Episode56/竜宮会襲撃
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僕を含め四名の人間ーー僕、瑠奈、ゆき、ありすーーは、お屋敷のような佇まいの歴史を感じさせる民家の前までやってきていた。
竜宮会はとある民家に紛れて代紋を掲げている。そう沙鳥から聞いていたが、まさかこんな街中に紛れているとは思わなかった。
「まあ、ヤクザの本部や事務所っていうのは、大抵見てくれだけじゃわからないようになってるからね。赤羽組はビルの一角に本部があるし、大海組はここと似たような建物」判断材料になるのは。「密かに掲げている代紋や組員の出入りくらいかな。最近は一般的な会社に紛れるように名称も○○會とか○○興業とかにしているし」
たしかに、ありすに言われなければ、ここがヤクザの集う場所とは思えない。
ただ、ここに叶多がいる可能性は薄い。渡された資料には叶多の顔写真が添付されていた。どことなく金沢に似ている気がする。
だからかもしれない。このニヤケ面の顔を見ているとイラだつのは。
「おい! 竜宮会! 早く全員出てこないと家ごと吹き飛ばすぞ!? ああ!?」
と、瑠奈は風の魔法を使い竜宮会本部の玄関に傷跡を残す。意外と固いのか、破れたりはしない。ヤクザの事務所というのは扉が堅くできているとはテレビで見ていたことがあるから知っているけど、本当に堅くできているのか、と少し感心する。
「んだ? クソガキが!」
「てめーらガキ共が来るところじゃねーんだよ!」
したっぱらしきヤクザが玄関を開けて飛び出してくる。
「おい、叶多を出さないと建物ごと潰すぞ、あぁ!?」
ヤクザ二人に対し、叶多を出さなければ殺すと瑠奈は脅す。しかしヤクザは怖じけない。だれがこんな小娘たちに竜宮会を潰されてなるものか、とでも思っているのかもしれない。
「叶多? チッ、あのガキは今ここにいねーよ! 他所を当たれ、じゃなきゃペロンするぞ! ああ!?」
と、ヤクザのしたっぱがぞろぞろと現れてきた。皆が皆、強面の人間だ。
叶多はここにはいないと言う言葉を聞く限り、やはり叶多がここにいるいないのは関係なく、叶多が率いれた仲間だろうと推測できる。
「おい! チャカ持ってこい! こいつらに竜宮会の恐ろしさ思い知らせてーー」
ヤクザのひとりが部下にそう告げ終える前に、ありすのナイフがヤクザの肩を切り裂いた。
「竜宮会の恐ろしさ? こっちは大海組の下で活動しているんだけど。逆らうなら大海組と抗争することを覚悟しなよ?」
ありすはさらに無効化するため、近場のヤクザの胴体を切り裂いた。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!」
ヤクザのひとりが拳銃をありすに向ける。が、しかし、その拳銃はバラバラに砕け散った。
隣を見ると、瑠奈がヤクザの手元に手のひらを向けていた。
風のちからで無力化したのだろう。
……これって僕のいる意味あるのだろうか?
と考えている隙に、匕首を片手にヤクザのひとりが僕に向かってきた。
このままでは刺される!
そう直感した僕は、匕首をナイフで弾き、匕首を持っている相手の腕を切り裂いた。
「ぐがぁぁ!」
や、やり過ぎちゃったかな?
でも命を狙われたんだ。これくらい仕方ないだろう。
「無力化するために竜宮会に乗り込むよ、杉井、瑠奈、ゆき」
ありすがそう言うのと同時に屋敷の中に潜り込んだ。
「誰だてめーら!?」
逆らう奴はありすが切り捨て無力化していく。
通路を進み、本部の部屋がある位置までたどり着く。
そこには、竜宮会の組長らしき男が拳銃を構えながらこちらに向けていた。左右には部下のヤクザも二人いる。
「これでもまだ叶多の居場所を教えられない?」
ありすは睨みを効かせながら組長を脅す。
「こっちだって面子があるんだ。そう易々と教えられねぇ。叶多ちゃんだったか?」拳銃をありすに向けながら続ける。「たしかに協力関係と言えなくもねぇ。だがうちを攻め込むのは筋違いじゃねぇか? これじゃ竜宮会だけの問題じゃねぇ。上の最神一家も巻き込む事態になっちまう」
向こうも必死の抵抗を見せている。
流石は組長なのか。怖じ気づいた様子は微塵もない。
「最神一家? ならこっちは総白会も出ることになるんじゃない? そうなると困るのはどっちかな?」
ありすは臆せず大海組の上、総白会とやらの名前を出す。脅しだ。総白会の名前を出していいだなんて大海さんには言われていない。
「よう、クソガキども。てめーらが来るのを待ちわびていたんだが、刀子はいねぇようだな。無駄足くっちまった」
と、遅れて組長の隣に、片腕をなくしている、たしか善河という名らしき中年男性が現れた。
「待っていたぜ糞野郎。とはいえねぇが。あいつの弟子を殺せるならまあ許してやるか!」
「!? まずい、みんな、いったん脱出!」
ありすは刀子に再度勝負を始めたがっていた善河を目にした途端、逃げる決意をしたのか怒号を飛ばす。
組長が持つ拳銃がありすに放たれるが、間一髪ありすは避ける。
瑠奈は風圧で善河を飛ばそうとするが、それに耐えきる。さらに空気の刃で攻撃をするが、一気に屈みそれを避け善河はありすへと走り寄る。
組長を潰しにかかっていたはずが、まさかこんなピンチに見回れるとは!
瑠奈が風の刃を腕に巻いたのか、それで善河を切り裂こうとするがスラリと避ける。若干かすった程度で、あと一歩のところで命中には届かない。
「瑠奈! あいつの拳銃をなんとかして!」
瑠奈は組長が再びありすの顔面を狙おうとするが、瑠奈はありすの前に立ち銃撃を弾き飛ばし、同時に手のひらを拳銃に向けて風の刃で破損させた。
「スリップーー」
と、さらに遅れて登場した謎の女性が、瑠奈に向けてカードを差し出す。
すると、瑠奈はなにもない床に転がり転けてしまう。
異能力者だーー!
と、瑠奈は他所よりありすが善河に首を絞められているのが視界に入り、助け出すために善河の元に走り寄り、ナイフで善河の腕を切り裂く。
その隙にありすが善河を蹴り飛ばし距離を取る。
「ちっ、クソガキが!」
予測した範囲の殴り拳、これなら避けられる。
僕に向けられた拳をサッと避けたーーと思ったら、腹部に命中。僕は情けなく地面に倒れ伏せた。
「ぐぅ!」
なんて痛さだ!
少女に向ける拳ではない!
だいたい、どうして避けられなかったんだ!?
「カード、ストップーー」
謎の女性が僕にカードを差し向けた瞬間、からだが金縛りにかかったかのように動けなくなった。
なんだ、なんなんだこの女性の異能力は!?
「本当にわかっているのか? これはもう竜宮会と愛のある我が家だけで収まらねぇ、最神一家に喧嘩を売っていることがわかってんだろうな?」
と、竜宮会組長が更に脅しをかける。
「ヤクザごとき何人来ても変わらない!」
と、瑠奈は滑り倒れた位置から起き上がり、問答無用で組長の顔面を潰すため風の槍を投擲した。しかし、善河が残った片腕の手のひらでそれを押し留め、切り裂かれた手のひらの血を地面に払った。
「いくら傷つけても殺さねーかぎり意味はないんだよ、魔法使いの嬢ちゃん? 俺らの味方にはどんな傷も直しちまう異能力者がいるんだよ」
「ーー!」
そこにゆきが突進する。
しかしーー。
「カード、スリップ」
謎の女性がカードを差し向けただけで、ゆきは一時身動きが取れなくなり、瑠奈のように床に転げ落ちた。
どんな傷でも直す異能力者?
どこかで似た人物を聞いたような……。
と、なんやかんや騒いでいるうちに、他の組員もやってきてしまった。
組員が組長を助けに行こうとする。が、そこにいきなり刀子が現れ、組員たちの足を斬り手を斬り身動きできない状態にした。
「やはりこうなってしまったか。一旦退くぞ」
どうやら嫌な予感がして、刀子さんが助けに来てくれたらしい。
「本来なら叶多に関する情報を吐かせるため、瀕死の組長を拐う予定だったが、上手くはいかないようだな?」
「はあ? はは、クソ野郎が! 自ら現れてくれるとは感謝の限りだぜ!」
善河はありすから離れ刀子に走り寄る。この二人の争いはまだ終わっていない。片腕を失っても、まだ平然と動けている善河に畏怖と恐怖の念を抱いてしまう。
「おまえたちはもう帰れ! 私もあとで行く。帰って大海と沙鳥に伝えろ!」
刀子はそう僕たちに命じる。
「わたしはまだ戦えるんだけど?」
瑠奈はキレ気味の表情で刀子に意見する。
「あいつを甘く見るな。それに危険なのはあいつだけじゃない」
「カード、ストップーー」
謎の女性は刀子にカードを向けるが、その線上から身体を避け異能力が当たらないようにする。
「私もあとから行く、早く立ち去れ!」
「くそ、次があったら覚えてろよ?」
瑠奈も文句を言いながら、言われるがまま僕たちは急いで沙鳥へと報告しにいくことにした。
背後から「手を出すんじゃねぇぞ? 眉墨。これは俺とコイツの殺しあいだ」と善河の声が聴こえた。本当に刀子さんに恨みを募らせているらしい。
刀子さんの身を案じながら、僕たちは竜宮会を後にした。
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