表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第四章/杉井豊花【破】
59/264

Episode54/愛のある我が家(中)

(90.)

 火曜日の放課後。

 今日も僕は、宮下や瑠璃、瑠衣たちと言葉を少し交わしたあと、愛のある我が家へと向かった。


 二日目だというのに緊張感が緩和している。

 昨日あった出来事が、どれもこれも現実感の薄い事ばかりだったから……かもしれない。自分でも断言できない。


「豊花さん。本日は闇金の回収を舞香さんと行ってきてください」


 邂逅一番、沙鳥は僕に対してそう命令してきた。

 愛のある我が家の室内には、舞香と沙鳥と僕の三人しかいない。

 おそらく今回も、皆それぞれ仕事に出掛けているのだろう。

 そう考えているのを肯定するかのように、沙鳥は小さく頷いた。


「それじゃ、豊花。さっそくだけど、制服を着替えて?」


 舞香は言いながら衣類を渡してきた。


「あ、はい……」


 

 昨日よりは多少地味になったけど、またワンピースか……。

 普通の衣服はないものかと愚痴を溢しつつ、制服からワンピースに着替える。

 そのまま僕は、舞香に連れられ外へと出た。





「闇金と言っても、要するにやることは普通の金貸しと一緒よ」

「……そもそも普通の金貸しがわからないんですが」


 というか、きちんとしたサラ金なら、金の貸し借りは店舗でやるんじゃない?

 なのに僕たちはいちいち足を使って現地にまで赴いている。


 古びたアパートまで足を運んだ僕たちは、とある部屋の前までやってきた。

 舞香がチャイムを鳴らすと、びくびくと怯えた表情を浮かべる痩せこけた男性が扉を開けた。


 舞香は男に手のひらを差し出した。


「きょう回収日だけど、お金はきちんと用意してる?」

「す、すみません……まだ用意できていないので、利子だけで大丈夫ですか?」


 男性は挙動不審になりながら舞香に対して数枚の万札を手渡した。


「構わないわ。それじゃ、また十日後くるわね」

「はい、すみません、すみません……」


 男性は震えながら玄関を閉めた。


「これで元金の回収はできたわ。あとは搾り取れるところまで搾り取るだけね」

「あの……元金の回収とは?」


 アパートを後にしながら、僕は舞香に質問した。

 元金……借りた金額の事だろうか?


「ああ、言っていなかったかしら? 私たちの利子は十日で三割。彼は10万借りて、利子だけの三万円を四回返した。だから、あとは利子だけ返し続けてくれれば、それだけこっちの儲けになるのよ」


 とんでもない暴利な金利だ。

 普通のサラ金で借りたほうがいいんじゃないだろうか?

 僕の表情から察したのか、舞香は口を開く。


「いいえ。それができなくなったから私たちから借りにくるのよ」なにが言いたいのか伝わったのか、舞香は説明してくれた。「サラ金にもお金を返せなくなった人たちが、私たちを頼るようになるの」

「え、でもそれだと僕たち闇金へなんて、さらに返金できないんじゃ……」


 普通のサラ金にさえ返済できない状態なら、闇金になんてもっと返済できないと思うんだけど……。

 歩きながら会話をつづける。


「無理やりにでもお金を返させる方法もあるわ。でも、相手も相手で私たち闇金を怒らせたらなにされるかわからないっていうのは一番理解しているから、多少無茶してでも利息だけは返金しようとしてくるのよ」

「ああ……たしかに」


 なにをされるかわからないーーそれは、たしかにとてつもない恐怖だろう。

 特に、相手(舞香)の素性を知るひとほど……。


「でも、やっぱり返せなくなる奴が大半だから、そういう人から回収するには、まずは両親や兄弟姉妹、友人宅に連れていき、立て替えてもらうわ。知り合いや両親もいない相手なら、男なら蛸部屋、女なら売春か風俗に行ってもらって、そこで稼いでもらうしかないわね」

「……」


 蛸部屋……風俗……両親から……兄弟姉妹……。

 やっぱり、かなり悪どい商売に思える。


「次はここね」


 新たなアパートまでたどり着き、一階にある部屋の玄関のチャイムを舞香は鳴らした。

 しかし、しばらく待っても出てこない。


「いないんじゃ……」

「なら、たしかめましょ?」


 舞香はそう言うなり僕の手を取ると、いきなり室内に転移した。

 中はさながらゴミ屋敷。辺りにゴミ袋が散乱し、汚臭が漂っている。


 そんな室内にあるソファーには、怯えた顔で舞香が来たことに恐怖を全身で露にしている二十代後半ほどの男性が座り込んでいた。


「居留守なんて、いい度胸しているじゃない?」

「ひぃ! すみませんすみません!」


 舞香が男の胸ぐらを掴むと、男性はひたすら必死に謝る。


「で、お金は?」

「すみません……まだ用意できてなくて……とても返せそうにないんです……次、次熱いレースがあるんです! それまで待っ」

「お金ないのに競馬? 仕方ないわね。なら、このスマホは貰っていくけどいいわね?」舞香は机に転がっているスマホを手にした。「ちょうど新しいトバシケータイ欲しかったのよ」


 男はおどおどしながら舞香に近寄る。


「すみません、それだけは……」

「じゃあ、お金はあるのかしら? お金を払うか、この携帯を私に貸すか、どっちかにしてもらえる?」

「……」


 男は涙目でスマホを諦めたのか、舞香に詰め寄るのをやめた。


「これが今回の利子分ね。勝手に電話会社に連絡しないでよ? お金さえ返してもらえば今回のことはチャラにしてあげるから。あなたの借金はもう50万に膨れ上がっているんだし、次回もちゃんと返済してよね? 無理なら両親の(もと)に一緒に行くことになるわよ?」

「……すみませんそれだけはっ……」


 男性は土下座をしてまで許しを乞う。

 そんな男を舞香は冷ややかな目で見ると、そのまま男のスマホをポケットに入れてアパートを後にした。


「あの、トバシケータイというのは?」


 再び歩きながら舞香に質問する。


「トバシケータイはトバシケータイよ。ずっと同じスマホを使っていると寒いから、定期的に身元不明のケータイに変えて、なるべく足がつかないようにしているのよ」

「う、うーん?」


 言っている意味がいまいち理解できない。


「他人にケータイを用意させれば、警察も追跡しにくくなるわ。さあ、今日の回収は終わったから、一旦帰宅するわよ」


 案外、瑠奈のときとは違い、短時間で仕事が終わった。


 そのまま僕と舞香は愛のある我が家に戻るのであった。





 愛のある我が家のいつも皆が集まる一室を目指しながら、ふとまえまえから気になっていたことを質問することにした。


「舞香さんって、その……一時期覚醒剤に依存していたんですよね?」

「……ええ、そうよ」

「やめられたんですか?」


 舞香は左手で右腕を掴むと、なにかを思い出すかのように弱々しく震え始めた。


「まだ……やめられた、なんて言えないわ」


「でも、見た限り普通ですし」服装が高校の制服という点以外は。「世間で言われているほど危険な物なんですか?」


 舞香は少しも考える素振りを見せずに「当たり前よ」と肯定した。


「覚醒剤ほど危険な薬物なんて、あとはヘロインや脱法ドラッグくらいな物よ」

「よくやめられましたね」

「だから、やめられたとは言っていないわよ……今でも突発的に虫がわいてやりたくなるわ。それを我慢するのが、どれほど、どれほど大変なことか……」


 舞香の手は未だに震えていた。

 やっぱり、この反応を見るに覚醒剤は毒物なんだ。

 沙鳥は欲しがるひとに売っているだけと主張していたけど、それは本当に対等な取引なんだろうか?


「覚醒剤はね? やり始めは『どうしてこんなに素晴らしい物を今まで知らかったんだ!』とか『全然平気じゃん』とか『やらなくても平気』と思って使い続けちゃうものなの。けど、気づいたときにはもう依存症よ。一生忘れられなくなる。ポン中になると嘘つきになるし、次第に精神と肉体が蝕まれていく。豊花もやっちゃダメよ?」


 言われなくても、やる気なんて一切おきない。

 ただ、学校で習った薬物依存症とも、また違う印象を受けた。

 現に舞香は、発狂したり口から泡噴いたりしていない。

 真の覚醒剤の怖さが、偽りの覚醒剤の怖さで隠されているような気さえした。






(91.)

 一通り本日の仕事が終わり、制服に着替えて帰宅することにした。


「お疲れ様です、豊花さん。とはいっても、今回はあまり活躍の場はなかったみたいですが」


 沙鳥にそう言われて、僕は素直に頷いた。


「そうですね……瑠奈といるときよりは平常に終われました」

「それは良かったです。中には相手が警察に駆け込んだり、暴力沙汰になることもありますので、今回は平和に終わってよかったですね」


 舞香が沙鳥に近寄る。


「今日はまだパンクしていない客ばかりだから楽だったわ」


 よく知らない専門用語のせいで、自分には半分理解できなかったけど……覚醒剤の密売よりは自分にできそうな気がした。

 しかし、覚醒剤の密売とは違い、会うひと会うひと皆が皆、舞香に恐れてなんとか工面していた。


 稼いだお金を利子として回収されていく。

 でも元本は消えない。

 永久に金を払わされつづける。


 大抵の相手は、すでに最初に借りた金額を上まわる借金を背負っているようにしか思えない。

 愛のある我が家に置いていってしまった制服に着替え、「きょうはもう帰っていいですよ」と沙鳥に告げられ、お言葉に甘え、僕は二人に別れの挨拶を済ませ、愛のある我が家を後にした。





 後にした直後、既に夕方が終わり夜になった頃、帰路を歩いていると沙鳥から急に連絡が来た。


『制服のままで構いませんので、みかじめ……いえケツモチとして金銭を受け取っている風俗があるのですが、言うことの聞かない暴れる客が現れました。今から言う言葉を暗記して、相手を脅し、二度と来れなくしてあげてください』


 沙鳥は言い聞かせるように、僕に台詞を何度か伝えてきた。


「え……いきなりそんなことを言われても無理なんですが……」

『これくらいひとりでできなくては困ります』


 と、電話口で言われてしまった。

 どうやら六花(ゆき)は別の店舗に行っているらしい。

 僕にどうこうできるのだろうか?

 緊張しながら、沙鳥に言われた言葉を暗記して、その某性風俗店へと足を運ぶことになってしまった。





 あまり乗り気ではないまま、ちょうど帰路に近い場所にある風俗店の前に立っていた。


 どうやら、この風俗店で本番を強要した男性がいるらしい。

 本番?

 風俗って性交する場所だと思っていたけど、本番とはなにを指すんだろう?


 まあ今はいいや。


 その男は一度では懲りず再び本番を強要してきたうえ、また、相手が強面の客であることから、ボーイも対処に困っている真っ只中だという。

 そこで、用心棒(ケツモチ)として依頼している愛のある我が家に連絡が来たらしい。


 ちょうど一番近場にいた僕に任せてみようと沙鳥は決めたらしく、僕はその風俗店にびくびくしながら入るはめになった。


 店舗に入ると、そこには強面の男性客をどうにか引き留めているボーイが視界に入った。

 そんな争いの真っ只中に、まだ中学生にしか見えない僕が入っていくのだ。

 客のみならず、店員すら僕を見ながらガヤガヤしていた。


 そりゃそうだ。

 いきなり店舗に現れたのは14歳の少女なのだ。

 僕を知らない客やボーイはびっくりしてしまうのも無理はない。

 普段用心棒として来るのは六花(ゆき)だろうし。


 それに、騒ぎを起こしている男性客のほうが、圧倒的に僕より背丈が高い。


「あれ? 愛のある我が家の関係者ですか? 六花(ゆき)さんはどうしたんですか? 貴女はいったい?」


 ボーイは不安そうな瞳をしながらも、僕が愛のある我が家の一員であることを真っ先に思い至ったみたいだ。

 それもその筈。六花(ゆき)より背丈はあるが、男性用風俗店には場違いな風貌をした制服姿の女子高生。しかも見た目は女子中学生だ。

 愛のある我が家の関係者以外ならなんだって話になる。


「あ、えっと、その……単なる客なら僕一人でも対処できるだろうからって、沙鳥さんに言われて」


 学校の制服を着ているだけでも場違いなのに、未だに着なれていないため、服のサイズが合っておらずブカブカになっている。

 萌え袖とはまさにこういう格好を言うのだろう。


 一応、リボンタイを外したり上着を脱いだりしているため、風守学校の生徒だとは感付かれないだろうけど、頼りないふうに思われても仕方がない格好だ。


「あん? そいつなら本番してもいいってことか? なら早く服脱げよ! げひゃひゃ!」


 気味悪く嗤う男性客に対して、僕は折り畳み式のナイフを取り出した。


 脅しには武器だ。

 か弱い少女である僕にとっては、腕力で暴力を誇示することはできない。

 そのぶん、刃物など得物が重要になる。


 僕はナイフを順手に構えて男性客に向ける。


「お、おい、なにするつもりだよ……冗談だって。こっちに来てみろよ」


 見え透いた嘘だとわかる。

 しかしまあ、間合いを詰めるにはちょうどいい。

 男性客に言われるがまま、僕はナイフを手にしたまま歩み寄る。


「なんてな! ここはクソガキが来る場所じゃねぇんだよ!」


 激しくビンタしようとしてきた男性客だったが、それを僕は片手で叩き矛先をずらした。

 多少こちらも痛いが、致し方ない。

 そのまま僕は、男性客の腕に軽くナイフの切っ先を当てた。


「いっ!?」


 男性客は情けない悲鳴を上げる。


「えっと、たしか……」僕は沙鳥から言われ、あやふやなまま暗記した言葉を想起する。「店のルールが守れないなら、早く出ていってください。じゃなければ、痛い目にあったあとで大変な強制労働が待っていますよ?」

「こんのクソガキが! 可愛いからって調子に乗りやがって!」


 風俗店の中だというのに、相手の男も、まさかのまさか、ナイフを取り出してきた。


 下卑た目線で勝ち誇ったような表情を浮かべ、怖いだろうと僕を脅す。

 しかし僕にとっては、ナイフを向けられたことは少ないながら、毎度のようにか弱い外見に油断し、こちらを弱者だと見る人間が多くて嫌になってきていた。


「またなのか……」と、ついついため息を吐く。


 最近、僕はありすに特訓されたおかげなのか、実戦で武器を向けられたからか、今までのような緊張をしたりはしなくなっていた。

 僕は特に気にした様子は浮かべず、男性客に近寄る。


「……なめてんのか、ああ!?」


 男性はついカッとなったのか、本来なら暴行以上の行為をーー少女という姿をした僕に向かいナイフを大振りしてきた。

 しかし僕は、それを予め察知していた。

 というより、最近は直感以前に、次に相手がなにをするのか予想ができるようになっていた。

 そのため、身軽にそのナイフを避ける。

 そのまま、相手のナイフに強くナイフの刃を叩きつけ、握り方が甘い男性客のナイフを弾き飛ばした。


「ええっと……たしか……そうだ」僕は沙鳥に言われた言葉を男性客に伝えることにした。「どうしますか? 蟹漁船に乗って仕事をするか、多額の借金を作りたいのか、蛸部屋に行くのか?」


 明らかに異常な振る舞い。

 相手からしてみれば、ナイフを怖がるどころか、まさか反撃されるとは思っていなかったのだろう。

 男性客は唖然とした表情をしたあと、すぐに顔を真っ赤にした。


「ちっ! くそ、もうこんな店二度とこねぇ!」


 そんな捨て台詞を吐きながら、男性客はそそくさ外へと逃げ去っていった。


「ありがとうございます。これ、少ないですが今月分のお金です。貴女もお強いんですね。流石、愛のある我が家の方です」


 普段から六花(ゆき)という異常を見慣れているせいか、僕に対しても尊敬するかのような瞳を向けつつ、金銭の入った封筒を渡してきた。


「えっと、いや、その……」


 ボーイから封筒を手渡され、僕は戸惑いながらも頭を下げ、封筒をポケットにしまい風俗店を後にした。


 これを後々、沙鳥に渡せば今回の仕事は完了だ。





 店を出て、その場で夜空を見上げた。


 ーーどうしてこんなことになったのだろうか?


 一部の裏社会や客の中では、中学生くらいの一見弱々しく可憐な見た目をした少女には気を付けろ、とまで噂が回ってしまった。

 いくらなんでも噂が立つのが早いだろう。

 おそらく、昨日瑠奈と制裁に行った売人が、同じアングラ仲間にでも広めたのだ。


 はた迷惑な……。


 学校から帰宅したあとのアルバイトのようなものだが、内容が内容だ。

 犯罪の片棒を担いでいる気しかしない。

 いや、実際に担いでいるのだ。


 さっきのだって、用心棒とは言いつつ要するにみかじめ料を搾取しているのだろう。

 みかじめは犯罪だ。

 ヤクザに対しては、で、異能力犯罪組織のみかじめ料搾取も犯罪なのかは僕の知識不足でわからない。けど、多分違法だろう。


 改めて物思いにふける。


 こうなった理由は仕方ないとはいえ、まさか自分がこんな仕事ーー犯罪をすることになるなんて、少しまえには考えていなかったことだ。


「裕璃はもうこちらの世界にはいない。異世界で暮らしてるんだし辛いだろう。僕も学校に通っているとはいえ、異能力者保護団体との縁は切れた……」


 さらに、特殊指定異能力犯罪組織ーー愛のある我が家の一員になってしまった。

 僕はついつい呟きながら帰路につく。


 空はとっくに暗くなり、月の明かりが爛々と輝いている。


 ふと、僕はスマホが鳴っていることに気がつく。

 慌ててスマホを取り出し、僕は相手を確認する。

 そこには嵐山沙鳥と書かれていた。


「もしもし、沙鳥さん?」

『まだほとんど仕事に慣れていない状況で、豊花さんはよく頑張っておられます。件の風俗店から感謝の連絡が届きましたよ。六花(ゆき)さんの方は六花(ゆき)さんが片付けました。もう帰宅して大丈夫ですよ』

「あ、はい……」


 さっき帰宅していいと言っていたのに、なにかあればまだ仕事をさせる気だったのか。

 沙鳥から連絡を受け、ようやく僕は自宅へと向かうのを再開した。 


 異能力者保護団体から抜けて、愛のある我が家に所属した僕は、予想以上に大変な仕事に疲労気味だった。

 まだ二日目だというのに、緊張と疲労で心身ともにくたくただ。

 特に精神面で疲労している。


 どうしてこんな仕事をする羽目になったのか?


 スマホを耳に当てながら夜空を見上げ、ぼんやりと思いに更けってしまう。


 裕璃を助けるためとはいえ、このまま犯罪組織側に着いたままでいいのだろうか?

 とはいっても、今さら異能力者保護団体には戻れない身の上だ。


『ああ、そうでした。伝え忘れていたことがありました。明日、緊急会議を開きます。必ず参加してください』

「会議?」


 まだ通話を切っていなかったと、慌てながら耳に意識を向ける。


『ええ。なにやら『真実の愛』なる組織が、愛のある我が家、要するに私たちと、それにーー』沙鳥は一息ついてつづけた。『ありすさんが言うには、瑠衣さんや瑠璃さんたちの命を狙っているという情報が入りました』


 ーーえ?


 瑠衣や、瑠璃たちの命を狙っているだって!?


『一応、偶然ながらありすさんにお二人の護衛をさせておりますが、なにより相手の組織が新生なだけあって、なにが目的なのかも不明瞭なのです』


 ですから、明日緊急会議を開きますーー。

 沙鳥はそう告げると、通話を切った。


 どうして……瑠璃たちの命が狙われているんだ……?


 突発的な出来事に対して、僕はしばらく呆然としてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ