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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第四章/杉井豊花【破】
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Episode51╱-謎の少女とその正体-

(??)

「覚醒剤をそのまま売るなんてもったいねぇ。かさましして売り付けたって薬中ごときにバレやしないだろ」


 ひとりの男性は呟きながら、覚醒剤の結晶をあえて粉々にすると、水に溶けやすい不純物を混入していた。

 部屋はボロアパートの一室で、男性以外には誰もいない。


 と、いきなりチャイムが鳴る。

 男性は気にせず出ようともしない。


 ーーどうせ新聞の勧誘かなにかだろう。


 男性はさして気にせず混ぜ物入りの覚醒剤をパケに入れる作業をつづける。


「愛のある我が家産は純度が高い。一時期北から密輸されてきた1級の覚醒剤に勝らずとも劣らずだ。多少混ぜ物しても問題ない。コストを減らすにはこれが一番だ」


 男性は誰に話しかけるでもなく、独り言をつづける。

 すると、急に玄関から激しい破壊音が男性の耳に入る。

 ハッとして振り向くと、玄関に左右上下に亀裂が入り、そのまま玄関はガラガラと崩れ落ちた。

 そこには、男性が覚醒剤を購入している異能力犯罪組織に属している見知った少女ーー微風瑠奈と、隣には見覚えのないドレス風のきらびやかなワンピースに身を包んだ14歳の少女が現れた。


「な、なにをするんだ!?」


 男性は唐突な出来事に湯沸し器のように怒りのボルテージが上がり、微風瑠奈に疑問を吐き出す。


「なにって、わたしたちの商品にふざけた真似をした奴を罰しに来たんだよ」

「ふ、ふざけた真似……?」


 男性はふと思い出す。

 愛のある我が家で覚醒剤を購入したとき、それを売る際には決して混ぜ物を混入してはいけないーーと忠告されたことを……。


「苦情がこっちにまで来てるんだよ。てめぇ、許可なくうちのブランド名出した挙げ句、混ぜ物なんてつまらねぇ真似しやがって。しかもそれカルキ抜きか? ひでーよな? ケジメ付けなきゃいけねーよな? ねえ、豊花ちゃん?」


 切れ気味の微風瑠奈に対して、豊花と呼ばれた少女は今からなにが始まるのだろうかという戸惑いを顔に浮かべている。


「ひっ……!」


 男性は微風瑠奈が恐ろしい存在だと知っていた。

 アングラ仲間から注意が促されていたほど、凶悪な“異能力者”だと。

 微風瑠奈は異能力者ではなく精霊操術師なのだと勘違いをしていたが、凶悪な異能の力を持つことには違いない。


 ならば、と。

 男性は慌てて見たことがないワンピースを着ている少女に向かって、人質として捕らえようと躍起になり襲いかかるが……。

 少女はまるで、男性が襲いかかるのを分かっていたかのように華麗に避ける。そのまま手に握るナイフを真横に振り、男性を浅く切り裂く。

 男性は怖じ気づいて数歩下がる。


「さて、どんな制裁が必要だと思う?」


 少女は微風瑠奈に訊かれても、なにがなんだかわからないといった様子で見ているだけだ。

 その隙に、男性は再度その少女を、今度は玄関の脇から逃げるため、殴り飛ばそうとするが、少女は男性の拳の位置にちょうどナイフの刃を向けて、男の攻撃を静止させた。

 まるで男性の行動が予めわかっていたかのようにーー。


「とりあえず、罰として二つ」


 微風瑠奈は男性の顔面を掴むと、風の力を使い壁へと叩きつけた。壁にヒビが入るほどの威力に、男性はピクピクとし血塗れで地面に倒れ伏す。


「もう二度とおまえにはネタを供給しないから。もしも次、愛のある我が家の名前を出してみろ? おまえを単なる肉塊の達磨にしてやるから覚えとけ」


 微風瑠奈が、意識があるかわからない男性に切れ気味でそう告げると、少女と二人で部屋から出ていった。






(??.)

 とある風俗店で本番を強要した男性がいた。

 男性は一度では懲りず二度目の来店で再び嬢に本番の強要を迫り、また強面の客であるためボーイは焦り毅然とした対応ができず、仕方なく用心棒として雇っている愛のある我が家へと連絡した。


 強面の男性客をどうにか引き留めること数分、店舗に現れたのは14歳ほどの美しい少女だった。男性客より背丈は20cmほど低い。


「あれ? 六花(ゆき)さんはどうしたんですか? 貴女はいったい?」

「あ、えっと、その……単なる客なら僕一人でも対処できるだろうからって沙鳥さんに言われて」


 格好はどこかの学校制服を着ているが、着なれていないのか、服のサイズが合っておらず袖が余っている。

 頼りないと思われても仕方ない程の格好をしていた。


「あん? そいつなら本番してもいいってことか? なら早く服脱げよ! げひゃひゃ!」


 気味悪く嗤う男性客に対して、少女は折り畳み式のナイフを取り出した。順手で構えて男性客に向ける。


「お、おい、なにするつもりだよ……冗談だって。こっちに来てみろよ」


 男性客に言われるがまま、しかしナイフを手にしたまま少女は歩み寄る。


「なんてな! ここはクソガキが来る場所じゃねぇんだよ!」


 激しくビンタしようとした男性客だったが、それを少女は片手で叩き矛先を少しズラし当たらないように攻撃を逸らす。

 そのまま少女は、男性客の腕にナイフの切っ先を当てる。


「いっ!?」


「えっと、たしか……」少女は暗記した言葉を想起する。「店のルールが守れないなら、早く出ていってください。じゃなければ、痛い目にあったあとで大変な強制労働が待っていますよ?」


「こんのクソガキが! 可愛いからって調子に乗りやがって!」


 風俗店の中で、相手の男性もまさかのナイフを取り出した。

 下卑た目線で勝ち誇ったような表情を浮かべ、怖いだろうと少女を脅す。

 しかし少女は、「またなのか」とため息を吐くだけで、特別気にした様子は見受けられない。


「……舐めてんのか、ああ!?」


 男性はカッとなり、少女に向かけてナイフを大振りする。

 だが少女は、それを予め察知していたかのように避けると、ナイフで男性客のナイフを弾き飛ばした。


「ええっと……たしか……そうだ。どうしますか? 蟹漁船に乗って仕事するか、多額の借金を作りたいのか、蛸部屋に行くのか?」

「っ!? くそ、もうこんな店には二度とこねぇ!」


 捨て台詞を吐き、男性客は外へと逃げ去った。


「毎度ありがとうございます。これ、少ないですが今月のお金です。あなたもお強いんですね」

「えっと、いや、その……」


 ボーイから封筒を手渡された少女は、頭を下げながら風俗店を後にした。




 少女はその場で夜空を見上げる。


 どうしてこんなことになったのだろうか、と少女は思う。


 学校から帰宅してから行うアルバイトのようなものだが、少女からしたら、犯罪の片棒を担いでいる事実を判然と認識していた。

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