表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第四章/杉井豊花【破】
69/264

Episode64/-創造vs幻覚-

(??.)

 古いアパートに沙鳥たち面々が入っていくと、扉の姿が見えなくなった。

 それをひとりの少年ーー辻が目撃していた。


『私の目を貸します。目は内部まで追跡可能。仲間たちはひとりの少女を他所に皆どこかへ消えました』


 逃げたさきを追跡する異能力を持つ仲間がいるため、アジトの存在はまえから判明していた。それは朱音の隠れ家も一緒だ。

 仲間の目の異能力により、相手は幻覚を見せる異能力者だと判断できていた辻は、脳裏に何でも貫通する剣をイメージし、それを視覚化する。

 イメージを視覚に見せる技術までは、人間なら誰でも会得できる。一般的にイメージの視覚化と呼ばれる技術。しかし辻は、それを物質化できるという破格の異能力を持つ。


 辻が見えなくなったはずの扉を剣で切りつけると、ガラガラと音を立てて壁が崩れる。すると部屋が露になった。部屋には魔法円のようなものがあり、中には銀髪の少女ーーアリーシャひとりが壊れた扉を見て慌てている。


「ああ、なんてことするんですか~」


 その慌てかたに余裕のような様子さえ感じさせるのは、まだ自分のほうが格上だと思っているのだろうか?

 辻はそれを不満そうに見るも、すぐに自分のほうが優勢だということを相手に伝えることにした。


「お姉さんは在るものを無いように見せるだけの異能力者でしょ?」辻はアリーシャの腹部に剣が突き刺さっているイメージをし、それを視覚化した。さらにそれを、現実の物とする。「無いものを在るようにする僕とは正反対だ。だけど、所詮は幻覚。存在するものには勝てないよね?」


 家宅に侵入するなりアリーシャの腹部をイメージの実体化で動かずともアリーシャに剣を刺した辻は、血を吐くアリーシャを見下ろしながら余裕そうに呟く。


「幻覚を創造する僕のほうが、実在を見せないだけにする欠陥品の異能力より格が上だよ」


「そうですか?」


「ーーえ?」


 血を吐いているはずのアリーシャの声が辻の耳元に聞こえた。

 辻は不足の事態に焦り辺りを確認するが、目の前のアリーシャ以外には、他に誰もいない。

 と、いきなり辻の腹部に剣が生えた。


「なっ!?」


 痛みが腹部に伝わった瞬間、目の前のアリーシャがスッと姿を消した。

 辻は冷や汗を額に浮かべ、目を後ろにやる。

 そこにはアリーシャ、沙鳥、舞香、翠月、朱音、刀子が佇んでいた。


 そんな、そんなバカなーーと、辻は確かにアリーシャを刺したという感覚が手に伝わってきたはずだと動揺し、視覚化できない状態で現状に焦る。

 仲間の情報だと、ここに入ったこいつらは魔法円に入ったあとどこかにワープした。その情報とかち合わないではないか。辻は冷や汗を額に浮かべる。

 さすがにこの人数相手には不利以外の何者でもない。


「まずその一、私は異能力者ではないですよ~? 本気を出せば五感すべてに幻を見せられるのです。いつから実在は夢を上回ると思っていたのですか~?」

「っ!」


 辻は死にかけの身体で無理やりアリーシャに再び剣を刺すイメージをして、現実の物だとしたが、刺した瞬間アリーシャは再度姿を消した。


「ここを見つけるのに使った異能力者を吐け。真実の愛の情報もだ」


 なぜか、いないはずの刀子の声が辻に聞こえる。

 沢山の針が周囲に現れたかと思うと、まとめて辻の体を貫通した。心臓にも埋め込まれ、全身に痛みが駆け巡る。


「がぁああああああ! ああああ!? 痛い痛い痛い痛い!?」


 辻は血塗れになりながら床を転げ回る。

 と、片腕がいつの間にかなくなっており、そこから大量出血する。


「言うから! 言うから殺さないでくれ!」


 反狂乱になりつつ辻は自分が負けた状況を認識できないまま声を張り上げる。


「早く言うのです~」


 さらにもう片腕がなくなり、両腕がなくなってしまった。触れてもいないのに。

 辻はいつ斬ったのかすら理解が及ばず、困惑と痛みと死の危険性で必死に言の葉を繋げる。


「み、三原って奴が追跡能力を持ってる! リーダーは叶多! ば、場所は……」


 なぜ死なないのか疑問を抱く暇もなく、辻はがむしゃらに仲間の情報を吐いていく。

 ついには辻の右足が切断される。誰も触れていないのに。


「死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!」


 なぜ自分の異能力だけが通らず自分ばかり被害を負うのかわからないまま、辻は死にたくない一心で相手の居場所までは知らないことを叫んだ。真実の愛は集団として存在しておらず、ネットを介して繋がっているだけで、個々の居場所までは明かされてはいない、と。


「そうですか~。ああ、ありがとうなのです。もう死んでいいですよ?」


 左足が切断され達磨になる。最後に巨大な刃が胸を貫通した。


「知っているのですか~? 人間とは情報に頼って生きているから、幻を現実だと思い込むと、本当にそうなってしまうのです」


 人間を拘束し目隠しした状態で、鉄パイプを熱した音を聴かせる。その鉄パイプをつけると告げたあとに冷えた鉄パイプを押しあてると、人間は火傷を負ってしまうーーそれを拡大したのが自分の力であるとアリーシャは述べる。


素敵(すてき)(ゆめ)を ありがとう 永久(とわ)()わらぬ(まぼろし)は 永遠(えいえん)(ゆめ)をあなたに(とど)けるーードリーミー」


 アリーシャが唱えた瞬間、集団の人間は別々の場所に現れ、無傷のアリーシャも玄関近くに現れた。

 そして、無傷の辻も現れるが、辻だけは幻覚を見たまま狂ったように「殺して……もう……殺してくれ……やだ……痛いのやだ……」と呟き続けている。

「まったく、おまえらの能力はえぐいものばかりだな……」


 刀子は無傷のまま死にそうな顔で地面を這っている辻を見下ろし、楽に殺すために心臓を一突きした。

 アリーシャの能力により、この部屋に入ってからは辻も追跡能力を使った仲間ーー三原も幻覚を見せ続けられていた。

 辻は自分が無傷だと自覚できないまま、床に伏せて唸っている。

 アリーシャが唱えた詠唱により、辻は未来永劫脱け出せない夢の世界へと落ちてしまったのだ。それを可哀想だと感じた刀子は、せめてもの情けで介錯を請け負った。


「こんな時分に異世界に行くなんて嘘をついてまで追わせた相手です。読心で三原の居場所は判明しました。刀子さん、処分に向かってください。あの方の異能力があるかぎり、こちらは後手後手です」


 沙鳥は刀子に命令し、刀子はため息を突きながら、沙鳥に教えられた居場所まで向かうことにした。


「澄さんがいなくても、我々に歯向かうとどうなるか、教える必要がありますね……なにも私の協力者は愛のある我が家以外にもいるのですから」


 沙鳥は朱音を見据えながら、なにかを視線で送る。


「わかったよ……沙鳥ちゃんが思っているほどじゃないし、来てくれるメンバーは限られてると思うけど、瑠奈並みの戦力なら数人は連れてくることはできると思う」

「ええ、よろしくお願いいたします」


 沙鳥の言葉で、朱音だけ異世界へと旅立った。


「真実の愛と言いましたっけ? よくもまあ、愛のある我が家に喧嘩など吹っ掛けたものです。暴力を統べる私たちに歯向かった代償、その命を以て支払わせなければなりませんね」


 沙鳥は、自身のメンバーは見回す。ここには、舞香、翠月、アリーシャがいる。刀子も味方だ。離れた場所に豊花やありすもいる。暴力団の後ろ楯もあり、最弱でありながら切り札ともいえる朱音の異能力で仲間も連れてこられる。最終兵器の澄が現在いなかろうと、帰ってくるまでに決着をつける自負はある。


「まずは相手の目を潰しましょう。相手同士の繋がりは希薄です。まさに最近つくられた組織といえるほどお粗末」


 沙鳥は普段の仕事を邪魔してきた相手を許せないでいる。


「金沢叶多さん……あなたごときに、愛のある我が家が倒せるなんて、思い上がらないでほしいですね」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ