Episode67/一時の日常
(107.)
ミミを自宅に連れ帰ってきてから、私の両親はさらにパニックになった。それを端的に説明しつつ、どうにか暮らすことを許してくれたらしい。ミミは自宅もあるため、夜には帰宅することになるけど、それまで戦力が増えるに越したことはない。
「ゆき、ありがとう」
家族を守ってくれたゆきに感謝を告げる。半居候がさらに増えてしまった。これでは本当に私のチームみたいじゃないか。
沙鳥にさっきの話を訊くために連絡をする。THE豊花は『半分冗談ですが半分本気です』と曖昧な返事が帰ってきてしまった。半分本気ってなんだ。
『本来、愛のある我が家は異能力を持つ女性メンバーが参加条件。ですが、ミミさんは女子高生でありながら人様にやたら滅多に刃物をぶつける性質を持つ。しかし異能力者ではない』それはなんとなく見ていればわかる。『ただ、読心を用いた際、強い相手を察知する勘のようなものを持っていることが判明しました。豊花さんほどではないなせよ、暴走されてちゃ命がいくらあっても足りない。ミミさんの上に立ち、教育すれば使える人材になると思ったのです。まさに奇縁も縁ですね』
なにやら現在の問題が解決すれば、私の傘下に入ってもらうことにしたらしい。これではヤクザだ。
『なにも我々にだって上がいないわけではありません。大海組が上にいて、現在私は大海組の一員です。まえは舞香さんでしたけどね。その上にもまだあります。総白組、さらに上の総白会。その連鎖を参考にして、私たちも枝をつくろうという魂胆です』
いきなりそんなことを言われても、受け入れるのに時間がかかる。
『ゆきさんを一時そちらに付けたのは、ミミさんが歯向かってきたときの妨害役にもなりますね。幸い、自分より強いと思った相手以外には興味がないみたいですので、ご家族はご安心ください』
ミミーーこんな相手、わたしの一撃で血塗れにできるのに、なにが利用できるんだか……。
沙鳥に聴こえていたのか、独り言を呟いてしまっていたのか、沙鳥は話をつづけた。
『ありすさんも昔はああいう性格でした。ならば、ありすさんに稽古をつけてもらってはいかがでしょうか? 今は粗方敵対組織は片付けましたし、瑠璃さん自宅なら安全でしょう』
刀子さん対ありすの話は聞いたことがある。
なにやらありすは負けなしで暴力団の用心棒をやっていた。そこに暴力団を壊滅させる依頼で来た刀子さんに無謀にも突撃をかまし、呆気なく地に伏すかたちになってしまったのだか。
『ありすさんが頼み込んだ結果、刀子さんは渋々ありすさんを弟子にしたのですよ?』
「じゃあ静夜は?」
静夜はどうやって刀子と知り合ったのだろう。あの二人が争うようには思えない。
『その話は静夜さん自身が思い出したくない記憶でしょうし、私の口からはなにも言えません。ただ、ありすさんとは違い、静夜さんを自主的にスカウトしたのは刀子さんだったのだとか』
さて、とそろそろ叶多の討伐に向かうといった。終わったら、すべてをお話しますよ。と沙鳥は通話を切り、ついに叶多の討伐に向かうらしい。
結局、私はメンバーでありながらなにもできなかった。
私の存在意義とはなんなのだろう?
「どした? 浮かないかおしちゃってさ」
ミミがそう問いかけてくる。
ミミは短髪で愛敬のある顔立ちをしており、女子高生という割には背が低い。
「いや、なんでもないよ。これからは僕の部下になってもらうからそのつもりで、お願い。毎晩自宅には帰宅していいからさ」
ミミはぶうたれながら、「私が師匠と認めてるのは空先輩だけだもん。風守学園で一番強かったひと。一番強いと噂のあんたがそれに勝てたのはあんたーー豊花だっけ? のまぐれだよ」と機嫌が大分悪い。
とにかく取り繕うと適当に雑談し、同時にむくれている瑠奈に「大丈夫、きちんと愛のある我が家に戻れるって」と取り繕った。事実、この作戦が終わったら瑠奈は愛のある我が家に戻るだろう。
それを聞くと、瑠奈はようやく機嫌を取り直した。
……さすがにこの人数じゃリビングに椅子が足りない。仕方ない。
「母さん、僕たちは部屋で食べるよ」
「わかったけど、危ない話とかはしないでよね?」
母さんはどこまでも心配性だ。まあ、この状況では仕方ないけど。
椅子が足りないということで、飯は自室に運ぶことにしたのであった。
「いやー、両手に華だね。いや、三手に華かな?」
瑠奈はカレーライスを頬張りながらそうふざけて言う。
普通なら私がハーレム状態なのだが、瑠奈にとってしてみれば、自分こそハーレム状態なのだろう。
そんな瑠奈に対して、ミミは未だに『私が尊敬するのは空先輩だけだからね』とむくれている。
今度はこっちかーい。と思いながらも、食事を平らげる。
ミミは皿洗いしてくると言い部屋を出た。
「そんなの母さんに任せればーー」
と言うが、居候の身がぐうたらしていたらどうするの? と至極全うなことを言われてしまった。普段炊事掃除洗濯をしていない僕には耳が痛い。
ミミは食器を片手に母を手伝いに行った。
本当かどうかはわからないため覗き見すると、普通にミミは皿洗いをしていた。
ミミって子がよくわからない。風守学園に通っているということは、私に対する変な誇張された噂でも出回っているのかもしれない。
これ以上変な噂がたたなければいいけど……裏番を倒した奴がいるーーなんて話になったら厄介以上の何者でもない。
瑠奈とゆきをチラリと見る。二人はミミが手伝っているというのにトランプに興じていた。
「……やる?」
「やらない……」
ゆきに誘われて断り、私は一旦ベッドの上に寝転がった。
叶多の居場所は把握できたらしい。敵対者は粗方拷問、処分もしたという。僕の親友にしたことを、思い知らせてやりたい気持ちがふつふつと湧いてくる。
自分を抑えろ。ここで私が暴走したらすべての作戦がパァになるかもしれない。
ノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
そこにはミミと母親がいた。母親はニコニコしている。
「ミミちゃんって良い子ね~。我が家の娘にしたいくらいだわ。あなたたちも見習いなさいよね」
強いと察した敵に襲いかかる奴を見習えと。母さんはミミの悪質な部分を知らないからそう言えるんだ。
こうして、特になにもない一日は終わった。
呆気ない一日だった気がする。ミミ以外。第一ミミは真実の愛の一員でもないし、邪魔になるかもしれない。
そもそも自分の組織を作れったって、メンツがミミだけって、どう金を稼げと言うんだよ……瑠奈は愛のある我が家に戻る気満々だし。




