episode71/依存
(112.)
自宅に帰宅した私は、未だにユタカのことを忘れずにいた。
どうしていなくなってしまったのだろう……。
ユタカについて思考を巡らす。
正直、今の私にとっては相棒みたいな存在だった。ぶっちゃけ融解でも何でもしてもいいと思うくらい。
ゆきと瑠奈は帰らせ、両親にはもう安全だと告げた。
「ユタカ……か」
そう呟いた瞬間、私の意識は一瞬にして途切れた。
(113.)
「なん……だ、これは」
その場には、ファンシーな着物を着たユタカが現界したのだ。
「まて、まて、まてまて待て!」
ユタカは焦る。私は豊花と融解したはず。つまり豊花の意識と同化したはずだ。なのに、これでは、これでは……。
「分離ではないか!」
ユタカは焦っている。
ーーおかしい。私の意思に反してユタカは動き回っている。ーー
私の意思に反して動き回るユタカを見て焦りを覚える。
「なにを呟いたか考えてみろ! これじゃ、融解でも融合でもない! これじゃ……分離ではないか!」
ーーと言われても思い当たる節がない。今の私は単なる傍観者。これが融解?ーー
と考えるが、すぐさまユタカに否定される。
「融解は性格や精神、幽体が融解するだけで、これじゃ分離ではないか! 私は今私の意思で動いている。格好も豊花とは全然違う!」と、なぜかユタカは憤怒する。
「まさか……」
ユタカはふと思い立ち、唐突に「女体化」と呟く。
再び意識が途切れ、元の自分に戻ってユタカの声が聞こえなくなる。
「まさか……まさかユタカ……」化と呟いたのが原因!?
それを勘で察知する。
ーーこれでは融解とはいえない。気にくわないが異能力者保護団体に連絡するべきだーー
ユタカの声が聴こえる!?
再びユタカ化と唱えてしまった。
再び意識が混濁してしまい、気づいたら私の意識はユタカに変わった姿の心中におい込められた。
「おかしい! 異霊体は融解したら本人に紛れるはずだ。いや、そもそも豊花はどこに行った?」
再度、試しにユタカは女体化と唱えてみた。
すると、再度、豊花の意識が戻った。肉体の主導権も、元通りに。
だが、ユタカに入っている間にしてきたことが記憶がぼやけて思い返せない。今まで自分がなにをしていたのかが思い出せない。ぼんやりとした、記憶しか残されていない。
たしか、最初は布団に横になっていたのに……。
しかし記憶は鮮明に映し出される。ユタカになってあわてふためいていたユタカの姿を俯瞰で眺めていた。ユタカの声はまるで聞こえないのに、逆にユタカの声が聞こえていた確信もある。なんという気味の悪い感触だ。
ユタカになっていた?
「女体化」
ユタカがそう唱えると、再び元の私にからだの主導権が移った。
思考ーーそうか、ユタカ……か…………という何気ない口から出た言葉で、ユタカ化と唱えてしまったと判断されてしまったのが原因だと考えられる。
融解するんじゃなかったのか?
三体の肉体を持つ自分はいったいどうなってしまうのか?
怖くなる。ユタカになったあと記憶が朧気だ。
でも、ユタカにもきちんとした生活を送る権利はあるんじゃないか?
苦悩に悩まされる。そのとき、ふと。
ーーユタカ化はもう使うな!ーー
とユタカの声が聞こえた気がした。
でも、せっかくユタカが日常生活を送れるようになったんだ。ユタカ、ユタカはまだ生きている!
なら私の人生を捨ててでも!
ーーふざけるな! いい加減にしろ! 私はおまえと融解するためにここまで頑張ってきたんだ! それを邪魔しろだと!? なにが分離だ! これは明らかにおかしい! 今までの異能力者を見てきたか? こんなことがあって溜まるはずがない!ーー
そんなユタカの焦りとは裏腹に、またユタカと会話ができるようになりホッとしている自分がいる。
金輪際ユタカ化という言葉は発言するな、との制約の元、ユタカはいなくなっていなかったという安心感がどっと押し寄せる。
ーーこの会話も、きみがユタカ化等という言葉を口にしたからだ! いいか、私のことは忘れるんだ。分離だなんて聞いた覚えがない。君はきづいているのか、こんな事例は世界初だぞ!?ーー
本来なら豊花が暴走した段階で融解は完了したはずらしい。
なのに現状はどうだ?
これでは融解でも何でもない分離。
ーーいけすかないが、この原因を探るため知人や仲間の協力を仰げ。これでは異能力者とはいえない。まずは異能力者保護団体に赴き何 美夜に聞いてみてはどうだーー
ユタカに言われ、ユタカが消えるのは嫌だと考えながらも、しぶしぶ慌てて用意することにした。
別れたと思っていたのに、この再開は不思議と胸が踊った。
だって、二度と会えなくなる相棒に出会えたのだから……。
私は瑠璃に電話をかけ、事情を話すと、驚きながらすぐに行くとメールが届いた。
ユタカとは別れたくない。別れたくない。別れたくない。別れたくない。別れたくない。
いつの間にか、私はユタカに想像以上に依存していることを、このときようやく理解したのであった。




