「たしかに……私にも見えません」
瑠璃は美夜に同意する。
「しかも、だ。私に変身しているときは異能力が使えないときた。ただ、使い道があるかもしれないぞ? なにせ」ユタカはつづけた。「わたしには異能力発露の光が見える。使えないのは男体化時のみだろう」
まあ、とユタカはつづけた。
「普段は女体化で過ごせ。男体化で過ごすメリットはないしね? ユタカの間は記憶が曖昧になってしまう弊害もあるし、豊花と融解ができなくなってしまうかもしれない。それは嫌だ」
と拒否するユタカ。
ーー僕はむしろ、融解したくない。一緒にいたい。ーー
「わがままを言うな。それ、戻るぞーー女体化」
たしかに異霊体が目的にしているのは幽体・霊体の融解だ。これでは分離ではないか!
とユタカは若干焦りぎみなのはわかる。でも、私は……。
「どうする? これは世界異能力協議に提出したほうがいいのかもしれないぞ?」
「豊花のことも考えてください! 豊花はたしかにステージFに入っていますけど、普通に生活……普通?」
愛のある我が家に入り犯罪に抵抗がなくなっている私は、普通とは言えるのだろうか?
瑠璃は言葉を濁して、そのまま口を閉じる。
「とりあえず、なにか変化があったらすぐに知らせたまえ。このままうじうじしていても仕方ない。前代未聞の異能力者ーーそれが今のお前の立場だ」
こうして、本日は帰宅することになった。
ステージFになったから悪事を働くのか?
帰宅道、私はそればかり考えていた。
ーー何度言えばわかる? 異能力者は異能力を持つから確かに悪事に傾きやすいが、異能力者でも異能力者保護団体に協力しているものもいる。だから安心しろ。ーー
うん……。
僕はいまいち納得できないまま帰宅するのであった。




